ドワーフ
それから数日後、私はシグルド様とエリゼと共にお出かけをする。
この数日は魔法の鍛錬や、前世でやっていたことなどを思い返していた。
その中で、料理以外で私に誇れるものが一個あったことを思い出した。
今回行くのはドワーフさんのところだし、作ったものが役立つかも。
「シグルド様、度々ごめんなさい。お仕事、お忙しいでしょうに」
「気にするな。むしろ、周りから怒られてしまった。婚約者を数日も放って置くなんてありえないと」
「ははは……まあ、仮のですからね」
ここには私とエリゼしかいないので会話に気を違わなくて良い。
心なしか、シグルド様もリラックスしているように見える。
「実際にアリス殿はよくやってくれている。メイドや使用人からも評判が良いし、オルガ
良く懐いている」
「そうなんですか? ……特別なことはしてないつもりですけど。あまり良く思われるのも良くないと仰っていたので」
「ふっ、本人は気づかないものだな。使用人やメイドに偉そうにしない、掃除担当や料理人まできちんと挨拶などをするとか」
「お嬢様は、昔からそういう方なのです。私に対しても、最初から偏見がなかったほどに」
「なるほど、生来のものというわけか」
……ちょっとむず痒いわね。
私が偉そうじゃないのは、単純に前世が庶民だからである。
そもそも未だにお世話されることに罪悪感があるし、いつまで経っても慣れない。
「あの、あんまり褒められると困りますわ」
「お嬢様はいつもそうです。本当だったら賞賛されることを沢山やっているのに、それを決して表には出さずに……」
「わ、わかったから! エリゼ、悪かったわ!」
「クク、良い主従関係だ」
私はただ、当たり前のことしかしてないのだけど……ありがとう、ごめんなさいを徹底したくらい。
そもそもこの世界の貴族がおかしいのよ、何が『謝ったら負け』よ。
悪いと思ったなら謝れば良いのに。
そんなことを考えていると、目的地である街の外れにくる。
そこにはポツンと一軒、平屋の建物があった。
「ここが我が領地に住む数少ないドワーフの一人だ」
「どうして、こんな街外れに? やはり、種族間の関係ですか?」
「いや、それがないとは言わんが本人話の希望だ。さて……ドルズ! いるか!」
すると、扉が開いて……イメージ通りのドワーフが現れる。
身長150センチ程度に厳つい顔、髭がもじゃもじゃで体格が良い。
「なんじゃ、誰かと思ったら領主か」
「急にきてすまんな。少し用があってきたのだ」
「噂の婚約者の紹介か? それなら、ワシにはする必要はない」
「いや、その婚約者が用事があるようだ。アリス殿、ご挨拶を」
私は深呼吸をして、相手を真っ直ぐに見つめる。
こういう職人気質な人には嘘や誤魔化しはしない方が良さそう。
「初めまして、ドズルさん。私、アリス-カサンドラと申しますわ。突然の来訪、申し訳ありませんでした」
「……それで要件はなんじゃ?」
「実は作って頂きたい物があるのですわ」
「ふんっ、領主のコネを使い欲望を叶えに来たか。これだから人族の貴族というものは……」
「それは否定しません。ただ、きちんとドルズさんにも益がある話を持ってきましたわ」
「ほう、このワシに人族が? ……面白い、話だけは聞いてやろう」
「ありがとうございます」
よし、第1段階クリアだわ。
ドワーフ族は土を扱う一族にして、鍛治を中心に生業にする者。
だったら、私の持ってきたモノが役に立つはず。




