その39
翌朝、槇原は楽しそうな話し声で目を覚ました。
「優ちゃん、駄目だよ?ちゃんとレタスは洗わないと。」
「・・・・・ちゃんと洗ったつもりだけれども?」
「水かけただけじゃない?一枚づつ、はがして洗った?」
「・・・・・・やり直します・・・・。」
今年入局した新人の中で、一番自分が目をかけ、彼が学生時代から自分の下で働かせたいと狙うほど優秀な男が、今自分の目の前で12歳も年下のいとこに振り回されている。
しかも自分の恋敵になってしまった。
槇原は思う。自分はあまり人付き合いのいいほうではなく、むしろはみ出ているほうなのに、気がつけばそのライバルであり、期待の新人とこんなに仲良くなっている。
・・・いったいアノ男はなんなんだろう。・・・・
槇原は二日酔いの回らない頭で、その会話を聞きながら、自分の中の答えを探してみた。
「優ちゃん、スライスオニオンはそんなに、分厚く切っちゃ駄目!!辛くて食べれないよ?」
「・・・・・・だって、美香・・・これ以上どうやって薄くするんだ?無理だよ?」
「・・・じゃあ、トマトと、きゅうり切って・・・。」
会話があまりにも面白いので、考えるのをやめて、槇原は会話に集中する。
「!!!優ちゃん!!きゅうりも洗ったらいぼとって!!へたはサラダに入れない!!」
「・・・いぼって、どうやって取るんだ?」
「!!!優ちゃん!!自分のほうに!!包丁向けたら!!怪我するよ!!」
「優ちゃん!!トマトは、包丁たたきつけるようにきっちゃ駄目!!」
何をしているんだろう?思わず覗いてみた。
・・・つぶれかけたトマトが、まな板の上に載っていた。・・・
美香が、呆れたように呟いた。優ちゃん一人暮らしのくせに、全然成長ない・・・と
優が、とても12歳年上とは思えないすねた口調で答える。
「・・・・料理が出来なくても、生きていけるから良い!!」
美香が呆れたように答えた。
「優ちゃん?食べないと死んじゃうよ?」
「・・・ずっと美香に作ってもらうから良い。」
小さく呟いた、その台詞に、美香も小さく呟く。
「・・・そんなのわかんないよ・・・。」
優希が何か言おうとしたが、槇原が見ているのに気がついて、槇原に向かって声をかけた。
朝早くから美香が起きてきて、台所に立っていた。
今日は、祝日だから急ぐ必要はないといってみたが、皆が起きる前に、朝食と弁当を作ってくれるという。
「だって、また病院にいくんでしょう?」
「それに、昨日の食材を使って、優ちゃんの食事のストックも作りたいし・・・」
ありがとうと、微笑んで思わず抱きしめてみたが、いつもならされるがままにしている、美香が逃げた。
僕の怪訝な顔を見て、美香が言いわけをする。
「・・・美香ご飯作ってるし、優ちゃん危ない・・・」
下を向いて僕の顔を見ようとしない美香に、腑に落ちない思いを感じつつ美香の言葉に従って謝った。
「なんか手伝える事あるかな?」
「・・・レタス洗って・・・」
相変わらず、僕のほうをみようとしない美香。でも拒絶されたわけではない。
僕は、美香に言われたとうり、レタスを洗うべく、水をかけた。
美香のご指導と、ご注意を受けつつ料理(?)を作っていたが、人の気配に振り向くと、槇原さんが覗き込んでいた。
「・・おはようございます。大丈夫ですか?」
「・・・?なにがだ?」
・・・フローリングの床に寝たこと、浴びるほどお酒を飲んだ事だよ?心配する必要はなかったようだ・・・・
・・・丈夫な人だ・・・
何でもありませんと、僕は返した、その横から美香が槇原さんに声をかけた。
「槇原先生、お風呂沸いてます。お入りになりますか?」
槇原さんは、美香を見て言う。
「・・みかちゃん・・その先生止めて・・俺は美香ちゃんの先生と違うし・・・だから中野も普段俺の事先生いわんだろう?」
美香は不思議そうな顔をしたが、やがてにっこり笑って。
「じゃあ!!マッキー!!で良いですか?」
槇原さんは目を丸くして、いやニックネームが欲しかったわけじゃ・・・とぶつぶつ言っていたが、やがて諦めたらしく・・ああ・・と言い、風呂場に向かう。
入れ違いに柳が、起きてきた。
「よーこちゃん?おはよう!!マッキーがお風呂出てきたらご飯にするね?ご飯とパンどちらが良い?」
柳が、きょとんとした顔で僕を見た。僕は、小さく槇原さんのこと・・と答える。
ああ・・・と笑いながら、柳が言った。
「お味噌汁が飲みたいな?」
美香がにっこり笑って、じゃあご飯ね?おかずは、玉子焼きで良い?魚もあるよ?
美香の問いかけに台所に向かい、美香の言うおかずを次々食べたがる柳に呆れつつ、僕は美香の指示を仰がなくても、自分に唯一できる。コーヒーメーカーにコーヒーをセットするという仕事に取り組んだ。
美香の、優ちゃんお水こぼさないで!!という非難の声を浴びながら・・・。
こんにちは、お読みくださりありがとうございます。
ここで、折り返し地点の(はず)です。
宜しければ、もう少しお付き合いいただけると、嬉しいです。
清水 澄 拝




