9 二足く四足
かの大山倍達いわく
人間は日本刀を持ってやっと猫と対等だ、と
ちゃんちゃらおかしいわ。
そりゃ追い掛けて仕留めるのは難しくても、噛み付かれたところ捕まえたら自分より小さな獣なんてシメコロ余裕ですよ!とか考えていた時期が僕にもありました...
オワァァァァァァ!‼︎
四足獣の俊敏性、人間とほぼ同じウエイト
その時点でもう無理ゲーよ
アッ、ヤバ!シンジャウ!
:つまりこの状況は仕方ない、仕方ない事なのだ
「あぁぁああ!来んなやクソ犬うぅ!!!」
:むしろ開幕壁際仰向け状態から巻き返した事を褒めたいくらいである。
「おぉ、フン!ガ!!」
:飛びかかって来た[キラードック]の左頬を殴り付け、首と左前脚を掴んで壁に投げつける
大したダメージは与えられていないが、この隙に地面に転がっている杖を拾い上げて体勢を整える。
杖を両手で持ち、正眼に構えて息を大きく吸う。
「や、やっと、止まれ、た。ゼエッゼエッ、
ふぅ〜〜〜〜〜。...よしゃ、やるしかねーか」
:逃げようにも洞窟は一本道、出口は無く、入ってきた扉も閉まらない。正直分が悪いが、
逃げるコマンドは選択できなかった。
まぁ出口があろうがレベル2の順平では大型犬相手に逃げ切れるはずもないのだが…
殴られた衝撃から復帰したキラードックは猛然と駆け出し、勢いそのままに飛びかかってくる。
順平は杖を両手で横向きに持ち、少し下がって相手の力の加わるポイントをズラして牙を防ぎ、逆に押さえ込む事に成功した
ガッ!グルンドシ!
「へっ、へへ!ワンパターンワンコめ、端で受けたからこんな棒切れでも丈夫だわ!」
:棒、杖などで攻撃を受ける際、余裕があれば中央で受けるのは避けたい
相手の力と自分の受ける力でテコが起こり、脆弱な物だとポッキリと折れる事になる
それはもうボンボンアイスの如く
しかし端で受ける事が出来れば折れる可能性はかなり下り、力の均衡が取れない為、上手くすると相手の力を利用して回り込むように身体を反転させる事が出来る。
相手が犬のような生物で、噛み付いて来たならば今回のようにそのまま地面に押さえ込むのが理想だ。
「まてまて、痛くしないから、先っちょだけだから大丈夫大丈夫 あ、」
:爪で引っ掻かれつつ、落ち着くために軽口を叩きながら膝で棒の片側を押さえ、ドライバーを抜こうとしたその時、洞窟内にミシャリと嫌な音が響き、フッと膝の力が抜けるように体勢を崩された。
口に押し当てていた杖が噛み切られたのだ。
「あぁ〜、それは端とか関係ないよね、棒自体の強度の問題だしなぁ〜。
しっかし噛む力強いなお前やるじゃんグッボーイグッボーイイィォイイィィ!!」
カラーンカラカラカラ
杖の支えが無くなり、体勢を崩した所を前脚と頭で押し込まれ、先程とは逆に押さえ込まれた
しかも衝撃で両手の武器を取り落とす
「うぐ、く、そ犬が」
:圧倒的優位な状況に、絶えず舌を出し、よだれを垂らしていた口角が醜く歪む
強い敵意を感じさせていた赤い目が、
侮蔑と愉悦の色を含んだように見えた。
戦いに勝利し、得た獲物にトドメを刺そうとその首に口を寄せ、後はゆっくり閉じるだけ
が、その口が閉じる事は無かった
キャグガギャウ!
:先程噛み切った杖の端の部分が、舌を下顎に縫い付けるように刺さり、上顎を閉じようとすると更に深く自分を傷付ける。
取ろうにも掴む指の無い前脚では難しく、
痛みに悶えるうちに背中から押さえ込まれ
耳と目にドライバーを打ち込まれてしまい、少しの間ビクビクと痙攣して、
…キラードックは動きを止めた。
「さっさと噛めば良いのに油断したなバカ犬が、霊長類なめんな!」
:アホが言った事です他意はありません
武器は倒れた勢いで後方に転がっていたが、
直前に噛み切られた杖はその場に残されていたのが幸いした
勝利を確信し、恐怖に歪んだ末期の顔を楽しもうとゆっくり近付く口に突き刺すのは割と簡単だった。
なまじ知能があるモンスターである事が災いした結果といえる。
あとは後ろから組み付いてベルトのドライバーを突き刺す、念を入れて4本全て両眼両耳に。(1本拾って来た)
こうして人生初の生命の危機を感じた戦いは意外とあっさり終わった。
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[キラードック]
ドーベルマン系の立ち耳短毛種の犬型モンスター
1.5m 60kg程で現生のドーベルマンよりは2回り程大きく、噛む力は3倍程だとされる。