38 光明・巧妙
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それから何度無謀な探索を繰り返しただろうか…
縮めて光線を収束する90000lm高性能ライト
バッテリー持ち込みでまるで昼のように辺りを照らすフィールドライト
ただぶちまけただけであんまり意味がなかった蓄光塗料
そして、試行に次ぐ試行により生み出された至高の逸品、1.5m程の固い木の槍に蓄光塗料を塗りたくり、穂先にパリピが浮かべる光る風船をきびりつけた。
正直コレを持ち歩く人とあんまり近くにいたくないな〜となりそうな逸品だ。
これに命名スキルで[ルグの槍]と名付けた。
ケルト神話の太陽神[ルグ]の名を冠する、今の状況に光明をもたらす槍となった。筈だ。
コレと防具、鉈と高性能ライトライトを腰にぶら下げ、実に17回目の探索に臨んだ。
「はぁぁー!!!」
:意外や意外。いや、試行錯誤の末に出来た物だからそうでなくては困るのだが、ルグの槍はとても役に立った。
1.5mの槍はあまり長いとは言えないが洞窟内でも邪魔にならず、その光は仄かだが確実に敵を炙り出す。
パリピバルーンは早々に狙撃の的になった。
しかし、実はそれが狙いで、硬化を使用しているバルーンは生半可な攻撃では割れない。しかも固定されてない事で衝撃を逃す構造の為、光源を断とうとするその試みは、ただ自分がどこに潜んでいるかを教えてくれるチャイムでしかなかった。
全勝、殲滅。
トゥルバリンはDランクで、ヒュージゴブリンと同格なのだが、その評価は暗闇に潜んだまま狙撃を可能にする魔法によるものであり、それを封じ込まれれば大した相手では無かった。
「ふ、ふははは!これで5000万は俺のものも同然だ!何体でも全て狩って!狩って!狩り尽くして!宝石王に!俺はなる!」ドン!
: …こんなんになってしまう程にまでに5000万円の魔力というのは恐ろしいのだ。
探索開始から1時間。
連戦連勝に油断し、注意が欠けつつあったその時、小さな赤い光が2つ、視界の端に現れた。
咄嗟に槍を構える。
衝撃と共に後ろに抜ける風の音。
見ると槍の柄が半ばまで切り裂かれている。
「くっそ、最悪だ…」
血の気の引いた顔で力無く吐き出す言葉は、
この状況の深刻さを詳らかにする。
[グリムリン]
洞窟など暗所を好み、その赤い瞳は可視光線の無い暗闇でも獲物を捕捉する。
強靭な脚力で洞窟内を天地無用に跳び回り、その鋭い爪で切り裂いていくというCランクモンスター
初発見はアメリカで、悪夢の名を付けられたゴブリンの一種だ。
性格は残虐・残酷で、名は体を表すとはよく言ったものだ。
まぁモンスターの名付けは後付けなので当然なのだが。
「くそ!よりによってコイツかよ!!!
ぐっ、クソ見えねぇ速すぎる…!」
:多少の光源があるとは言え、漆黒の6階層。
そのスピードでもって視界から外れるように動かれれば、僅かな赤い線を終えるかどうかという程度だ。
爪の攻撃力も高く、硬化した防具にはじわじわと傷が増えていき、このままでは引き裂かれ、中身を晒すのも時間の問題だろう。
「ぐっ、うっぐぁあぁぁぁあぁ!」
:そして数合の後、遂にグリムリンの爪が獲物の肉を捉えた。
翻弄され、徐々に削られた防具は脆くなり次第に穴が空き、手薄となった順平の左腹部へ深々と刺し込まれた右腕から胴体へ向け、ゆっくりと血が滴り落ちてくる。
べろり、と肩口まで来たその血を舐め取り、獲物の断末魔と共に早めの勝利の美酒としたグリムリンは、トドメを刺さんと左手を持ち上げ、気色混じりの鬨の声を上げる。
グゲェェーー!!グ、グガガ、ゲェギャァ!
が、後半の色は違うようだ。
「いっづづづ、クソぉこの恨みはらさでおくべきか!!!はらーす!!!ぱわー!!!」
:先程の悲鳴と裏腹にやたらと元気な掛け声と共に、かわかみじゅんぺい君はのたうち回るグリムリンにルグの槍を突き刺し、太陽神の槍たるその能力を解放する。
一瞬にして広がる閃光、目の前に太陽が現れたように、槍自体が眩く発光し通路を照らす。
その光が徐々に衰え、辺りが元の暗さを取り戻した頃には、目の前をぼんやりと照らす槍と、眼に槍が突き刺さり、身体が仄かに光るグリムリンの死体だけが残っていた。
[グリムリン]
体長70cm程 Cランク
ゴブリン種の中でも小柄だがその機動力、攻撃力は屈指の存在。
尚且つ暗闇での戦闘を余儀なくされる為、強さ以上の難敵となる。
好戦的で残忍な性格ながらも頭はあまり良くない為、鶏などを使った罠などで捕らえてから倒す方法が安全確実にとされるが費用対効果が最低なのでまったく人気が無い。
なおドロップは魔石と黒爪で3万円程度である。