その27
ふりむくと、美香がいた。パステルグリーンのワンピースを着てこちらに走ってくる。
思わずその勢いに、熊が見ているのを忘れて、両手を広げてまっていたら僕の腕と、胸の中に飛び込んできた。反射的に軽く抱きしめて、その後ここが病院の構内だったのを思い出して、すぐ離れた。
「どうしたの?」
僕の問いに、にっこり笑って美香が答える。
「今日、優ちゃんの誕生日でしょう?昨日あったときに渡そうと思ったんだけれど、まだ出来ていなかったから・・・。」
紙袋を渡された。中には、手編みのベストが入っていた。
「・・・美香が編んでくれたの?」
僕が驚いて尋ねると、真っ赤になって答える。
「・・・うん、ちょっと下手だけど・・?」
いや、すっごい嬉しい。僕が伝えると美香がにっこり笑う。・・良かった、持ってきてと美香がはずかしそうにいった。
「・・・・すみません、ご歓談中。できればご紹介いただけませんか?」
まだいたのか、槇原さんが目を輝かせながら、僕のほうを見ている・・ぼくは諦めて、槇原さんに美香を向かわせた。
「僕の隣に住んでる、いとこです。」美香、僕の上司。救急の槇原さんだ、ご挨拶して と美香を促す。
僕の前に出て、にっこり笑い。
「いつもお世話になっております。橘美香と言います。」
槇原さんが、美香の顔を見て・・ああ携帯待ち受けの・・と呟いた。
・・・余計な事を!!
「・・?携帯の待ち受けって?優ちゃんの待ち受けって、猫の写真だよね?」
不思議そうな顔をする美香と、面白そうな顔をする槇原さん。美香の疑問にどう答えようかと思案してると、もう一人の爆弾がやってきた。
「わあ!!美香ちゃんどうしたの?」
・・柳だった。美香が柳の顔を見て走りよりその胸に飛び込む。ぱふっ・・と言う音の後、柳が美香を抱きしめた。
「・・う~~ん美香ちゃんやわらかい、良い抱き心地。」
「「うらやましい」」
思わず、ハモった自分たちの声に、僕と槇原さんは顔を見合わせた。
僕らは、カフェテラスでお茶を飲んでいた。夕食をと思ったが、僕が仕事が残っていたので、外に出る時間がなかったからだ。
・・・そして、何故かあの場にいた二人がぼくらについてきた・・・。
「へえ、美香ちゃん。中野君の誕生日プレゼントわざわざ持ってきたんだ。」
「うん昨日やっと編みあがったから。」
すごいわよね、と、ベストをテーブルに広げながら柳と美香は二人で話し合っていた。
そんな二人の様子を見ながら、僕は隣の熊に声をかける。
「・・・槇原さん、チャンスですよ?」
「・・・何が・・?」
怪訝な顔をする槇原さんを、僕はけしかけた。
「好きなひとがいるかどうか聞きたいって言ったでしょう、そんなの編んであげる対象はいないのか聞いてみたら?」
「・・・・お前は美香ちゃんのおもいびとじゃないだろう?編み物の対象が、好きなひととは限らん。」
・・・くそっ!!この人は何気に僕のいたいところをついて・・
「美香と彼女は違うでしょうっ!!彼女の年になって、やさしいいとこにセーターなんか編むと思いますか!?」
「・・・・ベストだろう・・?」
・・・・問題はソコじゃない!!!
むっとして黙った僕を見て真っ赤になりながら、僕に呟いた・・・。
「中野・・お前聞いてくれないか?」
本当に!!40男の純情なんて性質が悪い!!
仕方なく、美香たちのほうを見て、どうしようか?と思案していたら柳がこちらを向いて、僕に言った。
「・・ねえ、中野君。こんな素敵なプレゼントもらって、そのままにしておくの?」
・・・何の事だ・・・?
怪訝なかおをする僕に、呆れた顔をしながら続けた。
「・・もらいっぱなしにはしないわよね・・?」
そんな柳の発言に、美香がびっくりした顔をする。
「優ちゃんはいつも美香に、色々な事をしてくれる。そのお礼も兼ねてるから・・・」
美香に皆まで言わせず、柳は僕に微笑みながら、どうするの?と聞く。
「・・・昨日も、休んだから、今週は駄目。・・」
ちらりと槇原さんを見ながら柳は言った。
「槇原先生?中野君日曜日の昼から、お借りして宜しいですか?」
何を言ってるんだ?お前が遊びたいだけだろう!!
槇原さんを見ると、困ったようにこちらを見ている。
柳は美香に、半日遊園地に行こうか?と此処から1時間ほどかかるテーマパークの名前を挙げる。僕はあわてて言った。
「遠いところは駄目!!今急変しそうな人持ってるから!」
「・・じゃあ、どこにするの?」
・・・・・なんで行くこと決定なんだろう?と思いつつ、美香をちらりと見る。
美香は僕の様子を見ながら、柳の服のすそを引いて、柳に言った。
「・・美香、優ちゃんのお仕事邪魔しようと思ってきたんでないし・・・・」
遠慮がちに、事の収拾をつけようとする美香を見て思わず僕は言ってしまった。
「・・・良いよ美香。この間カラオケ楽しかったって言ってたし行こうか?」
こちらを向いて伺うように僕に聞く。
「優ちゃん本当に良いの?だって昨日も、映画見に行ったのに・・」
美香を見てにっこり笑って僕は言った。
「だから、映画じゃなくて違うところに行こう。」
美香が嬉しそうににっこり笑う。
その横から柳がまた言った。
「何時に待ち合わせる?」
僕は不愉快をこれ以上になく出して柳に言った。
「何でお前が混ざるんだ?」
シャーシャーと彼女は言った。
「あら、カラオケならうちの店に来れば、お安くするわよ?私が混ざれば御代はただよ?」
にっこり微笑む彼女に冷たく言い放つ。
「・・・・あそこは、店員教育が悪いからいやだ・・・・」
「未成年に邪な欲望を持つ人が来店しなければ、とても愛想がいいわよ・・・?」
熊が邪な野望ってなんだ?といらない突込みを入れる。!!!うるさいっ!!
さあ~~と、にこやかに笑う柳を睨みつけて、面倒な奴が一緒に来るのかと頭を抱える・・・。
・・・・・・そうだ!!!
「・・・槇原さん、今度の日曜日日直でも、当直でもないですよね・・・?」
「・・・でも、仕事は・・・」
熊が言い終わらないうちに僕は熊の耳元でささやく。
「・・・柳と近づきたいんでしょう・・?」
今思い出したように、槇原さんがわざとらしく言った。
「ああ、僕もひさしぶりにごいっしょしたいなぁ~~」
・・誰が僕だよ?柳をちらりと見ると、・・・舌打ちしてるのが見えた・・・。どうして舌打ちなんだ!?
美香は目を輝かしてこちらを見ている。
・・・・・・ああ・・このメンバーで、僕は貴重な休みを使って、カラオケに行くのか・・・
・・・・眩暈がしてきた・・・・
ラブはいつでてくるんだろう・・・・。
清水 澄 拝




