第4章:女官の月世界珍道中とウサギとの奇妙な生活
4-1 月への強制連行
満月の夜が訪れた。
女官の山田かぐやは、必死に同僚たちに事情を説明していた。
「いいですか、私は月から来た姫なんかじゃありません!ただの下級女官です!私の実家は京都の八百屋で、父は山田大根、母は山田キャベツといいます!どこにも月の要素なんてありませんから!」
「でも、あの光…」
「きっと誰かと人違いなんです!」
しかし、午後八時きっかり、月からの迎えの使者が到着した。
まばゆい光とともに、羽衣をまとった天女たちが降りてきた。彼女たちは機械的に言った。
「山田かぐや様、お迎えに上がりました」
「だから違うって!」
「ご抵抗なさらず、こちらへ」
「いやあああああ!」
こうして女官かぐやは、周囲の女官たちの悲鳴とともに、夜空へと連れ去られていったのである。
月への道中、彼女は必死に抗議した。
「訴えます!これは誘拐です!月の警察を呼んでください!」
「月に警察はございません」
「じゃあ弁護士!」
「弁護士もございません」
「人権侵害だ!」
「月に人権という概念は…」
「ふざけんな!」
4-2 月世界での珍問答
月に到着した女官かぐやは、すぐさま天帝の御前に連れて行かれた。
「おお、かぐや姫!よくぞ戻った!」
豪華絢爛な玉座に座る天帝は、満面の笑みで彼女を迎えた。
「あの、すみません。私、姫じゃないんですけど」
「何を言っておる。そなたは我が月世界が誇るかぐや姫ではないか」
「いえ、人違いです。私はただの女官で…」
そこへ侍従長の月読命が現れた。
「陛下、お呼びでしょうか」
「おお、月読よ。無事にかぐや姫を連れ戻してくれたな」
「はっ。『山田かぐや』様を召喚いたしました」
女官かぐやは、ここで重要なことに気づいた。
「あの、もしかして…『竹取かぐや』という人と間違えてません?」
「竹取かぐや?」
月読命が首を傾げた。
「その名はデータベースにありましたが、現住所が『不明』となっていたため、実際に存在が確認できた『山田かぐや』様を召喚いたしました」
「だから、それ別人だっつーの!」
「同一人物の別姓かと…」
「違ーう!」
ここに至って、ようやく月側も事態を把握し始めた。
4-3 もちまろとの意外な相性
混乱の中、一匹のウサギがぴょんぴょんと近づいてきた。
それが、問題の「もちまろ」である。
「ぷゆ?」
もちまろは女官かぐやの足元で止まり、じっと彼女を見上げた。
「えっと…こんにちは?」
女官かぐやが恐る恐る声をかけると、もちまろは突然、彼女の膝に飛び乗った。
「ぷゆゆゆゆー!」
そして、幸せそうに丸くなった。
天帝が驚愕の声を上げた。
「なんと!もちまろが久しぶりに元気を取り戻したぞ!」
「え、マジで?」
「これほど懐くとは…やはりそなたがかぐや姫に違いない!」
「いや、だから人違いだって!」
しかし、もちまろは完全に女官かぐやを気に入ってしまった。彼女から離れようとせず、他の誰が近づいても威嚇するようになった。
天帝は困り果てた。
「う、うむ…これは困った。そなたがかぐや姫でないとしても、もちまろがそなたを必要としておる」
「それ、私の責任じゃないですよね?」
「月読よ、どうする?」
侍従長は冷や汗をかきながら言った。
「その…『本物のかぐや姫』を改めて探すべきかと…」
「では、この者はどうする?」
「それまで、この方には『もちまろ専属飼育係』として勤務していただくというのは…」
「勝手に私の仕事決めんな!」
こうして女官かぐやは、なし崩し的に月のウサギの世話係に就任させられてしまったのである。
4-4 意外と悪くない月生活
最初は憤慨していた女官かぐやだったが、数日も経つと月の生活にも慣れてきた。
月の宮殿は広大で美しく、食事は豪華絢爛。地上の宮中で下級女官として働いていた時とは比べ物にならない待遇である。
「まあ、悪くないかも…」
もちまろの世話も、やってみると意外と楽しかった。餅つきを手伝ったり、月面散歩に連れて行ったり。もちまろは彼女に懐いて、いつも後をついてくる。
「ぷゆー」
「はいはい、ニンジンね」
ある日、女官かぐやは月読命に尋ねた。
「ねえ、本物のかぐや姫の捜索、どうなってるの?」
「それが…『竹取かぐや』殿の方は、現在『山田かぐや』という通称を使っておられるようで、地上での特定が困難でして…」
「それ、最初から分かってたことじゃん」
「申し訳ございません…」
実は月読命、あまり本気で探す気がなかった。なぜなら、女官かぐやがもちまろの世話を完璧にこなしてくれているため、天帝のご機嫌が良いからである。
「まあいいわ。とりあえず、ここの生活にも慣れてきたし」
「それは何よりです」
「でも給料はちゃんともらうからね」
「もちろんでございます」
こうして女官かぐやは、予期せぬ形で月での新生活を始めたのだった。




