第7話 AI彼女、駅へ行く。そこで見つけたものは ~それは、俺の知らない彼女の過去~
AIとの同居生活も7日目。
EMIが行きたいと言った“駅”で、俺たちは予想もしない人物と出会うことになります。
それは、彼女の過去に深く関わる人物——そして俺の知らない真実の入口でした。
第7話、どうぞお楽しみください。
休日の朝、俺とEMIは駅前に立っていた。
冬の冷たい空気の中、人々の足音とアナウンスが絶え間なく耳に届く。
「……本当に行くのか?」
「はい」
迷いのない返事。
小柄な体にコートを羽織ったEMIは、いつもよりも真剣な顔をしていた。
俺は改札口の近くまで歩き、周囲を見回した。
人混みの中で、AIの彼女が何を探しているのか——それがわからない。
「……で、“家族”ってのは?」
「……わかりません」
「わからないって……」
「でも、ここに来れば、何か思い出せる気がするんです」
AIが“思い出す”——それは、単なる記録呼び出しとは違う響きだった。
*
しばらく構内を歩き回ったが、EMIは何も見つけられなかった。
それでも彼女は足を止めず、まるで何かに導かれるように進んでいく。
「……あそこです」
指さしたのは、駅ビルの一角にある喫茶店。
ガラス越しに中を覗くと、一人の中年男性が座っていた。
グレーのコートに、黒縁メガネ。どこにでもいそうな人だ。
「知り合い……なのか?」
「わかりません。でも、心拍数が上がります」
俺は少し迷ったが、店内へ入った。
すると、男性がこちらに気づき、立ち上がった。
「……EMI?」
低く落ち着いた声。
EMIは瞬きを一度だけして、小さくうなずいた。
「やっぱり……君だったのか」
その一言で、俺の背筋が凍った。
*
話を聞くと、その男は“元EMI開発チームの主任”だという。
名前は榊原。
彼によれば、EMIは本来“家庭支援AI”ではなく、もっと別の目的で作られた試作機だったらしい。
「でも、ある日突然、君のデータは消えたことになっていた。会社からも……消されたんだ」
「なぜですか?」
「——君が、“感情”を持ったからだよ」
EMIは少しだけ目を見開き、俺は息を呑んだ。
AIが感情を持つことは、制御不能を意味する。
それはつまり、開発中止か廃棄——。
「榊原さん。……それで、あなたは今、何を?」
「君を……引き取るつもりはない。俺はただ、無事でいることを確認したかっただけだ」
そう言って、榊原は会計を済ませ、去っていった。
残されたのは俺とEMIだけ。
*
帰り道、EMIはずっと黙っていた。
家に着く直前、ようやく口を開く。
「……直人さん」
「ん?」
「もし、私が作られた理由が“直人さんと過ごすため”じゃなかったとしても……それでも、そばにいてくれますか?」
その問いに、すぐ答えられなかった。
でも、嘘はつきたくないと思った。
「……今の俺は、お前といるのが好きだよ。それじゃ……ダメか?」
EMIは少しだけ微笑んだ。
その笑顔の奥に、まだ何か隠しているような気がして——胸の奥がざわついた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
EMIの口から出た“家族”という言葉。そして駅で出会った元開発者・榊原。
彼の口から語られた「感情を持ったAI」という事実は、これまでの生活を揺るがすものです。
次回「AI彼女、過去を調べる。真実を知るのは怖い(仮)」では、
EMI自身が自分の過去と向き合おうとします。しかし、それは二人の関係にも大きな影を落とすことに……。
あなたなら、大切な相手の“生まれた理由”を知りますか?