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事情説明

何からかしら?


まずは私の役目についてからかな。


「シグルド様、ここの会話は?」


「御者にはセバス、そして護衛の騎士は外。セバスだけは事情を知っているし、護衛の騎士には聞こえない。つまり、ここの会話は気にしなくて良い」


「わかりましたわ。それでは、まずは私の役目は何でしょうか? 好きにして良いとは言われましたけど、婚約者として最低限の仕事はすべきかなと」


婚約者が領地で好き勝手やっていたら、それこそ領民や家臣達の反感を買うだろう。

ただでさえ私は、婚約破棄された令嬢な訳ですし。

何より、何もしないと自分が落ち着かないのよね。


「ふっ、真面目だな」


「つまらない女なので」


「そうか? 俺から見たら面白いがな。仕事か……しかし、本当に何もしなくて良いのだ。いずれは別れるのに、いなくてはならないとなったら逆に困る」


「それは……言えてますわ」


これでも前世含めて長生きしているし、王妃候補としての教養は受けてきた。

それを使えば領内に貢献はできると思うけど、それはそれで不味いってわけね。


「しかし、それでは気が済まんだろう。それに、何もしなかったらで周りから不満も出て来る。ひとまず、オルガの相手をしてくれると助かる。あの子と対等に接することができるのは、俺くらいなのでな」


「つかぬ事をお伺いしますが……その、ご兄弟とかご両親は?」


「……両親はあの子が物心がつく前に亡くなっている。兄弟も、年の離れた俺だけだ」


そっか、だから遊び相手もいないのね。

シグルド様は領主だし、遊ぶには年が離れすぎってことかしら。


「ふふ、それなら喜んで。オルガ君は可愛いですし」


「ふっ、よく懐いているしな。ただ……いや、何でもない」


「何ですか? はっきり言ってください」


「大したことではないのだが……たまに昼飯を作ってくれると助かる」


そう言い、そっぽを向く。

ただ、横顔から見える耳は赤い気がした。

もしかして照れてるのかしら?

いや、それよりも……美味しかったってこと?


「えっと……美味しかったですか?」


「うむ、アレは実に美味かった。何より食べやすくて腹持ちも良い」


「ふふ、それは良かったですわ」


どうしよう、物凄く嬉しい。

思わず、顔がにやけてきてしまう。

昔の感覚が蘇ってくる……やっぱり、やってみたい。


「そんな顔もするのだな……」


「へっ? ど、どんな顔です?」


「まるで無邪気な子供のような笑顔だったぞ。ふっ、笑わない令嬢など当てにならん」


確かに王都では、愛想がないとか可愛げがないとか言われてたけど。

生まれを呪ったことはないけど、やっぱりしたいことではなかったから。

というか、少し恥ずかしいわね……ここは仕返しをしないと。


「それをいうなら、そちらこそ。なんてたって、氷の貴公子様ですから。どんな令嬢が近づこうが、愛想を振りまくこともないとか」


「くはっ……やめてくれ……俺が悪かった」


「ふふ、お互い様ですね。本当に、噂などあてになりませんわ」


「まあ、その通りだな。俺も別に冷たくしたいわけではないのだかな……いかんせん、話が合わんのだ。やれ家柄がどうとか、どんな家と繋がりがあるとか」


「あー……ものすごくわかります。大事なのは、その人本人が何をしたかと思いますし」


「アリス殿の仰る通りだ。先祖がどれだけ偉かろうと、本人が偉いわけではないのだ」


すると馬車が止まり、セバスさんが御者側から顔を出す。


「お二人共、仲睦まじいのはよろしいですがお着きになりましたので」


「「そんなことはない(です)!!」」


「ほほっ、息がぴったりではないですか。さあ、お降りくださいませ」


私とシグルド様は顔を見合わせ、お互いに苦笑し合う。

そして馬車から降りると、そこには人々が溢れかえっていた。

どうやら、大通りの前に着いたらしい。


「ここからは馬車ではいけませんので。ではシグルド様、しっかりエスコートなさってくださいませ」


「ええい、分かっている。全く、此奴は事情を知っているというのに……」


「そ、そうでしたね」


なのに、どうしてニヤニヤしているのだろう。

まるで、私とシグルド様が仲良いと嬉しいみたいに。

ただ、そんな疑問は……目の前の光景で消え去った。


「わぁ……凄い」


大通りには、多種多様な種族の方々がいる。

人族、獣人族、ドワーフなど。

これは、王都では考えられないことだった。


「王都では見られない光景かな?」


「え、ええ! もちろんですわ! こんな、普通にいるなんて……」


人族は差別的な傾向が強く、とある理由から自分達が神に選ばれた種族だと思っている。

なので獣人などは奴隷の過去があったり、ドワーフなども重労働を強いられていた時代もあったとか。

故に他種族の者達は、我が国から出て行ったと言われていたけど。


「一時期は断絶もしていたが、先代である父上が頑張って友好的な関係を築いたのだ。それでも、まだまだ遺恨は残っているが」


「それは素敵ですわ。そして、それをシグルド様が引き継ぐと」


「ああ、どうにかオルガへと繋げてやりたいものだ」


「オルガ君に……」


……もしかしたら、私に偽装婚約者を頼んだのは子供がいらないからかしら?


そうすれば、オルガ君が継ぐことになるもの。


……まあ、これ以上首を突っ込むのは良くないわね。

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