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おはよう から おやすみまで

作者: 氷室 愁


おはようーー


はっと目が覚めて、時計を見ると今日も6時きっかり。しょぼつく目をこすりながら隣を見ると、背中を向けて布団に潜り込んでいる君がいる。何故か、右を向いて眠る癖がある君。付き合いたての頃は、それが寂しかったものだ。


「朝だよー」


つんつんと頬をつつくと、眉間にしわを寄せて身動ぎする。それでも起きないことも、知っている。

今度は、ふわりと寝癖のついた前髪を撫でてみる。小さな呻き声がした。これが君の、起きる合図だ。

さっと君の方に体を向けたまま、布団に潜り込む。


「ん……6時」


時間を確認する声と、大きなあくびの声。そして、いつもどおり抱き寄せながらそっと布団をかけ直してくれる優しい手。

付き合いたては、背中が寂しかったものだ。結婚した今、その優しさを知っている。


「おはよう」

「ん~……。おはよう」


だから、もう一度寝た振りをするんだ。




いってきます、いってらっしゃいーー


君がいつも寝た振りをしていることは知っている。何年隣で寝てきたと思っているのだろう。寝ているときと、起きているときの違いなんて、君よりも知っている。

いつも頬をつついて、前髪を愛おしそうに撫でていく手。そのまま掴んでしまいたいけど、ぐっと我慢してその時起きた振りをするんだ。

だから、本当は知っている。


ガチャッーー


「うふふふっ」

「くくくっ」

「こら、しーっ」

「しーっ」


そーっと息を潜めて、起こさないようにと入ってくる君達のことも。

小さな足音と、笑い声が隠しきれていない。子供は遠慮がないものだ。ベッドにかける重みだって、遠慮がなく、マットレスが傾いてしまう。


「チュッ」


そっと唇と頬に落とされる柔らかな温もり。


「いってきます」

「ん……いってらっしゃい」

「あ、起こした?」

「んーん、いってらっしゃい」


頬をうっすら染めて、照れる君。その横に並ぶ、小さな顔いっぱいに広がる2つの笑顔。

いい日になることを祈って、今日もお見送りする。




ただいま、お帰りーー


大きな大きな、しょうもない喧嘩をした。何で怒ったか、どうして喧嘩になったのか、今じゃ分からない。朝も荒々しくお見送りをして、何でこんなことになっているんだろうと、今じゃ後悔してる。


「お父さんも、お母さんも、お互い素直に謝った方がいいと思うよ」

「ま、どうせいっつもの如く、すぐに仲直りするんだろうけどな」


そんなことを言って、今回こそ仲直りできなかったら、どうするのだ。

君の好物ばかりが並べられた食卓。これで機嫌をとろうだなんて、調子がいいだろうか。


「相変わらず、私たちが出ていっても、仲良くしてるみたいだしね」

「あ、帰ってきたんじゃない?」


がちゃりと玄関の音が聞こえてきたと同時に、足は玄関に向かっていた。色々な気持ちを抱えながらも、玄関に向かう足取りは軽い。自然と笑顔までこぼれ出す。

さっと冷たい冷気と共に入ってきたのは、ケーキを片手にした笑顔の君だった。


「ただいま」

「おかえり」




おやすみーー


あれから、どれくらい経っただろうか。あれから、どれだけ“おはよう”を繰り返してきただろうか。

隣で横になる君の顔には、深いしわが刻まれて、髪だって白くなっている。それは、お互い様か。

前は必ず起こしてくれていた君。最近は起こしてあげることが増えてきた。変わらないのは、きっとお互いへの愛情だけ。いや、愛情すら、変わってしまったかもしれない。あの頃より、ずっと、ずっと、深く愛している自身がある。


「ねぇ、君も一緒でしょ」


そっと顔にかかる髪を払い、その額に口付けを落とす。


「ありがとう。おやすみ」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 凄く理想的なリア充でした! ほのぼのしました!
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