その28
日曜日の朝早くから出勤して、患者さんの診察と月曜に向けての雑用を片付けて、お昼前に僕は、待ち合わせ場所にしていた中庭に向かう。
やはり同じように、午後からの時間を空けるために朝早くから来て、一仕事を終えたらしい二人と合流した。
柳は相変わらずノーメイクだが、目のしたのクマが目立つ。
「・・・寝てないのか?」
「うん、お産で呼び出されて、その後なかなか胎盤でてこないし、出血は止まんないし・・・あせったあせった・・・まあ、私は例によって、右と左に荷物移動して、妊婦さんの手を握ってただけだけど?看護師さんに先生邪魔って怒られるし・・・」
男前に自分のいけてない行為・・いやそれともそれが唯一出来るいけてる行為というべきか・・・・・を交えて笑いながら話す。
・・・熊は熊で・・・・ICU入室中の患者が急変して呼び出されたという。
「大体、主治医の管理が悪い!!たたき起こして絞り上げてきた!!」
・・・と憤慨している・・・・
ものすごく疲れて、眠たそうな二人に、今日はやめて帰ったらどうですか?と提案してみた。
「「何で!!!睡眠不足ぐらいで!!こんな面白い事に参加しないなんて考えられない!!」」
二人に同時に叫ばれた。
・・・僕は、あんたらのネタじゃないぞ。・・・
眠たそうな二人と連れ立ってしぶしぶと美香との待ち合わせ場所に向かう。
駅の改札に向かうと、改札の横で待っている美香を見つけた。
春らしい、オレンジの花柄のシャツに短パン、ブーツを合わせてる。短パンとブーツの間から見える足が綺麗だ。
少し寒いのか、毛糸のショールを片手に持って空いた手でこちらに手を振っている。
・・・・・・ああ、可愛い・・癒される・・・
「・・・顔・・・緩んでるわよ・・・・」
僕が幸せに浸ってると、隣の魔女が声をかけてきた・・そうか、今日はこいつもいたんだった・・・。
魔女に現実を思い出されたが、駆け寄ってきた美香を抱きとめるべく、両手を広げてまっていた・・・が・・こともあろうか美香は僕の隣にいた柳の胸に飛び込んだ。
「わぁい、陽子ちゃんだぁ^^」
・・・・・行き場のなくなった僕の両手はどうしたら良いんだろう・・・。
その時熊が、僕の耳元でボソリとささやいた。
「・・・お前も実は、苦労してんだな・・・・」
・・・・誰のせいだ!!!・・・・・・
食事をしようとショッピングモールに向かった。
・・・・その間美香はずっと、柳と腕を組んで歩いている・・・・
憮然とする僕に、熊が面白そうに言った。
「二人で遊びに来てるみたいだな。」
・・・本当なら、あの横にいるのは僕のはずなのに!!・・・
美香のお気に入りの、パスタを食べて、カラオケに行く前に美香の好きなファンシーショップを覗く。
店内に柳の手を引っ張って、嬉々として入っていく美香を見ながら僕らは店の前の通路に設置されたソファーに座った。
「おまえ、慣れてるな?」
熊の唐突な発言に、あっけに取られた。
「・・・いや、なれもなにも、食事して、ショッピングして・・別に普通の事でしょう?」
「・・・・・・俺には無理・・・・どこに行けばいいのかも、思いつかない。」
・・・何言ってんだろうこの人は?僕の怪訝な顔に、熊は苦笑いしながら続ける。
「学生時代も、勉強ばっかりで、遊びに行った記憶なんかない。女の子と話すなんてしたこともない。」
まじまじとその人の顔を僕は見た。
「医者になったら、知りたい事、学びたい事が沢山あって、それどころじゃなかった。」
・・・・気がついたら、この年だ・・・
「親は結婚して、早く子供作れっていうけれどもな?その前の段階にもたどり着かない。」
黙って僕は聞いていた。
彼は続けた・・
「もう一生結婚なんて出来ないと思っていた。でもな・・・?」
怪訝な顔でぼくは彼を見返す。きらきらとした瞳で、熊は続けた・・・。
「出会ってしまったんだ・・・・・」
・・・・・・・誰にだ・・・・
「これは運命だと思うんだ!!!!」
・・・・何がだ・・・・?
「君しかいない!!なあ!中野この恋を成就させてくれ!!!」
熊は、ショッピングモールの通路にあるソファーに座り僕の手を握り、僕に向かってとうとうと、今の台詞を叫ぶ・・。
僕は、いやな視線を感じて周りを見回した。人どうりが激しく、それに伴いがやがやとうるさかった、騒音が途絶えていた・・・。
聴衆の視線が僕たちに集まっていた。
僕は思わず熊の手を振り解き大きな声で言った。
「わかりました、槇原さんの思いが彼女に通じるように、僕が一肌脱がせていただきます。まず彼女と二人っきりで、デートする事からですよね。」
引きつった笑みを浮かべつつ、僕は周りに聞こえるように確認する。
槇原さんは、不思議そうな顔をして、僕の言葉に、ああ・・とうなずく。
・・・それと同時に、静かだった場所にざわめきが戻り・・・僕は思わず脱力した。
「何やってるの・・・あなた方?」
柳が少し離れたとこから、面白そうに声をかける。
「・・・どこから聞いてた・・・?」
僕は脱力しながら、真っ青になってる熊の制止を振り切って柳に聞いた。
柳は面白そうに続ける。
「・・・う~~ん?・・これは運命だ!!・・ぐらいから?」
横目で真っ青になった熊が、ショップのアクセサリーコーナーにいる美香のほうに逃げていくのが見えた。
・・・・そっちのほうが、恥ずかしいとおもうけれど?・・・
ため息をつきつつ僕は言った。
「見てたんなら、とめろよ、助けろよ!!」
「~~え~~だって、まじめな話してるし、悪いじゃない?人の恋路邪魔するのも・・ねえ?」
・・・・ねえ・・じゃないっ・・・・・
そして、面白げに、興味深げに聞いてくる。
「あの堅物の、槇原先生の思い人って誰?」
ため息をつきつつ、返した。
「守秘義務は、守らないといけないから、言いません。」
!!!けちっ!!!
思わず返された、彼女の言葉に呆れつつ、心の中で、お前だよ・・・と僕はつぶやいた。
・・・・ほんと、何でこんな事に巻き込まれてるんだろう・・・・・
らぶは・・・どこ・・・?
清水澄 拝




