抱えているもの
翌朝7時。目覚まし時計が大音量で鳴り響く。扉を同時に開けた昴、颯の2人は脱衣徐で顔を洗い口をゆすぎリビングに向かうとキッチンに深緑の浴衣を着て白い紐でたすき掛けをしている湊がいた。
「お、起きてきたな。おはよう」
2人を見て湊が言う。カウンター席には女子3人が座り焼いた食パンに何かを飲んでいた。全員がパジャマ姿だった。
「湊……お前、寝る前はグレーのスウェットだっただろ?」
昴が言った。
「そうだよ? でも寝るときは浴衣でね。家でもこの格好だったし……見苦しかったら変えるから言ってくれ。さて、今日の朝はトースト一択だけど飲み物は選べるぞ。牛乳、カフェオレ、インスタントコーヒーどれにする?」
「インスタントコーヒー」
「おれもインスタント」
昴、颯が言っていく。
「よし、待ってて」
湊はトースターに食パンを2枚入れてダイヤルを回す。
「昴、コーヒーはミルクと砂糖いるか?」
「いや、ブラック」
「よし、颯は? ミルクと砂糖いる?」
「んー、おれもいらないな。ごめん、先に着替えてくる」
「2人とも格好いいな」
颯がリビングから寝室に戻っていくと湊はマグカップにコーヒーの粉末を入れてお湯を注ぎマドラーでかき回す。
「湊、ご馳走さま」
円が3枚のパン皿を重ねて立ち上がる。
「うん。足りたか?」
「お腹いっぱいだよ。ありがとう」
円たち3人はリビングを出ていく。
「お待たせ、昴。席へどうぞ」
湊は皿とマグカップを下げると台拭きで綺麗に拭いて焼き上がったトーストとマグカップを端に置くと同じのをもうひとつ置いた。
「颯も食べな?」
リビングにやって来た颯に声をかける。颯は制服に着替えていた。
「お前はエスパーか」
颯が席に座りながら言った。
「何となくわかっただけだよ」
昴と颯は空いている最後の席に目をやった。その席は空席だった。昴は湊を見る。
「湊、お前の朝食は?」
「俺? もう食べたよ?」
「「いつ食った?」」
2人が声を合わせる。
「みんなが起きてくる30分前」
「30分……6時半に起きたのかお前!?」
昴が驚く。
「うん。みんなの弁当作るのに……簡単なおにぎりだけど……」
「あー、うん。ありがとう。眠くねぇの?」
「もう覚めたよ」
湊は冷蔵庫から鮭のほぐし身、昆布を取り出し棚からかつぶし、醤油を取り出して炊飯器を開けて白いボウルに炊きたての白米を入れて手を水で濡らし三角形のおにぎりを手際よく作っていく。
「おにぎりだけど三角と俵でいいか?」
「いいぞ……つーかお前が作るのな。順番とか決めてないけど」
「俺が好きでやっていることだから……おにぎり出来た。後は玉子焼きとウインナーかなぁ」
湊は冷蔵庫から出しておいた卵を4つ出して割りかき混ぜていき玉子焼き機で焼いていく。
焼き終わると皿に移し余熱を取っていきながら小さなフライパンでウインナーを炒めていく。出来上がるとそれを重箱に詰めていく。
「よし、出来た」
湊は洗い物をしていく。
「ちょっ、ちょっと待って。ごちそうさま!」
「ごちそうさまでした!」
昴、颯が皿をカウンターに重ねて置いた。
「あ、ちょっと待って2人とも手ぇ出せ」
湊がそう言うと2人は素直に手を出した。湊はその手に小さく丸めた白米を乗せていく。
「米が余った。食べてくれ」
2人はそれを口に放り込む。ただの白米かと思いきや塩気が効いていた。
「素朴でうめぇ。ありがとう」
「ん。ほら、学校行く支度しちゃえ」
2人がバタバタとリビングを出ていくと円が洗濯かごに洗濯物を入れてやって来た。
「洗濯か? 干すとき遮光カーテン閉めれば中から見えないぞ」
「うん」
円は窓を開けて外に出ていく。洗濯を干す場所は庭に作られたサンルームで贅沢に2つあり男女で別れていた。
「これがあるならこの生活もいいかもな」
食器の洗い物が終わった湊は部屋に戻り制服に着替えていく。家中の鍵の施錠を確認して家を出ていく。湊は大きな紺色の風呂敷に包んだ重箱と大きな水筒を持っていた。
「大きいな」
「どれだけ食べれるかわからないから炊いた米ありったけで作ったんだ。不味かったら残しても良いからな」
午前中は通常授業をやりそのあと昼食となった。G組は食堂及び購買での買い食いは禁止だが必ず昼食は食堂で取る決まりとなっており座席も決められていた。真ん中にお重を置き取り皿と箸をそれぞれ手渡し重箱を開けていく。一段目にはおにぎりで二段目には玉子焼き、ウインナー、ブロッコリー、ミニトマトで三段目にはイチゴ、カットされたキウイフルーツが入っていた。
「うまそー!! 食べていいのか!?」
「腹ペコだぁ!!」
男子2人が目を輝かせる。
「手を合わせて頂きますしてからな」
湊はプラスチックのコップに粉末緑茶を小さじ一杯入れていき魔法瓶の蓋を開けて順番に湯を注いでいく。
「全部温かいのでごめんな? 明日から冷たい水も用意するから……あ、麦茶でもいいな」
「あぁ~。もうそこまでしてくれるな。ほらほら、食べようぜ。ほら、いただきます」
昴が言うと全員が号令をしたのちに一斉におにぎりを食べ始める。
「あぁ~、塩加減が絶妙だぁ~!」
「頭使ったからうまい」
「それは良かった」
湊はおにぎりを掴み一口食べる。
「うん、美味しくできた」
しかし、やはり量が多すぎたのか余ってしまい食べきれない分は夜に回すことになった。
「ごめん。明日から調節する」
5、6時間目は物体生成、物体浮遊、点火、等を行っていく。皆が休むなかで休まないでいる湊は地面から出された岩を影を使って浮かせていく。昨日はたった数センチしか上がらなかった大岩が今日は約10センチも浮くようになっていた。
「先生浮きました」
「おめでとう。報告するのは1メートル上がってからな」
(なんで……そんな頑張れるんだ……オレはダメなのに)
颯は拳を強く握った。