最終話〜魔王封印〜
ついにこの足で立ち上がることも儘ならなくなった魔力はとっくに底をついている
視界は霞み、頭がクラクラしている
「貴様、後悔するぞ…この先の世界…」
「貴様のせいで多くの生命が悲愴な運命を辿る事となるだろう…!」
ああ、なんて惨めなんだ。
この期に及んで、このセリフ。
負け惜しみにも程がある。
赤髪の勇者がこちらを見ている。
「ああ、そうだな。」
「魔王、お前の言う通りだ。」
「でも、違うんだよ。そもそも。」
「俺は、幸せだけが全てじゃないと思うんだ。」
勇者は表情は強く、気高く、どこか哀れみも感じた。
「ふん!幸せだけが全てじゃないだと!?」
「笑わせてくれるわ。これだから人間は!」
「個の利益ばかり追い求め、他の尊厳を踏みにじる。」
「人類の歴史は、他の不幸だ。まさか、勇者ですら他の幸せを考えないとは!!」
赤い勇者は少し間を空け、静かに頷いた。
「まあ、そうだね。」
屈辱だ。こんな奴に負けるとは。
「一思いに殺せ…」
そんな言葉を口走ってしまった。
早くこの場から去りたかった。
つまらない人生だった。
何もやり遂げられなかった。
「ああ、そうだな。」
勇者は剣を鞘から引き抜いた。
「魔王、最後にお願いがある。」
「なんだ…?死んだ後に呪うなとでも?」
「それは無理なお願いだがな。」
「違うよ、存分に呪ってくれればいいさ」
「お願いってのはひとつだけだよ。」
「僕の代わりに世界を見届けて欲しいんだ」
…。
何を言ってるんだこいつは。
今、死に直前しているヤツに。
その瞬間、やつの剣が光だした。
あの光は攻撃じゃない。
あれは、封印の光!!
「貴様!!!これ以上我を踏み躙るつもりか!!」
「踏み躙ってるつもりは無いさ!」
「僕は本気だよ!今まで見た中で君ほど綺麗な心持った生き物は見た事がない!」
「君ならきっと、本当の世界平和を実現出来るさ!」
辺り一面が光に覆われた。
足先から段々と溶けていくような感じがする。
「この屈辱忘れんぞ!!人間どもめ!勇者め!」
「300年だ。300年後、世界に平和は訪れていないだろう。」
気がつけば真っ白な空間だった。
思考の一つ一つがまるで電球の電気が切れるように、何も考えなくなっていく。
人間どもめ、勇者め。
俺は、お前らを全員憎む…。