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温度

作者: 白雲 凪
掲載日:2026/03/05

終電前の駅前、

冷えた空気にぽつんと浮かぶコンビニの光。

コーヒーの湯気、スマホの光、

そして、同じ部屋にいる二人の距離。

その温度は、誰にも測れない。

終電が近い駅前は、昼間の街とまるで違った。


冷たい風が頬をかすめ、

コンビニの光だけがぽつんと浮かんでいる。


ポケットの中で震えた通知は、短くても確かな存在感を持っていた。

スマホを取り出す手が少し震える。


『帰れてる?』


短いメッセージ。

返す指先が一瞬止まる。

やがて打ち込む。


「もうすぐ帰るよ」

既読がつく。


『よかった』

『今日寒いね』


それだけのやり取りなのに、

夜の空気が少しだけやわらぐ。


ホットコーヒーを買う。

紙カップの湯気が、静かな道に溶けていく。

こんな帰り道を、

誰かと共有するようになったのは最近のことだ。


家の前に着く。

ポケットの中でスマホがまた震える。


『今度ゆっくり会おう』


私はその文字を、しばらく見つめる。

玄関のドアを開ける。

部屋の電気がついている。

リビングのテレビの音。

ゲームの効果音。

ソファには、誰かの背中がある。


七年一緒にいた人。

別れたはずなのに、

まだ同じ部屋で生活している。

家賃。

生活費。

引っ越す余裕。

生活だけが、

まだ終わっていない。

私はキッチンに立つ。

コーヒーを一口飲む。

少しぬるくなっている。


背中の向こうでは、

ゲームのボタン音が続いている。

長い時間の中で、

体に染み込んだ夜の音。

ポケットの中でスマホが震える。


『会えるの、楽しみにしてる』


画面の光が、手のひらを照らす。

私はゆっくり息を吐く。

そして短い返信を打つ。


「私も」


送信ボタンを押す。

部屋の空気は、何も変わらない。


テレビの光。

ゲームの音。

同じ夜。


スマホがもう一度震える。


『よかった』


その文字を見ながら、私は目を閉じる。

同じ部屋には、

もう恋人じゃない人がいる。


私はコーヒーをもう一口飲む。

その温度は、もうすっかり冷めてしまっていた。

皆様、珈琲は好きですか?

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