その166
会場設営ができたあと、食器類が次々到着した。
「食べるものは何処で作るの?」
私の素朴な質問に、実は一階下に厨房があって、隣の部屋のエレベーターで上げるんだそうだ。
「凄いね?こんな広いところが空いていたなんて!」
「本当は多目的ホールとして、ケータリング込みで売り出そうと思ったんだけど、なかなか需要がね?」
「置いとくのも勿体ないけど、中途半端な作りだから、使い手が少なくて…」
いつのまにか来てた、陽子ちゃんから説明が入った。
「わ~ん、陽子ちゃんだぁ♪」
思わず抱きついた私を抱き締めて、お久しぶりと声が聞こえた。
「最近中野くんに合ってないでしょう?職場で、愛想がないったら!美香ちゃんエネルギー充電してもう少し愛想よくするようにいって?」
その言葉に優ちゃんがムッとして返した。
「……患者さんには、愛想はいいよ?あとは仕事が円滑にできたらいいだろう?」
・・・・・多分そんなことではないと思うんですが?・・・・
私は陽子ちゃんに不満を打ち明けた。
「・・・でもね、今のところが忙しいから、時間が取れないって言われたのは美香のほうなんだよ?」
私の不服そうな声に、陽子ちゃんは少し笑って優ちゃんを見た。
優ちゃんは、少し目を見開いて、そのすぐ後笑って、私を後ろからふわりと抱きしめた。
「でも、今までは黙ってきてくれて冷蔵庫に食材を詰め込んでくれてたのにそれもないよね?」
そういいながら、私の頭のてっぺんに顎を乗せた。
「・・・・だって、おこずかいが足りなくて・・。」
私の言葉を聞いて、陽子ちゃんが優ちゃんを見た。優ちゃんはにっこり笑って”そうか・・・”といった。
何かいいたげな陽子ちゃんに優ちゃんがめくばせをする。
・・・・なんだろう?二人だけで会話してるみたいで、何かいやかも・・・・・
思わずうつむいた私のほうを見て、優ちゃんがもう一度私に回した腕に力を込めた。
”僕がすきなのは美香だけだよ?”
頭の上から、私にだけに聞こえる小さな声でその言葉は降ってきた。
・・・・・・うん・・・・・・・・・
ーーーーーーー
会場設営にと先に来たものの、僕が口を出す理由も必要も感じず、義弘の采配を観察いていた。
周りを見ながら、中等部の役員をさり気無くフォローして、彼らがあたかも自ら動いているかのごとく振舞う・・。
あんなに出来るのに、美香に対してのあの態度はなんだったんだろう?
会場設営が着々と進み、どうも階下から食器類が運ばれて、厨房も下にあるのか?
美香が目を丸くして見る見る間に仕上がっていく会場を見ていた。
”こんなところがあいていたなんて!!”
美香の問いにどこから来たのか、柳の声が聞こえた。
”陽子ちゃん!!”
相変わらずの美香の満面の笑みに、軽い嫉妬を覚える。
・・・お前は僕とあえてそんなに喜んだ事があったか?・・・・
ふわりと、美香を抱きしめた後、柳が美香に、僕の職場での態度が悪いのは美香が僕をかまわないからだと言う。
・・・別に悪くしてるつもりはないぞ?愛想を振りまく必要性を感じないからしないだけだ。・・・・
僕の不満げな台詞に美香がますます不満げに自分のせいではなく僕が来るなといったからだという。
おこずかいがないから、行けないんだとも。その言葉に、あいたと思ってるのは僕だけではないんだと、嬉しくなって彼女を抱きしめた。
何かいいたげな、柳を止めて美香を抱きしめて、そして美香にそっと今の気持ちをささやいたら美香が赤くなるのが見えた。
・・・それと同時に義弘が睨むのも見えた・・・・
それを見て、柳がシニカルな微笑を僕に見せた。
ああ、柳にも彼の美香への気持ちはわかったのか。
美香が巻き込まれたトラブルの内容は彼女には言ってないが、彼女が知ったらきっと僕以上に怒るだろうな?
美香は嫌がるだろうけれども、もう動き出したシナリオは止められないよ。




