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王都守護隊の日常

作者: 雪村聖一

「師団長、是非結婚してください」


俺はただいま求婚されている。

ふむ、俺はまだ17歳。この国では結婚は18からだから無理な話だ。

そういえば俺は誰かって?

俺はライトニング・F・シンフォニィ。第零師団戦神ヴァルキリーの師団長だ。

年齢的には本当はまだ騎士学校とかに通っている年齢なんだが色々とあってここで師団長をやっている。

ついでに顔は自分で言うのもなんだが整っているらしい。団員に聞くと容姿端麗とか眉目秀麗、っていう言葉が似合うと言われた事もあるがそれは言いすぎだ。

あ~、それにしても空が蒼いな、うん。


「師団長、そろそろ現実逃避という自己紹介から帰ってきてください。そして帰ってきたあかつきには私と結婚しましょう」

「結婚は断る」

「良いじゃないですか。結婚の一つや二つ」

「結婚の一つや二つって…… それに俺はまだ結婚できる年齢じゃないぞ?」

「そんなもの二人の前には関係がありません。さぁこれに署名を」


さっきから冷静に結婚を迫ってくるのは戦神の副師団長であり俺の補佐のルカ・F・アクィラー。

容姿端麗、頭脳明晰という才色兼備の才女なんだがいかんせんこのように壊れている。


「私は壊れてなどいません」


才色兼備すぎて読心術まで出来るのが忌々しい。


「さぁ早くこの婚姻届にサインを」

「断る!」

「断るのを断ります」


こいつはほんとに頭良いのか?


「それより仕事しなくていいのか?」

「それならば先程すべて終わらせましたが?」


ほんとに頭脳明晰すぎるのが忌々しい。


「そうだな、あと2,3年した後に考えないでもない」

「ではとりあえずサインだけでも。その後役所に提出した後に考えていただきます」


クソッ!答えを間違えた。

ここで下手なことすると本当に結婚させられかねん。

どうやってこの場を切り抜けるべきか……


「し、師団長!大変です!」


扉が盛大に音を出して開くと一人の男が飛び込んできた。


「どうしたんだ?用件は簡潔に、かつ分かりやすく頼む。俺は今重大な問題を抱えているんだ」

「ま、街が襲われているんです!ドラゴンに!」


ドラゴンって。

とりあえず結婚問題からは離れられそうだな。


「ルカ、全団員に通達しろ」

「第一級戦闘配備、ですよね?」


俺の言葉を遮って言った言葉は俺の言いたいことだった。

こんなときはルカの頭の良さがうれしく思う。

ってこんなことを考えている暇はないな。

俺は思考回路を戦闘用に切り替えつつ言った。


「それと俺も出るからな」

「分かっています」

「よし!それじゃあ対ドラゴン迎撃戦を始めますか」


俺は窓を全開にして空へと翔け出した。




















奴は街の外、城壁のぎりぎりのところにいる。

今現在は周りのギルドからの応援などで何とか持ちこたえてはいるがそれも時間の問題だろう。

奴が一度爪を振るえば十人単位で人が吹き飛び、一度ブレスをはけば十人単位で人が焼死していく。

そこは死地と呼ぶにふさわしい場所。

そこはまさに地獄。

しかし、逃げ出す事は許されない。

なぜなら彼らの後ろには大切な物が、大切な思い出が、愛する者がいるからである。


「お前ら!待たせたなぁぁぁぁああああああ!!」


俺は靴型の華翔武具、天翔で空を翔びながら奴、ドラゴンに斬りかかった。


「花鳥風月・風・弐の式、紅蓮双覇!」


一気にトップスピードに乗り、ドラゴンに斬りかかって行く。

ドラゴンの目で追える速度を遥かに超え、生身の人間では耐えられないであろう速さの世界で斬っていく。


グララララララァァァァァアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!


しかし、どれ一つとして致命傷を与えられない。

それどころか鱗に傷を付けるのが限界なのである。

奴はそれが気に入らないのか広範囲に渡ってブレスを撒き散らし始めた。


「硬すぎるぜ、全く」


範囲外で呟きながらドラゴンを見るとやはり、たいした傷を負っていなかった。

それどころか口の中にブレスを溜めるという余裕を見せていた。


「やはりやるしかないか。武装憑依、天羽羽斬・黒蓮」


持っていた日本刀に力を集め、凝縮し、纏わせる。

すると、刀の形状が変化し始める。

刀身が黒く染まり、鍔が消え、代わりに鎧の肩当の部分に似た物が柄を保護するように浮んでいる。


「十六夜・黒華」


俺は黒蓮を構え、さっきを遥かに超えた速さでドラゴンに突っ込んで行く。

しかしドラゴンはその動きを予測していたのかそれとも偶然か、溜めていたブレスを俺に向かって吐き出した。

それは先程までとは比べ物にならないほどの熱量と質量を誇っていた。

しかし、そんなものは関係はない。

高速で移動し一気に減速する俺にとってはちょっとした障害物でしかなく、ブレスギリギリを飛んでいく。


「当たるかよ!そんなモンに!」


さっきとは速さが桁違いに早いので一箇所では斬ることが出来ず一太刀浴びせては離脱、そして一気に方向転換をして再び斬りかかる。

今度は鱗ごと切れていくのが刃を通して伝わってくる。


「まだまだぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!!!!!」


俺はドラゴンを切って、斬って、切りまくる。

おそらく周りにいる奴らからは黒い直線が何本もドラゴンの周りに浮んでいるようにしか見えていないはずだ。

しかし、中のドラゴンの様子は刻々と変化していく。

自慢の爪は削られ、折られ、鉄壁だった鱗も切り刻まれ中の肉が見えている。

しかしそれでも攻撃は止まらない。止められない。

なぜなら、ドラゴンとは史上最強、最悪にして至高の存在であるからである。

息の根が止まるその一瞬まで油断してはならない。

油断したがために命を落としたものなどはいて捨てるほどいる。

ドラゴンほどの生命力と再生能力を有するのは神か悪魔ぐらいしかいない。

それほどまでに凶大な生物がドラゴンなのだ。



グアァァァァァァァァ…………



「終わった、か?」


最後に弱弱しい叫びを上げて倒れたドラゴンをある程度離れた場所から見つつ呟く。


「まだのようですね」

「ルカか。しかしこの状態ならそう長くはないな。さっさと首獲ってくるか」


一歩一歩慎重に、それでいてリラックスして進んでいく。


「ところで師団長。結婚の話はどうなったんですか?」

「あんなもん無しだ、無し、とりあえず『落す』ぞ」


ドラゴンの首の脇に立ち天羽羽斬を振り上げ首を落す。


「花鳥風月・月・参の式、真滅一閃」


ゴト、という重々しい音と共に首が落ち血が噴き出していく。


「無事な鱗と牙、爪、それと血も出来るだけ取っておいてくれ、後で全部加工するから」

「なるほど、ドラゴンの血から作られる『竜紅珠』を使って婚約指輪を作って下さるのですね?」

「誰が作るかよ!!」


自分でも鱗を剥がしながらボケてくるルカとそれに突っ込む俺。

我ながら緊張感がないと思う。


「さっきのはボケではありませんよ?本気と書いてマジですから」


いちいち人の心を読むな、面倒くさい。


「で、結局被害はどのくらいだ?」

「我が王都守護隊の死者は50名、ギルドからの派遣が30名。それ以外の負傷者は未だに分かりません」

「そうか…………」

「やはりつらいですか?」

「そんなことは無い。俺も彼らも覚悟の上だったからな。死ぬことも、死なせることも」


そう。

俺は人殺しだ。

まぁ、あまり気にしてはいないがやはりこういう場合はきつくなる。

もっと早く駆けつけていれば、もっと早くかたをつけていれば。

そんな無駄な考えが頭の中をぐるぐるよ回っている。


「前に一度だけ師団長に言いましたよね。『掌から零れ落ちていったモノを後悔しても意味が無い。それよりも掌に残ったものを大切にしなくてはいけない』、と」

「あぁ。確かに言ったな」

「私は師団長が、いえ、『ライトニング』が零れ落ちていったモノを後悔しないのなら私が後悔して上げます。掌から零れ落ちないように努力します。なので、そんな顔しないでください。そんなつらそうな、泣きそうな、私の嫌いな顔をしないでください」


いつの間にか俺は泣きそうになっていたらしい。


「だったら、どんな顔すればいいんだよ。俺は人を死に追いやったんだぞ?」

「泣いてください、思いっきり。そして乗り越えればいいんですよ。彼らの死を」


その言葉を聴くと不意に頬を伝う涙の感触に気づいた。

拭っても拭っても、後から出てくるそれを俺は止めることが出来なかった。


「大丈夫です。あなただけがつらいんじゃありません。あなたほど私はつらくないかもしれません。ですが、あなたのつらさなら分かります」


頭を抱きしめられながら俺は泣いた。

死んでいった者達のために。

何時までも、何時までもルカの腕の中で。





















「師団長、結婚してください」


今日も俺は絶好調に求婚されている。

清々しいほどに。


「だから、断ると言っているだろう?」

「断るのを断ります」

「断るのを断るのを断ろう」

「しつこいですね。いい加減サインしてください。一週間前に私の胸で号泣していた可愛い師団長はどこにいったんですか?」

「そんなものは最初っから存在していなかった」

「あぁ。あの時の師団長の顔はかなりそそられるものがありましたね」

「そんなものは、最初っから、存在して、いなかった!」

「さて、本日の日程ですが」

「いきなり仕事の話に変えるな。まだ頭が仕事用に切り替わってないんだから」


今日も一日平和だ。












……俺以外が

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