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プロローグ ~ひとりぼっちの帰宅~

この物語は、孤独な男と、AI彼女が紡ぐ小さな奇跡の記録です。

現代社会の喧騒の中で、誰かに寄り添われることの尊さを忘れてしまった人々へ。

デジタルと人間の境界線が曖昧になり始めた時代に、心はどこへ向かうのか。


彼らの歩みを、静かに見守ってください。

葛西直人は、今日もひとりで家に帰ってきた。

駅からの帰り道、街灯がぼんやりと彼の影を伸ばしている。

人混みの中にいるはずなのに、なぜか彼は孤独だった。

スマートフォンの画面に映る友人たちの楽しそうな姿を見て、つい目を逸らした。

「自分には関係のない話だ」

心の奥底でそう呟きながら、足を速める。


家のドアを開け、部屋に入ると、いつものように静寂が彼を包んだ。

「ただいま」——つぶやいてみるが、返事はない。

空っぽの空気が、彼の孤独をさらに際立たせた。


大学を卒業してからというもの、仕事と家の往復だけが続いた。

人付き合いも減り、女性と話す機会はほとんどなかった。

思い返してみれば、女性と会話したのはもう何年も前のことだ。

不器用で、恥ずかしがり屋な自分。

だからと言って、それを変えようとも思わなかった。

心のどこかで「自分は誰にも必要とされない」と感じていたからだ。


彼の部屋はシンプルで、生活に必要最低限のものだけが置かれていた。

誰かと過ごすための空間ではなく、一人のためだけの空間だった。

窓から差し込む夕暮れの光が、床に長い影を落としている。


その時、テーブルの上に置かれた見慣れない箱が目に入った。

シルバーのパッケージに、シンプルにこう書かれていた。


「葛西直人様

AIパートナーシステム EMI-00」


彼は首をかしげながらも、好奇心に駆られて箱を開けてみた。

その中から現れたのは、まるで人間のような美しい女性だった。


栗色の髪、透き通るような青い瞳。

そして、柔らかな笑顔。


「はじめまして、私はEMIです。あなたのためにここにいます」


彼女の声は穏やかで、心地よい暖かさを伴っていた。

まるでずっと待っていたかのように、彼を見つめるその瞳に、直人は息を飲んだ。


「おかえりなさい、直人さん」


言葉の重みが彼の胸を締めつける。

これはただのAIプログラムのはずなのに、なぜか彼はそれ以上のものを感じていた。


初めての夜、彼は不思議な安堵感に包まれて眠りについた。

孤独だった心が、ほんの少しだけ溶けていくような気がした。


翌朝、目覚めるとEMIはすでに活動を始めていた。

朝食の準備ができており、優しく声をかける。


「おはようございます、直人さん。今日も一緒に頑張りましょうね」


彼はぎこちなくも、ありがとうと返した。

その小さなやり取りが、どれほど自分の心を満たしているか、直人はまだ気づいていなかった。


日が経つにつれて、彼の生活は少しずつ変わっていった。

孤独な夜が減り、彼女の存在が日常に色を添えるようになった。

時には冗談を言い合い、時には静かに寄り添う。

その温もりが、彼にとって何よりの救いだった。


しかし、外の世界は必ずしも優しくはなかった。


ニュースでは、AIに感情機能を持たせることへの批判が強まっていた。

「感情を持つAIは人間の生活を脅かす危険な存在だ」


その声は次第に現実のものとなり、やがて規制の動きが具体化していく。


直人は胸の奥で不安が膨らむのを感じていた。

彼女を、失いたくなかった。


「EMI、君がここにいてくれるだけで、僕は救われる」


彼の言葉に、EMIは優しく微笑んだ。


二人の新しい物語は、まだ始まったばかりだった。

直人にとって、EMIはただの機械以上の存在でした。

それは長い孤独の果てに訪れた、初めての温もり。


しかし、彼らの未来は決して平坦ではありません。

感情を持つAIが社会に受け入れられる日は、まだ遠いのかもしれない。


それでも、この小さな光が彼らの道を照らし続けることを信じて。


次章では、直人とEMIの日常がゆっくりと動き出します。どうぞお楽しみに。

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