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可愛げがないと婚約破棄されたので辺境で自由を謳歌します  作者: おとら@7シリーズ商業化


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新しい生活

 ……お腹減った。


 その思いで私の意識が覚醒して起き上がり、辺りを見回して納得する。


 何故なら、すでに外が明るくなっていたからだ。


「……そりゃ、そうよね。昨日の夕方以降から食べてないってことだし」


「お嬢様、おはようございます」


 ふと隣を見ると、いつの間にかエリゼが立っていた。

 相変わらず、気配の消し方が尋常じゃない。


「おはよう、エリゼ。貴女も、きちんと休んだんでしょうね?」


「ええ、数時間ほど寝させて頂きました」


「だめよ、ちゃんと寝ないと」


「ですが、ここでお嬢様を知ってる人は私だけですから。なので、お嬢様の身を守らないと。なにせ、相手はお嬢様を……いえ」


「ふふ、頼りにしてるわ」


 流石にエリゼには、シグルド様との盟約のことは話している。

無論、シグルド様に許可を得た上だ。

 ちなみに、打ち合わせをして決めた内容は確か……イチャイチャはしなくていいけど、ある程度仲睦まじくすること。

 朝と夜の食事は一緒にすること、それ以外の時間は自由にしていいと言われた。


「私の知らない間に、いきなり決まっていましたから。ちょっと私用で出かけてる間にあれよあれよと決まって……」


「ごめんなさい、王都には居づらかったから。ここで新生活を始めるのも悪くないと思ったのよ。その……早く、あの男を忘れたいし。恋愛とか疲れたし、こっちでのんびり過ごそうかなって」


「お、お嬢様…… 配慮が足りず申し訳ありません! ええ! さっさと忘れましょう!」


「わ、わかったから! くっ、苦しいわ!」


「あっ、つい……それでは、準備をしますね」


「ええ、お願い」


 私に抱きついていたエリゼが離れ、ドレッサーの後ろに立つ。

 私もベッドから出て、そのドレッサーの前に座るのだった。

 そして、お化粧が終わる頃……部屋をノックする音がする。


「アリス殿、起きているだろうか?」


「シグルド様? は、はい、少々お待ちください」


「待っているから慌てなくていい。部屋を出て一階に降りるところで待っている」


 そう言い、足音が遠ざかっていく。


「ほう? ちゃんと部屋の前から去るのは紳士ですね」


「……それに迎えに来てくれるとは思ってなかったわ」


「いや、別に変……いえ、前がアレでしたからね。ささ、お着替えをしましょう」


 どうやら、エリゼの中でポイントが上がったらしい。

 私としても上手くやって欲しいので良かった。

 着替えを済ませて通路を進み、階段の近く行くと……シグルド様が、脇にある椅子に座って待っていた。


「お待たせしました」


「いや、こちらこそ終わる前に行ってすまない。昨日ついたらすぐに寝てしまったから、食堂の場所もわからないと思ってな」


「はは……気がついたら朝でしたわ」


「長旅で無理もあるまい。さあ、こちらの部屋だ」


一回の通路を通って部屋に通される。

そこは簡易なテーブルや椅子、そしておまけ程度に絵画や彫刻などが置かれていた。

はっきり言って、貴族の食事処風景ではない。

普通は長いテーブルにシャンデリアとかあるし。


「随分と質素というか……ごめんなさい」


「嫌だろうか?」


「いえ、私は構いませんよ」


 むしろ、よく考えたら落ち着くまである。

 なにせ、こちらは元庶民なのだから。


「それは助かった……ククク」


「あの……」


「すまない……あまりに予想外の台詞だったのでな」


「まあ、言いたいことはわかります。でも私、こういうのは嫌いじゃないですよ」


「貴族の娘にしては珍しいことだ」


「それはそうかもしれないですね」


 その時、私のお腹が『くぅー』と鳴いた。


「あっ……」


「……いや、気にしないでいい。さあ、食事をしようか」


 あまりの恥ずかしさに下を向いて席に着く。

 すると、いい香りがしてきた。

ふと顔を上げると、給餌がやってきてテーブルに皿を置いていく。

それらは私が長年求めていたものだ……湯気が出てるから。


「わぁ……素敵」


「とにかく、まずは食べるとしよう」

 

すると、エリゼがいつものように毒味をしようと前に出てくる。


「エリゼ、ここではいいわ」


「……いいのですか?」


「これからお世話になる方々に失礼です。ただ、いつもありがとね。でも、もう立場も違うから平気よ」


「……わかりました、お嬢様の仰せのままに」


 今までは王太子の婚約者ということで、毒を盛られたこともあった。

 それにより、食事は毒味役とを必要とし、物心ついた時から冷たい食事しか摂ったことがない。

 ……王太子は高いお金がかかる回復術師を使って、御構い無しに食べてたらしいけど。


「失礼しました。この子も私を思ってのことなので」


「謝ることはない……良い家臣を持っているな?」


「家臣ではないですけど、自慢のお友達です」


 はっきり言って、辺境であるここに来たいという人は少なかったから。

 しかし、この子だけは頑なについてくると言ってくれた。

 私だって心細かったから、それがどんなに嬉しかったか。


「お、お嬢様……!」


「獣人を友達と呼べるか……ふむ」


「ダメですか?」


「いや、そんなことはない。土地柄、この都市には獣人もいる。むしろ、注意の手間が省けるくらいだ。エリゼ殿も、普通に過ごしてくれて構わない」


「シグルド様、ありがとうございます」


「……ご配慮に感謝いたします」


「では、頂くとしよう」


 まずは暖かいすれスープをに入れる。

 すると、野菜のあっさりした味わいがする。

 王都と違うシンプルな味で、故郷を思い出す。

 ……何より、熱々だ。


「……美味しい」


「それは良かった。どうやら、王都の濃い味付けに変えなくてすみそうだ」


「はい、このままで大丈夫です。素材の味が活きてますね」


「ここは自然が豊かだからな。どんどん食べてくれていい」


「はい……はむっ」


 その言葉を受け、今度はパンを食べる。

 するとカリッとした中にふわふわの食感が楽しい。

 ほんのり香るバターが美味しさを倍増させる。


「……美味しい」


 次に塩漬けの肉にかじりつく。

 塩っけがあるが、他がシンプルなのでアクセントになる。

 目玉焼きを食べても、いつもと味が違う気がする。


「お嬢様、美味しそうです」


「ええ、とっても」


「口にあって何よりだ……」


そこで前いるシグルド様が固まる。

一体、どうしたのだろう?


「お嬢様? だ、大丈夫ですか!?」


「エリゼまでどうしたの?」


「気づいてないのか……仕方あるまい」


 そう言い、シグルド様が前のめりになり……私の顔に触れる。


「な、なにを?」


「いや、泣いているのでな……放っておくわけにもいくまい」


「へっ? ……ほんとですね」


 いつの間にか、私の目から涙が溢れていた。

 もしかしたら今までの苦労や出来事が、久々に美味しい食事をして解放されたのかも。

 別にこれまでの人生を後悔したことはない。

 お父様と国王陛下が決めたことだけど、最終的には私自身が決めたことだから。

 ただ……これからは、改めて自分の人生を歩んでもいいかしら。


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