氷魔法
目の前の物、それは……氷だ。
でも、おかしいわ。
この世界に氷や雪はあっても、それは自然現象の一環。
魔法で氷は、水魔法使いの方々が再現しようとして出来なかったと聞いたことがある。
「なにこれ!?」
「これは何でしょうか? お嬢様がやったのですか?」
「えっ? た、多分……」
二人が驚く理由は、氷というものは知っていても見たことないからだろう。
この国は一年を通して暖かく雪は降らないし、危険な魔獣がいる雪山などに行くことなどない。
とにかく、まずは確認することにしよう。
「うん、冷たいわ……二人も触ってみて」
「お嬢様、失礼いたします……冷たいですね」
「わぁ……本当だ!」
「完全に氷だわ」
「これが氷ですか……はるか山々の頂上にあるという?」
「なにそれ!?」
私はオルガくんにもわかるように簡単に説明する。
水が凍ったものが氷で、山頂に降る白いものが雪など。
原理はある程度知っているけど、説明してもこの世界の人には理解してもらえなそう。
「へぇ〜! でも、なんでお姉ちゃんが使えるの?」
「それは私が聞きたいくらいだわ」
「とにかく、これはシグルド様に伝える案件なのでは?」
「……それは間違いないわね」
その時に気づく、自分が汗だらけなことに。
別に仮の婚約者だし気にしなくて良いんだけど……うん、これは礼儀として。
誰に言い訳しているのかわからないが、私は一度部屋に入ってシャワーを浴びる。
そしてシグルド様の部屋を訪ねて、経緯を説明した。
「なに? 氷魔法だと?」
「は、はい……」
「まずは見ないことには信じられんな。この窓から外に放てるか?」
「や、やってみます」
何故か怖い顔をしているので、少々ビビってしまう。
やっぱり珍しいから嘘だと思われてるのかしら?
私は緊張しつつも、窓から庭に向けて氷を放つ。
すると、先程と同じように氷の塊が出現する。
それをセバスさんとシグルド様が、恐る恐る触れた。
「これは……確かに伝承に聞く氷だ」
「ええ、間違いありませんな」
「……そうか、アリス殿は公爵家の血を引いている。それならば、可能性がないこともないか」
「そういうことですな。まさか、二人してそうだとは」
なにやら、よくわからない話をしている。
「あの、伝承ってなんでしょう?」
「あぁー……我が国の建国記は知っているか?」
「確か、聖女と勇者が戦乱だった大陸を平和に導いたとか」
「やはり、その程度か。とりあえず、初代国王の妻は氷魔法の使い手だったのだ。そしてその血はカサンドラ家に受け継がれた。なので、希少ではあるが家柄的にはおかしくはない」
「……初耳ですわ」
「今の時代に知っている者は少ないだろうな。百年前の大戦で、我が国も色々と紛失しているはず」
そっか、この世界にデータなんかない。
だったら、私以外にも使い手がいたってことね。
なんか特別な使命とかあるかと思って焦っちゃったわ。
私はただ平凡に自由に暮らしたいもの。
「そうだったのですね。それじゃ、そこまで気にしなくても良いですか?」
「いや、面倒事を避けるなら吹聴はしない方がいい。その魔法で何かしたいというなら話は別だが」
「したいこと……あります」
この世界には魔法袋という便利な道具があり、冷蔵庫とかはそこまで必要ない。
それ故に調理法が狭まっていて、アイスクリームなどもない。
イタリアンにとってスイーツも欠かせないひとつだ。
何より……私、冷製系イタリアン物凄く好きなのよね。
「そうか、それならば仕方あるまい。こちらで配慮しよう」
「すみません……」
「それくらい気にしないで良い。それで、何がしたいのだ?」
「えっと、作りたい料理がありまして……」
「ほう、それは気になる。君の作る料理は美味いからな」
「ほんとですか? あ、ありがとうございます」
その後、私はしたいことを伝える。
当然、そればかりではいけないので私に出来ることも伝えた。
氷魔法でよかった……えへへ、これで前世で好きだったイタリアンが作れるわ。




