婚約破棄
……あぁ、なんか前の世界で見たわね。
まさか、こうして自分が体験することになろうとは思ってなかったけど。
目の前の現実を冷静に見る自分がいる。
目の前には王太子にして婚約者でもあるエルラン様と、それに身を寄せて泣きそうになっているフランさんがいた。
ここは学校の卒業パーティーで、ハメを外すために大人達はいない。
そのことで、誰も止める者がいない状態だ。
「聞いてるのか!?」
「何をですか?」
「アリスがフランを虐めたということだ!」
「いじめとは? 私は何もしてませんが? ただ、婚約者のいる殿方に近づくのは良くないと注意しましたけど」
この世界において、それはいけないこととされている。
フランさんは、王太子の他にも色々な殿方に近づいてたみたいだ。
私はそれを注意しただけなんですけど。
「言い訳は良い! 今日をもって、お主との婚約は破棄する!」
「それを決めるのは、貴方ではなくて国王陛下ですが?」
そもそも婚約を決めたのは国王陛下と私のお父様だ。
この王太子をよろしく頼むと……でも、これと結婚するのは流石に嫌。
人の話を聞かないし自己中だし、可愛い女の子にすぐに騙される。
「う、うるさいっ! そういうところが気に食わん!」
「……やはり、初めからそれが目的でしたか」
これは、口煩い私と婚約破棄したいがための茶番ということだ。
もちろん、フランさんを気に入ってるのもあるけど。
「な、なんのことだ?」
「いえ、何でもありません。とりあえず、その話はお受けしましょう。私の一存で断っても良いと言われておりますので」
国王陛下から、私が我慢できなくなったら婚約破棄して良いとは言われてる。
今日の今日までは国王陛下の顔を立てるためと、親のことを考えて我慢してきた。
ただ、流石にもう限界である。
卒業するし、このタイミングを逃したらもうない。
「そ、そうか、それでは下がるが良い」
「ただ、その前に……」
私はあえてカツカツと音を立てて、王太子に近づていく。
そして、目の前に立って……思い切り振りかぶって、相手の頬をぶっ叩く!
「ふざけるんじゃないわよ〜!!」
「へぶしっ!?」
すると、相手が数メートルぶっ飛んでゴロゴロと転がる。
多分、鼻血くらいは出てそうだ。
「キヤァァ!? 何をするの!? 相手は王太子なのよっ!?」
「そんなのは知らないわ。貴女も、ほどほどにしといた方が身のためよ? それじゃあ、私はこれで失礼します」
あぁー! これで清々するわ!
こちとらわけもわからないまま転生して、いつのまにか王太子の婚約者になって自由もなくて……こっちだって我慢してきたのに。
私はすっきりした気分で、会場を後にするのでした。