表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/18

辺境へ

 それからは忙しない日々が過ぎて行く。


 お世話になった方々に挨拶をしたり、引っ越しの準備をしたり……。


 王太子の噂やらフランさんのことなど耳に入らないくらいに。


 まあ、どうでも良いから良いんだけど。


 そして、こっそりと王都を出て辺境の地に向かう。


 ついてきたのは、小さい頃から私の世話をしていたメイドであるエリゼだけだ。


 他にも護衛はいるけど、彼らは送り届けたら帰る予定だ。


「ごめんね、エリゼ。わざわざついてきてもらって」


「何を言うのですかお嬢様、私は何処へでもついてまいります。それが、私の願いですから」


「ありがとう、正直言って助かるわ。これからも、よろしくね?」


「はい、お任せください」


 すると、その頭についた耳がピコピコと揺れた。

 エリゼは獣人族で、頭に耳とお尻には尻尾がある。

 黒髪で日本人に近い容姿で、私としては親近感を覚える。

 奴隷として売られていたところを、私が買い取ったのよね。


「さてさて、どうなることかしら」


「何かしたいことはあるのですか?」


「うーん……やりたいことはあるんだけど、まずは羽を伸ばしたいわね。ここ数年、肩肘ばかり張っていたから」


「そうですね、学園生活は大変でしたでしょうし。王太子の婚約者としての振る舞い、学業や踊りの稽古、マナーやルールを守って……だというのに、あの王子ときたら……! あの場に私がいたらぶん殴ってやったのに」


「いやいや、それは困るわ。流石に貴方が殴ったら問題になるし。ただ、その気持ちは嬉しいわ」


「お嬢様……かわいいです!」


 そう言い、いつものように抱きついてくる。

 普段はクールなんだけど感極まるとこんな感じになってしまう。

 なので、可愛いのはエリゼの方なんだけどね。

 前世を含めて、私は可愛いなんて言われたことないし。


 ◇


 そして村々を経由して、二週間が過ぎ……ようやく辺境の地にたどり着く。

 そこは大きな森と山に囲まれた、自然豊かな場所だった。

 王都とは違い、周りには大きな建物はなく見渡しが良い。


「わぁ……綺麗だわ!」


「私にとっては懐かしいですね」


「本当に良かったの? ここからなら、国に帰れるわよ?」


ここは国境でもあり、そこから向こうには様々な国がある。

 そして獣人は奴隷として人族に捕らえられた時代があったとか。

今も数は少ないが、そういうことがある。

エリゼもそうやって王都で売られていた。


「いえ、もう大丈夫です。私は自分の意思でお嬢様のお側にいるので」


「そう、ならいいわ。それにしても、この先に違う国があるのね」


 私達の国でもある大陸の東一帯を治めるデュランダル王国は、獣人とドワーフの国ガイア

 と隣接している。

境目になる国境を治めるのが、バルムンク辺境伯だ。

 一応、我が国とは平和協定を結んでいる……表向きは。


「あっ、都市が見えてきたわ」


「それに、誰かが来ますね」


「流石はエリゼ、私には何も見えないわ」


 獣人の特徴はその身体能力にあり、特に目と耳に特化した種族だ。

 しばらくすると、私の目にも見えてきた。

 夕日の中、赤髪のイケメンが馬で駆けてくる。

そして馬から華麗に降り、馬車に近づいてきた。


「……シグルド様!?」


「アリス殿、遠いところよく来てくれた」


「い、いえ、わざわざお出迎えにこなくても……」


「いや、大事な婚約者を迎えに来るのは当然だ。夜になると魔物や魔獣が活発になるからな……心配だった」


 すると、周りのメイドや護衛から歓声が上がる。

 同士に、シグルド様から目配せがきた……はいはい、わかってますよ。

私も馬車から降りて、シグルド様の手をとる。


「ありがとうございます。その、私も会えて嬉しいです」


「ああ、俺もだ。さあ、完全に暗くなる前に行こう」


 私達はシグルド様の案内のもと移動を続け、都市の中へと入っていく。

 中は道幅も広く、王都と違って建物がゴテゴテしていない。

  少し田舎っぽくて、開放的な良い風景だと思った。


「わぁ……景観が良いですね」


「王都で生まれたアリス殿にそう言ってもらえると嬉しいものだな。王都にいる連中には、田舎扱いされて評判が良くないからな」


「それは……」


「おっと、気を遣わせてすまんな」


前世では施設からのボロアパート暮らしの私、正直言って田舎の方が安心したり。

王都はゴテゴテしてるし、ご飯も格式ばかり高くて大して美味しくないし。

ふふふ、これからは色々食べたいなぁ。


「とりあえず、生活に慣れるように努力しますわ」


「こちらも補助しよう。さて、あそこが領主の館だ。すぐに中に案内し、まずは休むといい」


 都市の中の十字路の先に、一際目立つ大きな建物。

 少し古い洋館風で落ち着いた外観で、個人的には好きかも。

 中に入ってみても、質素というか無駄がなくて良い。

 あんまりゴテゴテしたりキラキラしたのは苦手だし。


「外より、中の方が涼しいですね」


「ここは水の魔石と風の魔石を使って風を通している。故に、外よりは涼しいはずだ」


「なるほど……王都ではない発想ですね」


「ここと向こうでは気温の差があるからな」


「ええ、本当に……あっ」


 頭がクラクラして立ちくらみがする。

 すると、シグルド様に優しく身体を支えられた。


「す、すいません。多分、長旅で疲れてしまったので……」


「いや、無理もない。今日のところは部屋でゆっくりしてくれ。詳しい話は、明日以降にしよう」


「ありがとうございます」


 すぐに案内のメイドさんがきて、部屋へと案内される。


 着替えを済ませた私は、ベッドに横たわり……安心したからか、すぐに眠りに落ちていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ