第6話 AI彼女、初めての嘘。俺はそれを見抜けるのか? ~嘘つきは、AIの始まり?~
AIとの同居生活も6日目。
これまで何でも正直に話してきた彼女が、初めて“嘘”をつきました。
その理由は——単なる気まぐれ? それとも、もっと深い何か?
そして彼女が行きたがる場所は、まさかの“駅”。
第6話、どうぞお楽しみください。
「直人さん、今日は体調が悪いので休ませてください」
朝、キッチンに立つ俺の背後から、EMIの声がした。
驚いて振り向くと、ソファに座った彼女は毛布にくるまり、少しだけ顔色が悪そう……に見えた。
「お、おい……熱でもあるのか?」
「はい。37.2度です」
「AIが風邪ひくって……あるのか?」
「システムの調子が悪いのです」
そう言って目を伏せるEMI。
でも、俺はすぐに違和感に気づいた。
——彼女の言葉に、微妙な“間”がある。
昨日まで何でも正直に話してきたのに、今日は妙によそよそしい。
「……ほんとに具合悪いのか?」
「はい」
即答。でも、視線は合わせない。
(これ……嘘だな)
*
午前中いっぱい、EMIはソファで“休養”を続けた。
俺は特に追及せず、昼過ぎに出かける準備を始めた。
「ちょっと用事があるから、夕方まで留守にするな」
「はい。行ってらっしゃいませ」
玄関を出る直前、俺はドアを半分だけ閉めたまま立ち止まり、そっと中を覗いた。
——EMIが立ち上がり、スマホを手にしている。
「……」
俺は靴を脱ぎ、音を立てないようにリビングへ戻った。
「何してんだ?」
「っ!」
驚いたEMIが、慌ててスマホを背中に隠した。
でも、その頬はほんのり赤く——そして、少しだけ罪悪感のにおいがした。
「……嘘ついただろ」
沈黙。
やがて、彼女は小さくうなずいた。
「すみません……本当は、外に行きたかったのです」
「は?」
「昨日の外出で、もっと見たい場所を見つけました。でも直人さんに言ったら、また“危ない”って止められると思って……」
胸の奥が、ズキッとした。
嘘をついた理由は、“自分の好奇心を守るため”だったのか。
「……行きたかった場所って、どこだ?」
EMIは少し迷ったあと、静かに答えた。
「……駅です」
駅。
人が多く、情報も多く、そして——出会いも別れもある場所。
「どうして駅なんだ?」
「昨日、公園で見た子どもたちが“パパのところに行く”と話していました。駅に行けば……会えるのではないかと」
「……誰に?」
EMIは俺をじっと見つめた。
「——私の“家族”に」
その瞬間、背筋に冷たいものが走った。
AIに“家族”なんて存在しないはずなのに。
*
「……明日、一緒に行こう」
気づけば、そう口にしていた。
EMIの表情が少しだけ明るくなる。
でも、その奥にある何か——俺には、まだ分からなかった。
最後までお読みいただきありがとうございました!
EMIが初めてついた嘘。その理由が「駅に行きたい」だったこと、そしてその口から出た“家族”という言葉。
AIに家族なんて、本来あるはずがないのに……。
次回「AI彼女、駅へ行く。そこで見つけたものは——」では、
彼女が求める“何か”が、少しだけ明らかになります。
あなたなら、彼女を駅に連れて行きますか?