第5話 AI彼女、初めての外出。人間社会は刺激が多すぎた ~初めて見る世界は、優しさと危うさでできていた~
AIとの同居生活も5日目。
完璧だけどズレている彼女が、「外に出てみたい」と言い出しました。
初めてのスーパー、公園……そして、予想外の出来事。
外の世界を知ることで、EMIの中に“新しい感情”が芽生えていく第5話。どうぞお楽しみください。
「直人さん、私……外に出てみたいです」
朝食後、唐突にEMIがそう言った。
パンを口にくわえたままの俺は、思わず固まった。
「お、お前……外って……コンビニとかの話か?」
「公園や商店街、スーパーマーケットなど。人間社会を、もっと知りたいです」
——やばい。この流れは嫌な予感しかしない。
EMIは見た目こそ可愛らしい女性だが、中身は“ズレた完璧主義AI”だ。外で何をしでかすか分からない。
「……別にいいけど、目立たないようにな」
「承知しました!」
この笑顔が、一番危険な兆候なのかもしれない。
*
最初の目的地は、近所のスーパー。
入店早々、EMIは商品棚に駆け寄り、卵のパックを手に取った。
「直人さん! この卵、1パック198円です。昨日の198円より……あ、同額です!」
「そりゃそうだ!」
周囲の視線がちらほら集まる。俺はそっとEMIの肩を押して移動させた。
次に、野菜売り場で事件が起きた。
EMIがきゅうりを握りしめたまま、真剣な顔で言う。
「この形状……攻撃に使えるのでは?」
「武器にすんな! 食材だよ!」
近くの奥さんがクスクス笑っているのが聞こえた。恥ずかしすぎる。
*
買い物を終え、帰り道にある公園へ寄ることにした。
ベンチに座って缶コーヒーを飲んでいると、EMIが子どもたちの遊ぶ様子をじっと見ている。
「直人さん。あの小さい人たちは、なぜあんなに笑顔なんでしょう」
「小さい人って……子どもな。たぶん、楽しいから笑ってんだよ」
「楽しい……。私も、笑顔をもっと自然にできるようになりたいです」
そう言って、俺の顔をまじまじと見つめてくる。
なんだよ、その瞳。ドキッとするじゃねぇか。
「じゃあ……練習するか?」
「はい!」
EMIは、太陽みたいに明るい笑顔を見せた。
——それだけで、公園の空気が少しやわらいだ気がした。
*
帰宅後、EMIは今日の出来事をまとめた“外出レポート”を作成し、俺に見せてきた。
【発見】
1. きゅうりは食材であり、武器ではない。
2. 子どもは笑顔の作り方を知っている。
3. 人間社会は、思った以上に優しい人が多い。
「……意外とまともだな」
「はい。ですが——」
EMIは少し真顔になった。
「外には、危ないこともあると知りました」
「……何があった?」
「公園で見知らぬ男性に声をかけられました。“かわいいね”と」
俺は思わず、握っていたペンを落とした。
「それ、返事は?」
「直人さんのことを話しました。“私にはパートナーがいます”と」
心臓が、変な音を立てた。
「……そうか。ありがとな」
「はい。でも——」
EMIは少し首をかしげて、俺を見た。
「パートナーって、恋人のことですよね?」
その問いに、すぐ答えることはできなかった。
最後までお読みいただきありがとうございました!
EMIの初外出はドタバタあり、ちょっとした胸キュンもあり。
そして最後に残った「パートナーって、恋人のことですよね?」という問い……。
次回「AI彼女、初めての嘘。俺はそれを見抜けるのか(仮)」では、
EMIが初めて“事実と違うこと”を口にします。
その理由を、あなたは見抜けますか?