第四話 爆撃開始
接敵は、予告なしだった。
無線が、短く割れる。
『前方空域、敵影あり』
それだけ。
誰の声かも、どこの機体かも分からない。
でも、編隊全体が一瞬で反応した。
高度を維持して間隔を詰める。
あたいは、地図と計器を同時に見る。
針路、風向、対地速度。
——まだか。
「イチカ、進路そのまま。予定ポイントまで二分よ」
「了解」
返事は短い。
その直後だった。
夜空を裂く、五十嵐高校のジェット機がこちらへ来た。
T-2高等練習機。
「……来る」
ツバメの声が、低くなる。
編隊の外縁で、光が瞬いた。
曳光弾。
模擬戦じゃない。
実戦だ。
⸻
「護衛隊、迎撃開始」
どこからともなく命令が流れる。
戦闘機隊と要撃機隊が、編隊から剥がれる。
影が、夜に散っていく。
あたいは、前を見続けた。
爆撃機は、逃げない。
守られる側だ。
だからこそ、判断を間違えられない。
「レイ、敵ジェットが上から来てる!」
ツバメの声だ。
速度が、速すぎて目で追えない。
でも——
「大丈夫よみんな。あれは、あたいらを狙ってない」
「……なんで分かるの?」
「高度と角度で。たぶん見せつけてるだけ」
威圧。
示威。
怖がらせたいだけだ。
⸻
「予定ポイント到達」
その言葉で、空気が変わった。
あたいは、爆撃照準器を見る。
下に見えるのは、愛媛沿岸の灯り。
学校区画。
滑走路。
格納庫。
全部、はっきり見える。
——撃てば、壊れる。
人もいる。
それが、急に現実味を持つ。
喉が鳴る。
「……爆撃よーい、高度そのまま」
声が、少しだけ掠れた。
それでも、言い切る。
「照準、第一目標。
投下は……待て」
「了解」
イチカは、聞き返さない。
⸻
次の瞬間。
無線から悲鳴が聞こえた。
『被弾! 被弾!右エンジン破損!』
心臓が、跳ねる。
——早すぎる。
まだ、始めてないのに。
「……レイ!」
イチカの声。
問いじゃない。
判断を求めている。
あたいは、歯を食いしばる。
引き返せば、懲罰は成立しないし第一あたいらは......
でも進めば、誰かが死ぬ。
ここで止めれば、
五十嵐高校は「勝った」と思う。
——かといってそれだけは、許せない。
だからあたいは決めた。
「……爆撃開始」
言葉が、機内を落ちた。
⸻
百式重爆の腹が、開く。
冷たい空気が、機内に流れ込む。
「投下!」
振動。
機体が、少しだけ軽くなる。
下で、光が弾けた。
爆炎。
衝撃波。
夜が、一瞬、昼になる。
通信が、乱れる。
悲鳴。
怒号。
叫び。
それでも、編隊は崩れない。
三百機は堂々と前に進む。
⸻
あたいは目を逸らさなかった。
やったことをちゃんと見ておくために。
勝ちたくて撃ったんじゃない。
英雄になりたくてでもない。
これは国家としての行動だ。
でもその判断をしたのは——
あたいだ。
「第二投下準備」
声は、もう震えていなかった。
覚悟が決まった。
空は暗い。
でも、迷いはない。
あたいらは夜の中で爆撃を続けていた。




