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高校生夫婦  作者: むかしばなしかたりぐみ
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いきさつ

僕たちは保育園で知り合った。

4つで引っ越してきて、最初に友達になったのは克也だった。友達もいなくて外遊びの輪に入れず、園庭の隅でダンゴムシを探している僕に声をかけてきたのだ。

「だって、みんなが砂場で遊んでんのに、一人だけでなんかひたすら石をひっくり返してるって、気になるだろ?絶対声かけんじゃん」

なんで僕に声をかけたの?という質問に、克也はあっけらかんとこう言った。こいつは昔から、人とは違うものを放っては置けない性格だった。

理沙に声をかけたのもそういう理由らしかった。通っている保育園の名札はかわいらしいチューリップを模したものだったが、一人だけなんだか大人の人がつけるようなラミネートの四角い名札をつけているのが理沙だった。

あとで聞いたら、ずぼらな理沙の母親が、服と一緒に洗濯機で洗ってしまったらしい。ぐしゃぐしゃになったそれを報告もせず、「店にも名札があるから、それでいいでしょ」と当時務めていた店で使っていた名札をつけさせたのだ。名前のところはさすがに、二重線を引いて「りさ」とひらがなでかいてあった。園の先生が見とがめて注意しても、この母親は一向に直そうとはしなかったらしい。

「人と違うことの何が悪いのか。名札はちゃんと役割をはたしている。だめにしてしまったのはこちらの責任。だからこの名札をつけさせる」

これがもったいぶった母親の言い分だった。

理沙の父親は女と浮気して、理沙が生まれた時に出ていったらしい。女手一つで育てられていたので、母親の帰りを待つ日もあったのだろう。母親が帰ってくるまでの間、理沙を預かっていたのは克也の家だった。二人の母親が帰ってくるまで、当時生きていた克也の祖父が面倒を見ていた。

弁当屋の仕事を終えて母親が帰ってくると、理沙は母親と家に帰る。だが話によると、母親はちょくちょく理沙を置き、外泊していたらしい。母親がいない間、理沙は母親が置いていった弁当の残りと、財布に入っている1000円札でしのいでいたそうだ。暗い家の中で冷めた弁当を食べながら、理沙は何を思ったのだろう。

お母さんが帰ってこない、と泣きながら理沙が克也の家にやってきたのは、理沙が小2の時だった。

僕たちは克也の家で克也とゲームをしていた。チャイムの音に出てみると、紺のカーディガンを羽織って、パジャマ姿で泣きじゃくる理沙がいた。2,3日前から、学校には風邪で休むと連絡があった。実際、風邪を引いて寝ていたらしい。

薬を買ってくるから寝ていろ、と言われてからずっと理沙の母親は帰って来なかったらしい。2日熱を出して寝込み、起きてみたら母親の姿がなかったそうだ。

パート先には2週間前に退職願が出されていたという。

駆け落ち、とまことしなやかな噂も聞いた。たった一人残った理沙をどうするか、大人の対応は子供の僕らを不安にさせた。その時放った克也のおばさんの輝く一言を、僕はずっと忘れないだろう。

「この子はうちの子。ずっと面倒を見てきたんだから、面倒を見られるのはこの子の権利。もし良かったら、ずっとうちにおいで。もちろん、理沙ちゃんが嫌じゃなければ。」

理沙はその言葉に泣きながら、ぎゅっと唇をかみしめてうなずいた。そうしていろいろな手続きを経て、晴れて理沙はおばさんの養子になった。

それからはいろいろとあった。じいちゃんが認知症になって克也と理沙で面倒を見たり、おばさんが弁当屋の店長に抜擢されたり。これからいよいよバリバリ仕事できるね、と言った矢先に、おばさんがガンになった。いままで無理したつけが回って来たらしい。

余命宣告を受けてお先真っ暗になり、学校をやめかけた克也を支えたのが理沙だった。

「今まで支えてきてもらったから、今度は私がおばさんとかっちゃんを支える。バイトして、生活費入れて、おばさんの面倒も見るよ。介護だったらじいちゃんで慣れてるから大丈夫。かっちゃんと一緒なら、何とかなる」

その言葉に奮起したのか、克也は再び学校に来るようになった。そうして、せめてもの約束のつもりと、二人は結婚することになったのだ。

当時、高校生なのに夫婦になることに、周りからはだいぶ反対されたようだ。だが、二人の決意は固かった。結局、子供は作らない、しっかりと卒業する、生活が安定するまでは周りの援助を可能な限り受けることを条件に、二人は籍を入れることになった。

嫌がらせは確かにある。だが、僕たちは基本的に二人を応援してる。何より支えあって生活している二人は、僕からしてもうらやましく思う。

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