その168
「駅のほうに行って、道案内してくるね。」
義弘先輩はにこやかに笑って、去っていった・・・・。
ーーーーー
義弘の後ろ姿をぼっと見ている美香を見つけた。
そっと後ろから近づいたら、美香の呟きが聞こえた。
”・・・さわやかなところが好きだったのよね・・・”
僕はその台詞に、思い切り引っかかりを覚えた。
「・・・・ふ~~ん?それで?逃がした魚は大きかったのかな?・・・」
美香が僕の台詞に首をすくめて振り返るのが見えた。
嫉妬でどうにかなりそうな心を隠すために、無表情になる自分がわかっていた。
・・・・・でも止められなかった。
美香が言葉を選びながら、僕に言い訳してるのが聞こえた。
・・・そして彼女が溜息をついた・・・・・
ソノタメイキハ、ナンノタメイキダ?キミハボクノモノデナイノカ?
美香のことになると全く余裕なく、そしてつまらない事にこだわってしまう小さな自分がいやになる・・。
美香は下を向いて、何かを考えているようだった。
・・・・・表情が読めない・・・・
ますますの苛立ちと焦りを感じながら、僕は美香に詰め寄って腕をつかんだ。
美香が顔を上げて僕の顔を見た。
「・・・優ちゃんいたい!」
「だからなんだというんだ?僕はお前をいまさら他の奴に渡す気はない。」
そういって美香をにらみつけた。
美香は僕のものだ。
ーーーーーーー
その後姿を見ながら、私は自分の中の悔しいバカヤロウと思う気持ちと、でももう関わりたくないから放っておこうと思う気持ちと折り合いをつけることが出来ず自己嫌悪に浸っていた。
「・・・・あの一見さわやかなところが好きだったのよね・・・・。」
誰に言うでもなく呟いた私の台詞に、後ろから声がした。
「・・・・ふ~~ん?それで?逃がした魚は大きかったのかな?・・・」
聞きなれた声に、思わず振り返ると優ちゃんが、無表情でたっているのが見えた。
ああ、ものすごく怒ってる顔だこれは・・・自分の都合の悪い感情を隠そうとするとき優ちゃんは表情をなくす。
私に対してはひさしぶりにしてるのを見る・・・。
「・・・・別にそんなこと言ってないよ。」
きっとかなり怒り、傷ついてるだろうその人を見てどう説明しようかと溜息をつきながら言葉を捜した。
その私の様子を見て、優ちゃんはますます無表情になる。
あのね、だって優ちゃんに彼に言われた言葉をそのまま伝えたら、絶対怒って自分の立場も忘れてどんな報復するか解らないじゃない?
報復したって、過去がなくなるわけでないし、今美香は困ってないし、
・・・それより何より、もう義弘先輩と関わりたくないし・・・・。
下を向いて、この状況をどう打開すれば良いのか・・。
・・・・主に対優ちゃん対策だが・・・・
考えあぐねてると、いきなり腕をつかまれた。
・・・痛い・・・
思わず声に出して、顔を上げた。
ああ、捨てられた子犬が必死にすがり付いてる、無表情の顔の中に、そんな目が見えた・・・・。
12歳年上なのに、年上に見えない。悔しいぐらいいつも余裕尺尺に見える人はどこにいったんだろう?
「僕はお前をいまさら他の奴に渡す気はない。」
そう言って私をにらみつけるその人の瞳を見つめた。
・・・・うん?もちろん私を離さないで欲しい。私にはあなたしかいない当たり前じゃないの?・・・・・
私は、にらみつけるその人の肩をつかまれていない手で私のほうに引き寄せて、かがんだ形になったその人の唇に口ずけて、そして抱きついた。
私の背中に、暖かい手が回って、強く抱きしめられた。
「優ちゃんを、他の人に渡す気もないからね?優ちゃんより美香のほうが執念深いよ?」
私の台詞に、抱きしめられた手が強くなって、そして笑い声が聞こえた。
”もう一回キスしても良い?”
優ちゃんの台詞に、周りを見回して答えた。
「・・・・もう少し、目立たないところでにして。」
自分の所業は棚に上げて・・と笑いながら言う声が聞こえたが、私はその声の主をビルの階段脇の陰になって見えないところに引っ張っていった。
「・・・・ここなら良いよ」
小さい声で言った私の台詞が終わらないうちに、暖かい唇が私の言葉を飲み込んだ。
・・・ねえ?私が好きなのはあなただよ?まちがえないでね?・・・・・・




