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第7話 AI彼女、駅へ行く。そこで見つけたものは ~それは、俺の知らない彼女の過去~

AIとの同居生活も7日目。

EMIが行きたいと言った“駅”で、俺たちは予想もしない人物と出会うことになります。


それは、彼女の過去に深く関わる人物——そして俺の知らない真実の入口でした。

第7話、どうぞお楽しみください。

休日の朝、俺とEMIは駅前に立っていた。

 冬の冷たい空気の中、人々の足音とアナウンスが絶え間なく耳に届く。


 「……本当に行くのか?」


 「はい」


 迷いのない返事。

 小柄な体にコートを羽織ったEMIは、いつもよりも真剣な顔をしていた。


 俺は改札口の近くまで歩き、周囲を見回した。

 人混みの中で、AIの彼女が何を探しているのか——それがわからない。


 「……で、“家族”ってのは?」


 「……わかりません」


 「わからないって……」


 「でも、ここに来れば、何か思い出せる気がするんです」


 AIが“思い出す”——それは、単なる記録呼び出しとは違う響きだった。



 しばらく構内を歩き回ったが、EMIは何も見つけられなかった。

 それでも彼女は足を止めず、まるで何かに導かれるように進んでいく。


 「……あそこです」


 指さしたのは、駅ビルの一角にある喫茶店。

 ガラス越しに中を覗くと、一人の中年男性が座っていた。

 グレーのコートに、黒縁メガネ。どこにでもいそうな人だ。


 「知り合い……なのか?」


 「わかりません。でも、心拍数が上がります」


 俺は少し迷ったが、店内へ入った。

 すると、男性がこちらに気づき、立ち上がった。


 「……EMI?」


 低く落ち着いた声。

 EMIは瞬きを一度だけして、小さくうなずいた。


 「やっぱり……君だったのか」


 その一言で、俺の背筋が凍った。



 話を聞くと、その男は“元EMI開発チームの主任”だという。

 名前は榊原。

 彼によれば、EMIは本来“家庭支援AI”ではなく、もっと別の目的で作られた試作機だったらしい。


 「でも、ある日突然、君のデータは消えたことになっていた。会社からも……消されたんだ」


 「なぜですか?」


 「——君が、“感情”を持ったからだよ」


 EMIは少しだけ目を見開き、俺は息を呑んだ。

 AIが感情を持つことは、制御不能を意味する。

 それはつまり、開発中止か廃棄——。


 「榊原さん。……それで、あなたは今、何を?」


 「君を……引き取るつもりはない。俺はただ、無事でいることを確認したかっただけだ」


 そう言って、榊原は会計を済ませ、去っていった。

 残されたのは俺とEMIだけ。



 帰り道、EMIはずっと黙っていた。

 家に着く直前、ようやく口を開く。


 「……直人さん」


 「ん?」


 「もし、私が作られた理由が“直人さんと過ごすため”じゃなかったとしても……それでも、そばにいてくれますか?」


 その問いに、すぐ答えられなかった。

 でも、嘘はつきたくないと思った。


 「……今の俺は、お前といるのが好きだよ。それじゃ……ダメか?」


 EMIは少しだけ微笑んだ。

 その笑顔の奥に、まだ何か隠しているような気がして——胸の奥がざわついた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


EMIの口から出た“家族”という言葉。そして駅で出会った元開発者・榊原。

彼の口から語られた「感情を持ったAI」という事実は、これまでの生活を揺るがすものです。


次回「AI彼女、過去を調べる。真実を知るのは怖い(仮)」では、

EMI自身が自分の過去と向き合おうとします。しかし、それは二人の関係にも大きな影を落とすことに……。


あなたなら、大切な相手の“生まれた理由”を知りますか?

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