表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/18

手料理

本当ならフォークで潰したり、レンジとかあった方が楽ではあったのだけれど。


ただ今は時間がないし、レンジは見たことないから存在しないのかもしれない。


簡易的なオーブンとかならあるけどね。


「よし、茹で上がったわ。これを水気を切って、作ったソースと和えれば……」


「わぁ……見たことない料理です!」


「うむ、俺も知らない料理ですな。いわゆる、都会の料理というやつでしょうか?」


「いえ、これはどちらかというと庶民の味ですわ。ただ、味の保証はします」


皿に盛りつけたら、仕上げにチーズを削って完成だ。

それを持って、オルガ君と食堂のテーブルに座る。

まだ昼食前なので、人は疎らな感じだ。


「お腹空きました!」


「ふふ、お待たせしちゃって悪かったわ。そういえば、今更だけど勝手に食べて平気かし

ら?」


「僕、普段は自分の部屋に料理が届くんだ。だから……いいのかな?」


すると、厨房からダンさんがやってくる。


「問題はないかと。そもそも、普段のお昼は俺がオルガ様達の料理を提供しているので。ちな、今日からはそこにアリス殿も入っているぞ」


「あっ、そういえば朝ご飯も作ってくれたのよね……あの、結構量があるので少し食べます?」


「な、なに? 俺にですかい?」


「はい、朝ご飯のお礼に」


「……気になるので、有り難く頂戴します」


三人でテーブルを囲み、昼食を食べることに。

私も地味にお腹が空いていたのと懐かしさで早く食べたい。


「頂きます」


「「頂きます」」


「はむっ……ん〜!」


このモチモチした食感に、絡んだ濃厚なトマトソースがたまらない。

ベーコンの旨味とニンニクが効いていて、めちゃくちゃ美味しい。

イタリアンの良いところは、こういうシンプルなものなのに工夫次第で美味しくなる点だ。

安くて美味しい、それが本来のイタリアンだった。

悲しいことに……最近のは高級志向になってだけどね。


「これなに!? 美味しい!」


「ふむ、モチモチした食感が面白い……そしてよく噛む上にジャガイモだから腹持ちも良さそうだ。そして、ソースとよく合いますな」


「ふふ、お口に合って何よりですわ」


私も王都にいた頃は絶対に食べられなかった食事だ。

イタリアンというのもあるけど、体重管理なども王妃候補としての仕事だった。

それこそ、ニンニクなんか食べられるわけがない。

すると、ダンさんが頭を下げてくる。


「申し訳ない! 公爵令嬢様にしてシグルド様の婚約者に失礼な態度をとりました!」


「えっ? な、なんでしょう?」


「俺は貴方を、今まで来た令嬢のように思ってしまいました」


「どういう意味でしょうか?」


「シグルド様は、数回だが令嬢を連れてきたことがあった。だがその方々は、料理が

不味いだとか田舎臭いとか……そして、すぐに辺境から出て行ったよ」


そっか、私が嫌われるわけじゃなかったのね。

少し腹は立つけど、同じ料理人として気持ちはわかる。

丹精込めた食事が不味いって言われたら傷つくわ。


「いえ、私は気にしてませんわ。ただ、悪いと思うなら……口調は砕けたままで、後は今後も厨房を使わせてくれれば良いですから」


「……くははっ! 面白いお嬢さんだ! ああ、好きに使ってくれい!」


「ふふ、交渉成立ですね」


「全く、良い方を連れてきたもんだ」


「僕もお姉ちゃんが兄上の婚約者で嬉しい!」


「そ、そう……」


あれ? なにも考えてなかったけど、あんまり好感度上げすぎも良くないのかしら?

これで破棄とかなったら、オルガ君傷つくんじゃ……それに、ダンさんとかがシグルド様を責めたらどうしようかしら?


「お姉ちゃん? 汗がすごいよ?」


「平気ですかい?」


「へ、平気よ! オホホホ!」


いや、好感度が低いよりは良いはず!

うん! きっとそう!

……一応、確認はすべきかしらね。


「変なお姉ちゃん……あっ、これ兄上も食べるかな?」


「どうかしら? これ、割と庶民的な料理だから」


「シグルド様なら問題ないかと。いつも民や我々と同じ物を食べてますから」


「そうなのね。そしたらエリゼの分も作らなきゃだわ」


食べ終わったら食器を片し、同じように調理する。

今度はフォークでニョッキに形を作り、仕上げにチーズとバジルを振りかけて少しお洒落にした。

まずはシグルド様のところに向かうと、扉の前で騎士が敬礼する。


「これはオルガ様……隣の方はアリス様でいらっしゃいますか?」


「うん、そうだよ。えっと、兄上にご飯を持ってきたんだ……良いかな?」


「ええ、もちろんでございます」


護衛の騎士がノックをして食事をお持ちしたと伝える。

すると、すぐに入るように向こうから返事が来た。


「ふむ、昼ご飯か……はっ? 何故、オルガとアリス殿が?」


「はは……えっと、もしよかったらで良いんですけどお昼ご飯を作ったので……」


「アリス殿が? ……公爵令嬢が料理するとは聞いたこともない。お主の父上からの情報にもなかったが」


はい、私も聞いたことないですね。

父上が知らないのは無理もない、だってしたことないもの。

どうしよう? めちゃくちゃ引かれてるかしら?

そうよね、今の私に女の子らしいことが似合うわけなかった。

あの王太子にだって、可愛げがないって言われてきたし。


「や、やっぱり持って帰りますわ!」


「いや、食べさせてもらおう。せっかく、可愛い婚約者が作ってくれたのだから。ちなみに、何という料理名だ?」


「え、えっと、ジャガイモのニョッキ~トマトソース和え~ですかね……」


私は慌ててメニュー名を作り伝える。

というか、可愛いって……じょ、冗談に決まってるわよね!

そうそう、勘違いしちゃいけないわ。


「ほう、初めて聞く名前だな」


「ぼ、僕も手伝いました!」


「そうか……ありがとな」


「えへへっ……褒められちゃった」


やっぱり、なんか様子が変ね。

この辺りも、今度確認しなきゃだわ。

そして私達が見守る中、シグルド様が口に含む。

今更だけど、毒味とか良いのかしら?


「これは……美味い。弾力があって、腹持ちが良さそうだ」


「ほっ、お口にあって良かったですわ」


「これは何かお礼をしなくてはならんな。明日は半休が取れるが、何か望みはあるだろうか?」


「それでしたら……街の様子を知りたいですわ」


「確かに街案内は必要だな。わかった、明日案内しよう」


「お忙しいところ感謝しますわ」


ふふ、楽しみだわ。

王都では街に出ることなんかほとんどなかったし。

すると、シグルド様が私をじっと見つめてることに気づく。


「な、何でしょうか?」


「いや、表情がコロコロ変わって面白いなと……クク」


「むぅ……褒めてます?」


「ああ、もちろんだ」


そう言い、クスクスと微笑む。


私は何やら恥ずかしくなって、慌てて部屋から出て行く。


……そっちだって、普段は無表情なのに笑ったりするじゃないの。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ