その110
台所の片づけを終えて美香がこちらを伺っていた。
手伝うといったが、疲れてるし悪いと手伝わせてもらえず・・・
おまけに終わったのに、何を遠慮してるのか、こちらに近づかず、台所でうろうろしている。
僕は見かねて声をかける。
「美香?お風呂入ってきたら?着替えは僕ので良い?」
小さくうなずく美香を見て僕はパジャマ代わりになりそうなルームウエアを出して、美香に渡した。
・・じっと着替えを見つめて、小さな声で僕に聞いてきた。・・
「・・優ちゃん、美香やっぱり帰ろうか?」
僕は、溜息をついて返した。
「・・もう遅いし、どちらにしても一人では帰せない。お風呂に入っておいで。」
しぶしぶといった風情で、お風呂に向かう美香の後姿を追った。
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温かいお湯に浸かったら、何でこんなことしてるんだろうと後悔の想いが襲ってきた。
・・・昨日今日に始まったことではないのに・・・・・
今日は、どうにも我慢が出来ず、気がついたら優ちゃんの病院の前にいた。
・・ひとめ、顔を見るだけでよかったのに・・・・
顔を見たら、泊めて欲しいと口走っている自分がいた。
優ちゃんに抱きしめて欲しい。
この悲しさを、薄めて欲しい。
大丈夫だといって欲しい。
・・・でも本当のことは心配かけるからいえない・・・・
ぐるぐると同じ考えが頭の中をよぎる。
優ちゃんの腕の中で眠ったら、この寂しさはきっとましになるに違いないと思う。
ねえ、優ちゃん、何もしないで、聞かないで、美香をただ抱きしめて欲しいというお願いは、わがままですか。
お風呂のお湯に口までもぐってそっと言ってみたら・・そのお願いは外には届かず、お風呂の泡になって消えてしまった・・・・・。
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しばらくして美香がお風呂から出てきた。
ココアを飲むかと聞いたら、何も言わずうなずいた。
台所で、僕はコーヒーを、美香にはココアを作って、ソファーに誘って美香を後ろから抱きかかえるようにして、抱きしめた。
美香の胸の前で組んだ僕の両手を、美香は前から手を回し両手でつかみじっとしている。
僕の腕に、丁度美香の柔らかい唇が当たっていた。
僕は、美香のうなじに一つキスを落とす。でも美香は反応せずただされるがままにしている・・・。
その内、体制を変えて僕のひざの間で、円くなった。
・・・嫌な事あった時の美香のお決まりのポーズ・・・・
僕は、美香の耳にキスを落として、耳元でささやく。
「聞いて欲しい?ただ抱きしめて欲しい?」
美香が”優ちゃんのぬくもりを感じていたい。優ちゃんのぬくもりが欲しい”・・と言う。
・・・美香、それはね、男に呟くのはものすごく危険な台詞だと思うよ?・・・
きっと、深い意味はなく、抱きしめて欲しいんだろうな・・と思い腕に力を入れて抱きしめて。
”美香、大好きだよ”とささやいた。
僕の足の間で丸くなり、じっとしている美香を抱きしめたが、好きな子を抱きしめながら、何もせずにこの状態であり続けるのは辛いもので・・・・。
・・・美香はいつになったら、男の生理というものを理解してくれるのか?
そんな不満が心の中を一瞬よぎったが、いやいやいや、今日のみかの様子を考えると、多分そんなことを考える余裕もなくただ僕に会いに来てくれた様にも思う。
そんな美香に付け入ってスキンシップを深めるあれやこれやを仕掛けるなんて、鬼畜のすることで・・。
・・結局僕は溜息をつきながら、イロイロな事を我慢するために、気をそらす方法として、読みかけの文献に目を通す事にした。




