その44
お読みくださりありがとうございます。
清水澄 拝
救急車が到着し、病院名を告げて、搬送を依頼した。
救命士がバイタルサインを僕に言ってくれた。
「血圧 90/40 脈拍140」
僕は美香に普段の血圧を聞くが、知っているはずもなく・・・。
「美香、最後にご飯いつ食べた?。」
「・・昨日の朝、ヨーグルト少し。」
「水分は飲んでるか?」
僕の問いに首を振って、だって吐きそうになるんだもの・・・と小さく答える。
脱水も起こしてるかもしれない・・。
「生食でライン取りたいんですけれど、ものありますか?」
美香の年齢であればそんなに低い値ではないが、念のために輸液路を確保した。
僕の様子に、義弘が目を丸くする。
「・・・まるでお医者さんみたいだ・・・。」
一応医師です・・・と、義弘の呟きに心の中で、突っ込みを入れる・・・
ライン確保し輸液量を調整して、美香の状態を観察する。
美香は相変わらず、何も言わずに痛みをこらえる。
腹膜炎起こしているかもしれない、、、、。
僕は美香を抱きしめながら、早く病院について欲しいと祈る。
美香も僕にしがみ付いて離れようとしない。
義弘は、そんな僕達をずっと見ていた。
救急について、槇原さんに申し送った。
槇原さんは僕の申し送りを聞きながら、超音波の検査をして、血液データーを見て僕に向かって”あたり”・・と言った。
CTも撮り、同時に術前準備が進められた。
槇原さんが僕に言った。
「お前家族にムンテラして、OPEの了承をとれ。承諾書のサインはおまえでいいな?」
・・・え?僕が一人でムンテラ・・・?そういえば、叔父さんに連絡取るの忘れてる。
僕はあわてて、叔父に連絡を入れた。
叔父にすぐ来てもらうように伝えて、僕はモニタールームに向かおうとしたら後ろから声をかけられた。
「君が中野君か?」
振り返ると、腹部外科の準教授がいた。
「角野先生・・・どうしてここに・・?」
笑いながら、角野先生が言われた。
「槇原にアッペの手術しろって呼ばれてね。」
僕は、びっくりした。虫垂炎のOPEごときになんて人を槇原さんは呼び出してるんだろう?もし僕の誤診だったらどうするつもりなんだろう?
「すみません、僕のわがままでお休みのところお呼びだてして!」
僕の言葉に、不思議そうな顔をして、彼は言った。
「・・槇原が、アッペの患者見てくれって言うし、面白そうだから来てみただけだけど?」
笑いながら続ける。
「アッペごときで、僕を呼び出すし、どんな患者か興味あったし・・。君が噂の中野君か?」
僕を見て続けた。
「誤診しやすい虫垂炎よく見つけたな?もっとも開けてみないと本当かどうかまだわからんけれどもな?一年目だったっけ?」
僕がはいと答える。
「・・ふ~~ん、どうする?腹腔鏡でしたほうが良いか?傷も小さいよ?」
僕は即答した、
「いえ、症状と経過から考えて、穿孔してる可能性が高いので、開腹していただいたほうが良いと思います。本人には僕から説明させていただきます。」
「・・・女の子だろう?他の病気の可能性は?」
「今の状況では、可能性が一番あるものを考えて、槇原さんにお願いしました。」
その槇原さんはニヤニヤ笑いながら僕と角野先生の会話を聞いていた。
僕が睨むと、視線をそらし、角野先生を見て・・頼むわ・・・という。
「君は外科にはいつ来るの?」
「あすからです」
ふ~~んと呟いた後角野先生は言った。
「じゃあ、君、切ってくれるかな?」
・・・!!!はぁ?!!今なんておっしゃりましたか?・・・・
僕の驚きを全く気にせずに、角野先生は続けた。
「僕、補助ではいるから。頼んだよ?」
・・・・本気ですか?・・・・
槇原さんを見ると、僕を無視して去っていった。
僕が美香の執刀をするのか・・・・?
OPE室の入り方から教わって、美香の小さな体と向き合った。
全身麻酔のために、美香はすやすやと寝ていた。
美香の白いからだが手術台の上に置かれて、その上を緑の布で覆う。
顔が見えないのが幸いだった。
気持ちを切り替える。
コレハミカデハナイ。13サイノセンンコウセイチュウスイエンウタガイノジョジダ
「さあ、始めようか?」
角野先生の呼びかけで、手術は始まった。
白い皮膚にメスをいれた。
角野先生の横から時々出る指示に従い、OPEをすすめた。
病巣を除去し、腹腔内を洗浄し、ドレーンを入れて終了した。
「思ったよりも、炎症が限局してたし助かったな?腸をつなぐ必要があったら、さすがに、変わろうと思ったんだけれどもね。」
いたずらっぽく角野先生が笑い。僕はほっと一息ついた。
「ありがとうございました。」
僕が御礼を伝えると。
「いや、槇原が良く噂してたし、一度会いたかったんだ。」
とまた笑う。
・・・・・槇原さんが噂?・・どうせまたろくでもないことだろう。・・・
僕の怪訝そうな顔を見ながら、じゃあ、後はよろしく、またね・・と去っていかれた。
その後姿を見送る。
後ろに人の気配を感じて振り返ると、何時の間にか、槇原さんが来ていた。
「術後は主治医になるように、手配したから今日から頼むぞ?」
・・・・?!いきなりですか!!でも考える間なく、僕は即答していた。
「はい。」
にやっとわらって槇原さんがいった。
「・・・おれが、上につくからな・・・。」
・・・・・それは、ひょっとして、研修医の僕に○投げすると言う事ですか・・・?
槇原さんの言葉に、槇原さんを唖然と見つめる僕に、槇原さんは続けて言う。
「ほら、いくら虫垂炎とはいえ、術後の指示を病棟が待ってる。急げ!!」
僕は追い立てられるように、病棟に向かいパソコンを立ち上げた。
麻酔が覚めて、病棟に美香がもどってきたと告げられた。
僕は、美香の様子を見るために、彼女の病室に向かった。
美香はまだ、うとうとしていた。
僕は美香の耳元に近づいて、美香にささやいた。
「美香?美香の手術は僕がしたんだよ?初めての手術だったんだ。」
美香が少し目を開けて言った。
「うん、夢の中で優ちゃんの声が聞こえた。ありがとう。」
そして、美香は再び眠りについた。僕は残りの指示だしをするために、再び詰所に向かった。
僕はこのとき、義弘の存在を忘れていた。・・・というよりも、もうとっくに帰ったと思っていた。
・・・・・・夕方、もう一度美香の病室で彼と出会うまで・・・・。




