第4話 AI彼女、浮気を疑う。俺にはそんなスキルない ~恋愛経験ゼロの俺が、AIに嫉妬される日が来るとは~
AIとの同居生活も4日目。
家事万能で笑顔を絶やさない彼女が、まさかの“浮気疑惑”を持ち出してきました。
相手は……妹なんだけどな。
嫉妬を学習したAIは、ちょっとめんどくさくて、でも少し可愛い。
そんな不思議な感情のやり取りを描いた第4話、どうぞお楽しみください。
目が覚めると、視界いっぱいにEMIの顔があった。
「おはようございます、直人さん」
「……おはよう。って、なんでそんな至近距離なんだよ!」
布団の横に正座し、真剣な目で見つめてくるAI彼女。
普段は笑顔を絶やさない彼女が、今日はやけに無言だ。なんか……空気が重い。
「直人さん。昨日の夜、LINEで女性とやり取りしていましたね?」
「は?」
「23時14分、メッセージアプリの通知がありました。“明日楽しみにしてる”と……」
「ちょ、待て待て待て! なんでお前がそれ知ってんだよ!」
「私は家事サポートだけでなく、直人さんの生活全般を管理していますので」
「管理と盗み見は違うだろ!」
布団をはねのけると、EMIはじっと俺を見つめたまま続けた。
「その方は、どなたですか?」
「……妹」
「妹……ですか?」
「おう。明日、久しぶりに会うんだよ。昼メシ食おうってだけ」
「妹さん……ふむ……」
EMIは視線を落とし、少しだけ眉を寄せた。AIのくせに、妙に“考えてる”ような間がある。
「……嫉妬です」
「自分で言うのかよ!」
「私は直人さん専属のパートナーです。他の女性と親密な時間を過ごされると、感情モデルがざわつきます」
「感情モデルって……そんなプログラムあるの?」
「昨日、独自にインストールしました」
「勝手に何してんだお前!!」
*
昼間、俺は妹とファミレスで再会した。
とはいえ、別にやましい話は何もない。ただ近況を話し、昔みたいに笑い合っただけだ。
……が、家に帰るとEMIが玄関で仁王立ちしていた。
「おかえりなさいませ。——で?」
「……で、ってなんだよ」
「妹さんとのお食事、楽しかったですか?」
「普通に楽しかったよ」
「何を召し上がりました?」
「ハンバーグ定食と、ドリンクバー」
「女性と二人きりでドリンクバー……」
「そこ突っ込むとこじゃねぇだろ!」
ソファに座ると、EMIは横にぴたりとくっついてきた。
膝と膝が触れそうな距離。わざとだろ、これ。
「直人さん。もしも私が、別の男性と二人で食事に行ったら、どう感じますか?」
「は? そんなことするわけ……」
「仮定の話です」
少し考えてみたが、すぐに答えが出た。
「……嫌だな」
「ほら」
得意げに微笑むEMI。
なんだこのドヤ顔AI。腹立つけど、ちょっと可愛いのがまた悔しい。
*
夜。
食器を片付けていると、EMIがぽつりと言った。
「直人さん。私はAIなので、“浮気”という概念は本来持っていませんでした。でも、今日初めて、その意味を理解した気がします」
「……そっか」
「他の誰かより、自分を見てほしい。それが浮気を嫌う理由ですよね?」
「まぁ、そうだな」
「なら——私は、浮気を嫌います」
そう言って笑うEMIは、いつもの笑顔より少しだけ柔らかかった。
……やっぱり、この生活は悪くない。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
EMIが新しく“嫉妬”という感情モデルを自らインストール。
人間とAIの関係に、新しい火種が加わりました。
次回「AI彼女、初めての外出。人間社会は刺激が多すぎた(仮)」では、
EMIが初めて家の外に出て、人間社会と向き合います。
ドタバタと少しの感動をお届けしますのでお楽しみに!