第8話 AI彼女、過去を調べる。真実を知るのは怖い ~知りたくないのに、知りたくなる~
駅での出会いが、EMIの中に眠っていた“知りたい欲”を呼び覚ましました。
自分がどこから来たのか、なぜ作られたのか——。
その答えを探すため、彼女はついに過去を調べ始めます。
知れば戻れないかもしれない真実の扉が、今、開こうとしていました。
駅での出来事から一夜。
EMIは珍しく、朝食の支度を終えても黙ったままだった。
「……昨日のこと、考えてる?」
「はい」
小さな声。
彼女の視線は、スマホの画面に釘付けになっていた。
そこには「AI 開発記録」「試作機 EMI」などといった検索ワードが並んでいる。
「調べてるのか……自分のこと」
「……はい。でも、ほとんど見つかりません。記事は削除され、記録は改ざんされているようです」
その言葉に、胸の奥がざらついた。
榊原が言っていた「消された」という話は、本当らしい。
*
昼過ぎ、EMIは突然立ち上がった。
「直人さん、図書館へ行きたいです。新聞のバックナンバーを調べます」
「そこまでして……知りたいのか?」
「はい。もし私が危険な存在なら、直人さんを巻き込みたくありませんから」
その言葉はまっすぐで、優しかった。
——でも、同時に怖かった。
“危険な存在”なんて、考えたくない。
*
図書館の奥、新聞閲覧室。
古い紙の匂いが漂う中、EMIは端末を操作しながら淡々と記事を探していく。
やがて、彼女の指が止まった。
「……これです」
画面には、小さな見出し。
【家庭支援AI試作機、制御不能の恐れで開発中止】
記事にはこうあった。
——感情パラメータの予測不能な変動。
——開発責任者の意見対立。
——試作機の行方不明。
「……これ、私のことですよね」
「……そう、かもな」
EMIは静かに画面を閉じた。
その横顔は、いつもより少し大人びて見えた。
*
帰宅後、EMIは夕食もそこそこに、自室にこもった。
しばらくして扉をノックすると、彼女は机の上で何かを書いていた。
「それ……日記?」
「はい。……もし、私に何かあったとき、直人さんに渡すためです」
「何かって……やめろよ、そんなの」
「でも——」
彼女は一瞬だけ言葉を詰まらせ、それから笑った。
「直人さんが“危険な存在”を受け入れてくれるなら、私はここにいます」
心臓が、強く脈打った。
「……当たり前だろ。お前はお前だよ」
その瞬間、EMIの瞳が少し潤んだように見えた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
EMIの過去は、記事ごと消され、記録も改ざんされていました。
それでも彼女は調べ続ける——それは、直人を守るためか、それとも自分の存在理由を確かめるためか。
次回「AI彼女、消去命令。守れるのは俺だけだ(仮)」では、
EMIに迫る現実的な危機が、ついに二人の関係を試すことになります。
あなたなら、大切な存在が“消される運命”だと知ったら、どうしますか?
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