その41
もうすぐ、僕が医者になって、1年が経とうとしていた。
一年前よりも出来る事は増えたが、医師としての技量はもちろんまだまだ。
一人で患者さんなど、見ることも叶わず・・・。
・・・・・それよりも、この自分の1年間の成長を思うと、あと一年たって一人で患者さんの責任を負うことになると言う事実が恐ろしくもあった。
無我夢中の毎日だった。
美香は、変らず時々アパートの片付けと、食材の補充に来てくれた。
だけれども、忙しい僕が帰る頃には美香はいず・・。部屋が片付いて、冷蔵庫の中身が増えている事で来てくれた事を知る毎日だった。
そんな美香に、御礼をと思ったが、美香は携帯の使用料分だからと、受け取ってくれない。叔父さんたちに悪いからと交通費のみはやっと受け取ってくれた。
前はそれでも、色々なわがままをもう少し言ってくれていたように思うのに、何故か あのお泊りから、僕に何も要求してこない美香が寂しくもあり、不思議にも思った。
そんな僕の気持ちが神様に通じたのか、その電話が美香からかかってきた。
久しぶりに美香のほうからかかった電話に僕は胸を弾ませた。
「どうしたの?美香からなんて珍しい。なんかあったの?」
僕の弾んだ声とは違い、美香は言いにくそうに言った。
「・・・・優ちゃん・・忙しいよね・・・。」
・・・?何のおねだりだろう?・・・・
「時間を作れば良いの?どうしたの?」
言いにくそうに美香が続ける。
「・・よっちゃん・・・泉先輩がね。高等部へ進級するんだけれど・・・。」
・・ああ・・そう言えば、そんな奴もいたよな・・・。
思わずため息をついた、僕の様子に、ますます言いにくそうに美香は続けた。
「・・実はね・・・どうしても、諦めきれないから、最後に遊びに行こうって言われて・・」
僕は、思わず低い声で聞いた。
「・・・・それで行くって言ったんだ・・」
「・・・・優ちゃんと一緒で良いのならって、言った。」
美香の言葉を思わず聞きなおす。
「僕と一緒?」
「・・・うん・・・ゴメンナサイ。でも美香、よっちゃんと二人なんてやだったし、ほかに頼める人いないんだもん・・」
泣きそうな美香の声に思わずあわてて僕はこたえる。
「いつって約束したの?」
「・・・今度の土曜日・・・」
僕は、頭の中で土曜日を開けるための予定変更を考えた。
・・何とかなりそう・・だ・・。
「美香大丈夫だよ?土曜日開けられるよ?」
「本当に!!」
なきそうだった声がたちまち明るくなる。
「でも優ちゃん、本当に大丈夫なの・・。」
不安そうな美香の言葉に、大丈夫と明るく言う。ちょうど休みを取ろうと思ってたとも。
安心したのか、嬉しそうな声で、良かった。さっきまで行きたくなかったけれど、楽しみになってきた。と答える美香の声を。僕も久しぶりに美香にあえて嬉しいと、返した。
・・・でもなんで、いまさら義弘なんだろう・・・
指定された日に、待ち合わせ場所に向かった。
美香が向こうから僕を見つけてかけてくるのが見えた。
僕の胸にいつものように飛び込んでくるかと思ったが、寸前で止まって、笑顔で優ちゃん久しぶり・・と言う。
たった、数週間会わなかっただけなのに、女っぽくなった美香に、僕のほうがどきまぎした。
抱きしめたい・・でも叶わない。そんな歯がゆさが僕の中を駆け巡る。
並んで歩いた時に、そっと背中に手を回すことで、その思いをごまかす。
今から、義弘と顔を合わさないといけない。僕の美香に手をこれ以上出さないように、どう釘を刺してやろうか・・・。僕はずっとそのことを考えていた。
・・・美香は僕のものだ・・・・




