その173
お読み戴きありがとうございます。
「優ちゃん、義弘先輩に何もしないよね。」
美香は自分の背中に手を回して肩に顔をうずめている優希に顔を傾けて聞いてみた。
優希は、もう一度美香の首筋にキスを落とし、美香に問う。
「・・・美香はどうして欲しいの?」
不機嫌なその口調に、美香は少し首をすくめた。その様子に優希はもう一度首に唇を寄せて、そのままの状態で彼女に言った。
「あいつはね、誰かに罰してもらう事で自分のしたことをなかったことにしてしまいたいんだ。」
優希は体を起こして、美香を机から自分のひざに抱き上げて移し向かい合わせで抱きしめた後、美香の頭に自分の顎を乗せて続けて美香に伝える。
「・・・罰を受けたって、事実はなくならないのにな・・・」
美香は優希の胸に顔をうずめて黙って聞いていた。
「・・・僕は、彼に自分がどう行動するのが最良かを、自分で考えて欲しい。あいつに報復したら、そこに許しを求めて自分で考えなくてもいい、逃げ道にしてしまうと思うよ。だから僕は何もしない。
優希の言葉を美香は頭に染み込ませる。
「・・・優ちゃん、何だかんだって、義弘先輩好きなんだ?」
優希は美香の顔を無表情で見て溜息をついた後、その首に噛みついた。
「!!!!なにすんの!!!!」
美香の叫び声を優は無視して、彼は美香を抱き上げ立たせて言った。
「・・・会場に帰ろう。」
美香の、””キスマークよりたち悪い!!鏡はどこ!?”という声に机の向こうの壁にかけてある鏡を黙って指差し、それをのぞきながら文句を言う美香を無視して優希はさっさと会場に戻った。
「・・・信じられんない!自分に都合が悪くなるとすぐこれだ!さっきのごめんはいったいなんだったのよ!!」
美香の独り言は優希には届かず、でも歯形は美香の首筋にしっかりと残っていた。
先ほど入ったドアと違うドアからでて会場に戻る前に廊下にいた優希はこのイライラとした感情をどうやったらおさえられるのかと考えていた。
”あいつは何もわかってない”
内心の怒りと、この不愉快な気持ちをどうしてくれるのか?誰でも良いから八つ当たりしたい気分である・・美香に噛み付いたぐらいでは、この気持ちは収まりがつかなかった。
確かに美香の立場を考えると、こんなところで歯形なんかつけるべきではないだろう、でも自分の気持ちが全くわかってない美香にはお仕置きが必要だと優希は思った。
・・・当然独りよがりのわがままではあると自分でも解ってはいるが、それでも許せない・・・・
そもそもである、もし美香が義弘に思いを残してるようなそぶりや行動を見せなければ、自分はこんなに義弘に気を使って、彼に報復をせずに彼が間違いに気がつくように待つなんていう、めんどくさいことはしなかった、大体そんな気の長い良い人の役目なんて自分のキャラでない。
もし、美香がこの一連の騒動が自分が義弘を振ったせいだとか、自分も悪かったのにやりすぎだとか、悩まず後悔しないのであればそんなめんどくさいこと思いつくはずもないではないか。
”まあ・・・でも所詮僕の自己満足だし、結局は美香を甘やかしたいんだよな・・”
溜息と共に諦めにも似た感情がよぎるが・・・何となくすっきりしない。
・・・何か良い、気分転換はないものか?・・・・
そう考えながら会場に戻ると、竹中が柳にまとわりついているのが見えた。
優希はそれを見ながら思わず笑みがこぼれる。
・・・あいつ、確か彼女いたよな? 学生時代からの悪い癖はなくなっていないのか?・・・
そして、それを邪険にかわす柳も見えた。
・・・・槇原さんって、今日来るんだろうか?・・・・・
少し面白いイベントが発生する予感がする。・・・優希は、気分が晴れるかもしれないと、竹中と柳の様子を黙って観察する事にした。
しばらくして、美香が会場に戻ってきたがその姿を見て、都が怪訝な顔で尋ねた。
「・・・みか?その首に巻いてるタオルは何・・?制服にはものすごいミスマッチだと思うけれど?」
美香は首に、汗拭きタオルを巻いて会場に戻ってきた、それも、スポーツタオルでなく、どこぞの会社の名前入りのよく宣伝に配られてる安っぽいタオルである。
みなの視線が美香のタオルに集まって、それに気づいた美香は真っ赤になって言い訳を始めた。
「・・・汗をいっぱいかいちゃって・・・私すぐあせも作るし・・・タオルまいておこうと思って・・・」
最後のほうは小さく消え入るような声の美香に、周りの皆は何でクーラーの効いてるこの部屋で急に汗をかくのか?と思うが美香の様子にそれ以上突っ込めなかった。だって誰もが、実は美香が優希と別室に行っていたのは知っており、迂闊に突っ込むとえらいことになりそうで・・・・。
”もう少しどうにかした言い訳が出来ないもんだろうか?どこの作業所の親父だよ?”
ただ一人傍でその言い訳を聞いていた優希は自分のしたことは棚に上げて、ふきだしそうになっていた。
そんな優希の様子を美香が恨めしそうに見ていたが、全くかかわりのないように無表情を貫いてる優希に美香が対抗できるはずもなく・・・。
おまけに、ここで文句を言うと自分の首筋の歯形の事もばれてしまって恥ずかしい思いをするのは自分である。
きっと優希はばれたところで”自分の所有物に、マーキングして何が悪いの?”と開き直るに決まっている・・・。
”・・・優ちゃんなんか!!大嫌いだ!!美香なんであんなのと付き合ってるんだろう!!とても美香より12も大人に思えない!!俺様のお子様じゃんか!!”
美香はなきそうになる気持ちをこらえながら、内心優希の悪口のオンパレードであったが、そんな美香を優希は涼しい顔で無視していた。
やっとの思いで竹中から逃げてきた柳が優希の傍に来て、呆れた口調で話しかけた。
「美香ちゃんのあのタオル、あなた今度は何したの?」
優希はその言葉を無視して柳に返した。
「・・今日槇原さんは迎えに来るのか?」
「・・・特に約束はしてないけれど?何で?」
その柳の質問に優希が答える前に、竹中が優達の元に来た。
「陽子ちゃんは、今度いつお休みなの?」
呆れた顔で思わず自分の友人を見た、そんな優希の視線に悪びれる事もなく笑い返しながら竹中は再び嫌そうな顔をしてる柳の肩を抱いていった。
「せっかく知り合えたんだから、今度一緒に遊びに行かない。」
「行きません!」
きっぱりという柳に負けることなく、肩を抱き寄せてアプローチをする。そんな竹中を見ながら柳は優希に声を潜めて言った。
「・・あなたの友達でしょう?何とかしなさいよ!」
「・・槇原さん呼べば良いじゃないか?」
柳の、困ってる様子にも関心がない様子で淡々と返す優希をにらみながら、柳は優希に言った。
「美香ちゃんはどうしてあんなダサいタオルを首に巻いてるの?」
「・・あせもが出来るからだって本人が言ってるだろう?」
優希の涼しげな表情とその答えに、柳は美香を見て告げる。
「美香ちゃん!こんなしょうもない男にたった14歳で将来を決めちゃ駄目よ!!もっと広い視野を持たないと!あなたの周りにはもっと若くて、有望な人が沢山いるはずよ!!」
柳の叫び声に、義弘がこちらをじっと見てるのが見えた。
優希は内心舌打ちをする。”お前まだ、諦めてないのか!?”
冷たい視線で、義弘を睨むと、こちらを見返す彼と優希の視線がぶつかった。
・・・気づいてもらうなんて、生ぬるい事はやはり無理なんだろうか・・・。




