聖女の婚約者
朝、起きて思い付いたお話です。
神託の儀。
15歳をむかえる少年少女は教会にて神々より祝福を受ける。神々が少年少女のこれまでの行いや才能から職業を授けるのだ。
今年の神託の儀は例年とは異なる盛り上りを見せていた。
何故なら今から15年前に王妃様の職業が〖聖女〗から〖王妃〗へ変わったからだ。それは新たな〖聖女〗が誕生した事を示していた。
「私。聖女にならないかしら」
「夢あるわよね」
私。ミルクの前に並ぶ二人の少女が語り合っていた。
少女達は目をキラキラと輝かせて神託の儀の順番を待っている。
この時、私は彼女達とはまったく逆の心境でいたのだった。
無いとは思うけど……
聖女だったら嫌だなぁ……
聖女の伴侶は勇者。
王国民の義務。勇者は代々王族の王太子が就く職業である。
今年に神託の儀を受ける少女達のほとんどは王太子姫というサクセスストーリーに憧れているのよね。
ほとんどの少女と言ったのだから当然だけれど例外が存在する。それは愛する好きな人が居る場合だ。悲恋となってしまう。
私には気になる人がいた。近所に住む同い年の少年だ。
いつも隣にいた彼の事を好きだと気付いたのは神託の儀を3日前に迫った時だった。
友達が、
「私達の誰かが聖女だったとしたら……こうして遊べなくなっちゃうね。でも、ずっと私達は友達だからね」
しんみりと呟いた言葉がきっかけだった。
友達の少女が放った言葉が私の心に深く突き刺さった。そして、もう会えなくなるかもしれないと思った時、真っ先に思い浮かんだのが彼だった。脳裏に浮かんだ彼の姿に心がキュッとする。この瞬間に私は自覚したのだった。
「おおっ!」
突如、周囲がざわめいた。
「公爵令嬢。メルフィナ様が今代の聖女様となられた!」
どうやら聖女が見付かったようね。
儀式を受けたらフラれるかもしれないけれど彼に告白しよう。
因みに珍しい事ではあるけれど、婚約はもちろんのこと愛しているとの告白も成人となる15歳までしないというものが王国でのマナーとして存在している。
これは昔、神託の儀により何故か悲しい出来事が多発してしまった事によるらしいわ。
ある貴族家では神託の儀を境に嫡男が失踪してしまったり、突然婚約が破棄ないし白紙になったり婚約者が変わったりと問題がおこるのだ。男子はまだいい。子女は婚約が破談すると致命傷となる事が多いのよね。当時は……
王国の民も職業によって、国や雇い主等の立場の上の存在に縁談等の横やりが入るのだ。例え婚約者や恋人がいたとしても……有能な人物を手元に集める事ができれば自身の権力を強化することが出来るのだから……
貴族も民も神託の儀を境におこるトラブルは想像以上に大きくなる事が多く何時しか王国でのマナーとなってしまったのよね。
もっとも15歳を過ぎれば私達のような民のほとんどは自由な恋愛が出来るのだけれどね。
そんな事を思いながら私は神託の儀を受ける為の列に並ぶのだった。
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