その109
仕事が終わって、帰り支度を始めたのは美香と約束した時間を一時間過ぎた、20時過ぎだった。
美香に今から帰ると電話する。
美香の待ってるよ・・と言う声を聞いて、幸せに浸る。
・・・ああ、帰ったら美香がいるんだ・・・お
「顔ゆるんでる・・・変な人に見える。」
大きなお世話と思いながら、いつもどこからともなく現れて僕に突っ込む柳に舌うちをする。
「・・あんまり邪険に扱うと、美香ちゃんに言いつけてやる。」
・・・・お願いですから止めてください・・・・・
われながら情けないと思いながらも、美香に柳への態度をとがめられたくない。
呆れる柳にさよならと告げ帰宅した。
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明かりのついてる家に帰るのは、幸せな事だと思う。
特にそれが愛する人が待つ場所ならなおさらの事で・・・。
僕は、チャイムを鳴らして、美香が出てくるのをわくわくしながら待った。
「優ちゃん!!、お帰りなさい。」
満面の笑みで、迎えてくれる美香がいた。
思わず中に入るなり、玄関で抱きしめた。
「優ちゃん苦しいよ?」
もがいて僕の手から逃げようとする美香を、ますます強く抱きしめて、その頭のてっぺんにキスを落とす。
キスに気がついて美香がもがくのを止めて、僕にそおっと抱きついた。
「優ちゃんお帰りなさい。」
美香の暖かさと、柔らかさと、匂いを、僕はこの場で思う存分堪能する。
・・・・・ああ、僕の美香が僕の腕の中にいる。・・・・・
しばらくして、美香が僕の様子を伺いながら、言った。
「優ちゃんお風呂沸かしてるし、入る?」
思わず、一緒に入ろうといったら思い切り嫌がられた。
「・・・優ちゃん、冗談きつすぎる・・」
・・・・いや、本気なんですけれど・・・・
内心で舌打ちしながら、顔では笑顔を作って、お風呂場へいった。
暖かいお湯に浸かりつつ、幸せに浸った。
・・・鏡に映った自分の顔がにやけてるのが見えた。
本当に、馬鹿みたいだと思うでもとまらない・・・・
お風呂から出て美香の顔を見ながら、美香の作ったご飯を食べる。
その後リビングのソファーで再び、美香と一緒にいる事の幸せをかみ締めたが・・・ふと思った。
「そういえば、美香なんで今日は来たの?」
僕の答えに、言葉を濁す美香がいた。
少し不審に思いつつ、そういえば伯父達に美香を泊める連絡をしていない事に気がつき、美香に確認をした。
「伯父さん達、美香がここにいるの知ってるよね。」
うつむいて返事をしない美香・・・まさか・・・
「・・・しらないの!?」
慌てて時計を見たら、もう9時半過ぎている。
「・・学校から直接きたんだよね?連絡はいれてないの?」
次々とでる僕の質問に、美香は下を向いて、返事をしない。
「喧嘩でもしたの・・?」
これには黙って首を振る。
僕は、美香に聞くことを諦めて、受話器を取って伯父に連絡をした。
叔父たちは、やはり帰りが遅い事を気にしていたようで・・。
・・そして、僕のアパートにいる事で、ますます美香の”身”を案じていて・・・。
『・・優希・・判ってるだろうな・・・』
伯父は低い声で、僕に”確認”をとる。
・・・伯父さん、言いたいことも、僕のしてはいけない禁止事項もわかりますが、自信があるかと聞かれれば、非常に怪しいです。前向きに努力はいたします。・・・・
僕は心の声は伯父に伝えず、あいまいに返事を返した。
伯父と叔母に、美香がなぜ急に来たのか理由をを聞くが、”あなたに会いたかったんじゃない?”・・とのことで・・・。
・・・そうだろうか?だとしたら非常に嬉しいが・・・
だが、言葉少なげにこちらを見ながら様子を伺う美香を見ると、とてもそうとは思えず、本人に聞くしかないと電話を切る。
素直に言いそうな雰囲気もない美香を見ながら、まあ、夜は長いから何とかなるだろうと思いなおす。
・・・これは、手を出すどころではないかもしれない・・・・
何があったんだろうか?




