第七話 神には、なれない
世界は、少しだけ息を取り戻していた。
崩壊した大地の隙間から、
かすかな草が芽吹いている。
「……増えてる」
リリアが、しゃがみ込んで呟いた。
「昨日より、緑が」
「偶然じゃない」
俺は、その光景を“理解”してしまった。
【世界安定率:微増】
【管理方針:未設定】
――未設定。
神は、世界を完成品として扱っていた。
だが、今の世界は違う。
「レイ」
カインが、腕を組んで言う。
「お前、管理者になってから……
顔色が悪い」
「……寿命削ってるからな」
冗談めかして言ったが、
本当はもっと深刻だった。
俺は、いずれ消される。
神の“正しさ”にとって、
俺はノイズだ。
だから――
「……決めた」
俺は、二人を見る。
「俺は、神にはならない」
リリアが、驚いた顔をする。
「え……?
でも、管理者なんでしょ?」
「管理はする」
俺は、うなずいた。
「でも――」
空を見上げる。
「選ばせる存在にはならない」
その瞬間、
管理者の声が響いた。
『警告。
世界進行には、
選択の提示が必要』
「だから変える」
俺は、即答した。
「神のやり方を」
カインが、眉をひそめる。
「どうやってだ」
「簡単だ」
俺は、深く息を吸う。
「“正解”を用意しない」
沈黙。
リリアが、小さく言った。
「……選択肢を、なくすの?」
「違う」
俺は、首を振る。
「選択肢を、みんなに渡す」
『……』
管理者が、反応を止める。
「神は、一人に全部を背負わせた」
「勇者に、犠牲を選ばせた」
「だから、歪んだ」
俺は、拳を握った。
「なら」
「世界の行く先は、
一人じゃなく、
生きてる全員で決める」
空気が、震えた。
『それは……
世界構造の根本改変』
「そうだ」
俺は、はっきり言った。
「この世界は、
“管理される世界”から」
「“生きて選び続ける世界”に変わる」
その瞬間。
【管理方針 更新】
【旧:神権集中型】
【新:分散選択型】
『……』
管理者の声が、
わずかに低くなる。
『あなたは、
神の後継ではない』
「最初から、そのつもりはない」
俺は、笑った。
「俺は――」
「間違える側の管理者だ」
リリアが、強くうなずく。
「……うん」
「一緒に、間違えよう」
カインが、ため息をついた。
「面倒な世界だな」
「だから、生き甲斐がある」
俺は、地面に手をついた。
世界の鼓動が、
確かに伝わってくる。
『仮管理者レイ』
管理者が、最後に言った。
『その道は、
神の修正機構との衝突を意味する』
「望むところだ」
俺は、立ち上がる。
「神が作った“正しさ”を壊して」
「人が生きる世界を、作る」
空の裂け目が、わずかに閉じた。
【ワールドエンド進行率:61% → 58%】
数字が、下がる。
小さな一歩。
だが、確かな変化。
俺は、決めた。
神とは違う管理者として。
間違いを許す存在として。
――この世界を、見届けると。




