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かくれんぼ

オルガ君に手を引かれ、屋敷の中を案内してもらう。


昨日はあまり見る余裕はなかったけど、改めて中を見て思う。


古い建物だけと綺麗に整備されていて、レトロ感があって素敵だわ。


ごちゃごちゃ物を置いてないし、なんだか落ち着く。


「うぅー……すぐ終わっちゃった。うち、あんまり面白いのなかったかも」


「そうかしら? 私からしたら好ましいわ」


イメージは古い西洋の洋館って感じ。

王都にある屋敷はどれも煌びやかで、正直言ってあまり好きじゃなかった。

まあ、それが権力の象徴でもあったから仕方ないんだけど。

それに対して、こっちの方が質素で過ごしやすそう。


「ほんと? 建物も二階建てだし、すぐに探検終わっちゃうんだ」


「要は遊び方次第よ。かくれんぼってわかる?」


「かくれんぼ……?」


「あれ? やったことないかしら?」


この世界には娯楽や遊びが少ない。

チェスもどきや絵本などはあるが、基本的にそんな余裕もない世界だ。

魔物や魔獣がいて、戦争などもしている世界だし。

それでも、かくれんぼくらいはあったはず。

私も小さい頃、兄さんとかと遊んでいたし。


「どんなゲーム?」


「一人が鬼になって、隠れた人を探すゲームよ」


「面白そう! やりたい! 僕、いつも一人だから……」


……そういうことね。

確かに一人では遊べないゲームだわ。

ここでは彼は領主一族というトップ、あまり同世代との関わりも薄いのかも。


「ふふ、良いわよ。それじゃ、私が探すから隠れるといいわ。30秒数えるから隠れてね。ただしこの屋敷内から出ないこと、あと人の部屋に入るのはダメよ」


「うん! わかった!」


そして嬉しそうに駆け出していく。

私は30秒待ってから、ゆっくりと屋敷を散策する。


「まずは二階からね」


二階は左右に分かれていて、右側が主にメイドや客室用で左側が私達が使う住民用。

一階に行くには螺旋階段を降りて下に行く必要がある。


「階段を降りた音はしなかったから……どれどれ」


懐かしいわ……昔はよく、兄さんと遊んでたっけ。

私ってばお転婆で、兄さんに迷惑ばかりかけた気がする。

そんなことを思いつつ、二階を見て回る。

植木鉢の後ろや、物陰などを重点的に見ていく。


「どこかなー……うーん、二階にはいないか」


「……何をしている?」


「あれ? シグルド様?」


角を曲がると、そこにはシグルド様がいた。


「……一人か?」


「えっと、オルガ君が訪ねてきて……案内をしてもらった後、かくれんぼをしてるんです」


すると、シグルド様の顔が固まる。


「……はっ?」


「えっ? だ、ダメでしたか?」


「い、いや、別にダメではないが……公爵令嬢がかくれんぼか」


「何せ、王太子に婚約破棄されてビンタするような公爵令嬢なので」


男の子ならいざ知らず、女の子は基本的に外で遊んだりしないのが普通だ。

ただ、こちとら元々は庶民の女性ですから。


「ははっ! そうであったな!」


「笑いすぎでは?」


「クク……すまんすまん。いやはや、面白い女性だ」


「一応、褒め言葉として受け取っておきますわ。あっ、そんなことよりオルガ君を探しに行かないと……」


「そんなことよりか……オルガのこと、よろしく頼む」


「ええ、もちろんですわ」


少し寂しそうなのが気になったが、ひとまずその場を離れる。

かくれんぼ中に誰も探さないと、めちゃくちゃ寂しいもの。

二階にはいなそうなので、一階を見て回ることに。

当然、メイドや使用人達が寄ってくる。


「あのアリス様、何かお探しでしょうか?」


「お仕事の邪魔をしてごめんなさい。少し、オルガ君を探してるだけだから」


「あっ、オルガおぼっちゃまなら……んっ」


私は慌ててメイドの口を手でふさぐ。

遊びとはいえ、ズルはしちゃダメだ。


「大丈夫、自分で探すから。他の方々にも、気にしないように言っておいてくれると助かるわ」


「は、はい……」


「ありがとう」


私は再び一階を探索する。

玄関ホールは広く、玄関からは二階に上がる螺旋階段が見える。

右側に行くと食堂があり、左側は主に応接室などがあるとオルガ君の案内で分かっていた。


「応接室には上手く隠れる場所は少なそうね」


人を案内するのに、刺客が隠れられそうな場所があったら困るもの。

ひとまず、食堂に向かうことにする。

中に入ると、既に食事時ではないので人はまばらだ。

私は会釈をしつつ、広い食堂を歩いていく。


「さてさて私がオルガ君なら……」


おそらく、この辺りが怪しい。

私はシーツが被せてあるテーブルをめくっていく。

すると、近くから物音がした。

ゆっくりと近づきめくると……いた。


「オルガ君、みっけ」


「わぁ! 見つかっちゃった!」


「ふふ、初めてにしては隠れるの上手いじゃない。それに、一階に降りる音もしなかったし」


「えへへ、音がしないように靴を脱いで行ったんだ」


「あら、それは賢いわね」


「褒められちゃった……あの、これただ隠れるだけなのに楽しいです!」


「それなら良かったわ」


無邪気な笑顔を見ると、こちらも嬉しくなってくる。


それに、最近の荒んできた心が癒される感じ。


ふふ、なんだか可愛い弟が出来たみたい。



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