その53
外来患者と職員の注目の的になってる事にやがて気づいた二人は、早々にその場を後にした。
人の少ない中庭に行き、二人で目を合わせて笑った。
しかしどことなくぎこちない様子の槇原に柳が怪訝な顔を向けた。
いや・・と槇原は言いにくそうに口を開いた。
「・・・中野のことが好きじゃなかったのか?」
柳は少し笑いながら言った。
「好きだったし、欲しいとも思ったわ。」
そして、でもね・・・と続けた。
「結局いつも、一番欲しいものは手に入らないんだって思ってたの。だから諦めるのが上手になったんだって。」
槇原が、少し顔をゆがめて柳の告白を聞いた。
柳はそんな槇原を見つめて、そして笑って言った。
「大事なのは、欲しいものじゃなくて、必要なものだっって気がついたの。」
槇原は、柳の顔を見つめる。
「中野君に振り向いてもらえないからって、その寂しさを埋めるために、救急にあなたの顔を見に行ってたの。」
槇原の頬を自分の両手で引き寄せながら、柳は続けた。
「その内に、寂しさを紛らわす事が目的でなく、あなたに合いに行く事が目的になってるのにきずいてなかったの。」
槇原が、目を見開いて何か言いたげにしていた。
「美香ちゃんと話してて、自分が欲しいものに目を奪われて、自分が必要としてるものに目を向けてない事に気づいたの。」
柳は槇原のおでこを自分のにくっつけて続けた。
「それに気がついて、考えてみたら、欲しいものでなくて、必要なものはいつも手に入れていたわ。」
ゆっくりと陽子は、槇原の唇に自分の唇を近づけてささやく。
「好きになってくれてありがとう。あなたを失いたくない。」
・・・そして、口付けた・・・・・・・
美香を送って、仕事を片付けて、僕は救急によった。
槇原さんに事の顛末を聞こうとしたらいきなり怒られた。
「おまえなぁ!!あんなとこに置いていくなよ。」
・・・・?何の事だろう・・・・?
僕のわけがわからないといった様子に、槇原さんが続けた。
「せめて、人員整理をするとか?恥ずかしい状況になってる事にきずかせてくれるとか?」
「・・・あんなところでプロポーズしたのは、槇原さんでしょう?」
僕は呆れながら返した。
槇原さんは、それはそうなんだがとぶつぶつ言いながら、でも置いてかなくても・・・とまだ言ってる。
「槇原さん、TPOって知ってますか?」
僕の言葉に、槇原さんはしかめっ面をした。
「・・・知ってる。」
僕は、追い討ちをかける。
「その常識と照らし合わせて、病院玄関はプロポーズにふさわしい場所と思えますか?」
槇原さんが唸った。
僕は、ますますの追い討ちをかける。
「まあ、柳に嫌われたくないのなら、結婚式場はちゃんとした場所を選んでくださいよ?」
唸りながら、わかった、と呟く槇原さんを見てたら笑えて来た。
・・・・しあわせになってください。・・・・・・・




