手のぬくもり
冬の朝にいつも、浅い夢の中で思い出される誰か?
生きるのにも、辛さを感じている十代の子に第一歩を踏み出させたのは?
吾妻 純、この冬で15才になる少女、高校生になり、初めての冬を迎える。
中学から一緒の友達、学習塾で一緒だった友達、何故か?純を中心に7人のグループが出来上がっていた。
男女交えてのグループ、幼なじみ、小中校と一緒だった友達、部活の友達、塾で学区を越えて知り合った――友達……皆、私の狭い世界の全てだった。――
今年一番!の冷え込みが私に冬の到来を伝えた朝……、まだ瞼が重い……、起きたくない!
えっ?二度寝の筈が…公園の白く霜が降りて凍った枯れた芝の上で…寒い!!
夢?凍えて、手を擦っている。
この公園、どこだっけ?
誰かと……待ち合わせ?
公園の遊具って?こんなに大きかったっけ!?
視界を何か?に塞がれて慌てだしたが……温もりで“手だ!”とわかった!?
「○○っ!」
と誰かの名前を思いだし、叫んだところで夢から覚めた。
気だるい朝、人の往来、ゆっくり歩くのは、純だけ、フリースクール、通信制高校でも制服があり、登校しているが…行きたくな・い。
イヤフォンでスマホにDLした曲を聴き、気分を誤魔化しながら、通っている。
カメラ店の前を通り過ぎようとすると締め切られたガラス戸から毎朝、見送りしてくれる白猫が前足を挙げて、純を見つめている。
この白猫が生まれた時から、顔見知りで趣味のフィルム式カメラの撮った写真の現像をお願いする時に、いつも、足元にまとわりついて、くすぐったかった。
小さな個人経営のレストランの前に二輪の花が咲いている。
首に掛けた、アンティーク風のフィルム式の二眼レフ・カメラで花を撮影。
道ですれ違うサラリーマンは、そんな花を撮る純を怪訝な目で見ていた。
大きなお世話だ!と心のなかで呟き。
その目を見返した。
おじさんも驚きながら、急いで去って行く。
もう、学校の前に着いてしまう。
憂鬱な午前の授業が終わり、お昼、購買部のパンを買おうか?
学食で食べるか……迷っていると
「純ちゃん、一緒に食べよう」
といつの間にか出来上がっていた7人のグループの一人、香澄ちゃんが誘ってくれた。
香澄ちゃんは、塾で知り合った友達、私よりも、積極的な子なのに…高校へ進学したのに……半年もせずに高校の生徒同士の人間関係がこじれて、同じ通信制高校に通うことになった。
学食へ向かうと行列が出来ていて、最後尾でお喋りしながら並んでいるとあっという間に順番が回ってきた。
私は、「カレー」、香澄ちゃんは、「焼き魚定食」を注文して、プレートに載せて空いてるテーブル席に座って、昼食を摂りながら、
“あーでもない、こーでもない”と取り留めのない会話をしながら、メッセンジャーアプリで友達グループのトーク画面を覗くと
“変な子供に話しかけられた”
との話題で盛り上がっている。
“どんな子に何を言われたの?”
と参加すると
“僕は人形でお父さんに話しかけて……?”
と言われたと翔くんからの返事。
“危ない子かも知れないから、無視した”
と続き、みんな
“そりゃ、そうだよ!”
で片付けられた。
昼食時間も終わり、午後の授業に戻っていく。
もう、明日からは二日に一度、登校すればいい。
リモートでの授業がメインになっていく。
「あのとき」から、世界中、これが当たり前になっている。
海斗くんがみんなの前から消えてから……。
海斗くんのことを考えながら、午後の授業も終わり、下校、駅まで歩いて行く途中、カメラ店の前を通ると白猫のシロちゃんがまた、出迎えてくれるとお店を覗いても、姿がない?
オーナーさんに訊ねる程でもないや!と気にせず、歩いていると後ろから誰かにつけられてる気配?
人通りが多い、大通りに出ようと脇道に入って小走りする。
えっ?周りの景色が違う?
“ここは、どこ?”
と慌てていると肩を叩かれた!
“ひゃっ!?”と声にならない悲鳴をあげて、腰砕けになってしまう。
「お姉さんが吾妻 純さん?」
と子供の声で尋ねられ、振り返ると小学生位の長い髪の女の子が首を傾げながら、不安そうに聞いてきた。
「そうだけど?誰?」
と問い返した。
「私ねぇ〰️、人形なの!お父さんの感情が消えかかっているの!」
「話しかけて欲しいの!」
と訴えかけられても、混乱するばかり、困り果てていると、
“あのさ〰️!何処の怪異か?知らないけどさぁ〰️!”
“もっと、具体的にお願いしてやれよ!”
“お人形さんよ!?”
と心に響く声?で私の困惑を女の子?に伝えてくれた誰か?の声の方を振り向けば、白い大きな犬?とその背に乗っかったカメラ店の白猫が一緒に前脚を挙げて、
“此方に来て?”
“こいつ、怪しすぎる!!”
と心に訴える声?で云われても、見知らぬ女の子より、生まれた時から知ってる白猫と大きな犬の方が安心できた。
大きな犬の背に乗っていた白猫を思わず抱き寄せ、震えていると喉を鳴らしながら、頬を舐めてくれる白猫にやっと安堵できた。
大きな犬さん?が女の子に
“詳しく話せば、悪いようにはしないから!”
と女の子との仲介を申し出てくれる。
女の子も、自身以上の怪異に遭遇してか?
警戒していたが、ゆっくり、大きな犬の提案に答えて、語り出した。
大体の訳を聞き出すと女の子は、白い大きな犬に何度も頭を下げて、消えていく?
“あの女の子の人形さんなっ!未来に心が消えていく現象が起こって、人間が消失して行き。独り残されたお父さんの創造物、球体間接人形で、あの女の子達が、そうらしい。心を持ち、刻を越えて今のお父さんへ話しかけてと彼女にお願いするために来たんだと?”
“人間に見えるがモノに等しいので刻を越えられた。”
と大きな犬さんが教えてくれたけど?
独り残されたお父さんって、誰だろう?と余計に混乱してしまう!
“安心しろ!どんな顔で名前も、ちゃんと聞いておいた!”
と凛々しい顔で大きな犬さんが
“痩せ細ったおじいさんの顔と……カイト。”
という名を心に響く声と一緒に教えてくれた。
海斗くん、と何故か?納得できた。
“俺についてきて、現世に戻らなきゃ!”
と大きな犬が先に行こうとするのを尻尾を掴んで、止めてしまった。
さっきまで、荒々しいけど優しかった白い大きな犬が尻尾を掴んだ途端に腰砕けになって、転けてしまう!
「ごめんなさい!」
と声に出して謝った。
“尻尾は、止めてね……本当!?”
“力、抜けちゃうんだ!”
と大きな犬さんに首をこっちに向けて、力なくお願いされた。
今度は、ゆっくり歩いてくれる大きな犬さんについて行くと急に視界がいつもの町通りに戻り……いつも、心の中で挨拶していた三峰山神社の小さな分社の前に立っていた。
……けど、白猫を両手に抱いたまま、呆然としていると頬を舐められ、
“やっと現実に戻れた”
と安堵した。
ここの神社のお使いって……狼だったよね?
“そうだよ!変なのに付けられてる!って話したら、純ちゃんへ悪戯させないように一緒に来てくれたんだよ!”
と心に響く声がした。
白猫さんを抱きしめて、「ありがとう」
と声に出してしまった。
声に驚く通りすがりの人達も猫にいっているのだと気付き、なんだと驚きながらも去っていく。
純は、その晩に友達グループのトーク画面に
“海斗くん、今、何処にいるのか?”
“わかりそうな人いる?”
と送信したが……やはり、誰もわからなかった。
翌日も、中学時代のクラスメイト、いじめられたグループのリーダー格の女の子にまで家を訪ねて、海斗くんの居場所を聞いて歩いた。
もう、陽も落ちて一人、家までパンクしてしまった自転車を押して、戻ろうとしていた時に、……いじめられたグループのリーダー格の女の子からショートメールで病院の住所と海斗くんのご両親の連絡先だけが送られてきた。
ショートメールを見て泣きながら、戻ったのをお母さんが見て、
「どうしたの?」
と問われても、会えなかった海斗くんの連絡先をいじめられたグループの女の子が……教えてくれた!と伝えると
「良かったね!」
といってくれたお母さんも、泣いていた。
翌朝、三峰山神社の分社へお礼を告げにお参りした。
“何があるか?わからないから、ついていって良いかい!”
と声がして、白い大きな犬さんが現れた。
“普通の人には、見えないから!安心してなっ!!”
と狼さんがついて来てくれると申し出てくれた。
心細かった純は、泣きそうになるのを我慢して、
「ありがとうございます」
とつい、声に出してしまう。
バスに乗り、狼さんと一緒に教えられた病院へ向かった。
病院受付では、名前を告げても、海斗くんへの面会は、断られたが……海斗くんのお母さんが聞きつけて、受付へ掛け合ってもらい。
やっと、短時間のお見舞いという体裁で面会出来るようになった。
ベッドに横たわる……海斗くんは、鼻からチューブが繋がれ、口には酸素吸入マスクが……目も虚ろで何処へを見ているのか?焦点も合わない状態…小学校から互いを意識して、あの日、初めてのデートを約束して……別れて、直ぐ後に急に脳梗塞にあったタクシーの運転手に歩道を歩いていただけなのに轢かれて、ずっと入院先の病院も、その年にパンデミックを起こしたウィルス感染のせいで転院を繰り返して、突き止められなかった。
「海斗くん、あの時の約束……まだ、だからね!」
と唯一、機械に繋がれていない左手を両手で包み、訴えた。
見えない、付き添いの狼も…泣きながら、
“こいつに死神が近付いたら、逆に喰い殺しちゃる!”
と物騒だけど、純に寄り添って慰めてくれた。
周囲に七人の子供達が現れ、純に……この後に起こる“未来”を語り出した。
これから、世界中が新たなウィルスに感染されて、国内にばかり、目が行くようになり、人がいがみ合う悲しい世界に変貌してしまい。
人と人が脳に埋め込まれたインターフェイスで繋がれた世界でのみ、生きる世界になってしまうなか、海斗は、インターフェイスに繋がれずに延命されているなか、子供達の球体間接人形を病院内のみのローカルネットワークのインターフェイスで脳のみで3Dプリンターを操作して創造していた。
全ての人類が思考を繋げる世界で変革が起き、全ての人格に並列化が施されて、個性は、形だけのアバターと化して個人が消去されていく。
争いは、消えていくが心が消去されていく……悲しい未来。
“この後の世界は、お前達のものだ!”
“人形の子供達が言った事だけが未来じゃない!”
と狼さんが慰めではなく、断言してくれた。
“お前も、いつまでも……寝てんじゃねーぞ!!”
と海斗くんの頭を丸咬みするのに慌てたが、
海斗くんの目に光が灯ったような……ほんの少しの希望にも思えた。
海斗くんのお母さんに、お礼をして、海斗くんに、
“また、逢いにくるから……”
と告げて、病院を後にした。
この後、彼女が脳神経外科の名医となり、世界の患者さんを救うのは、また、別のお話となる。
……あと、七人の子どものお母さんになるのもね!
未来からの贈り物は、大人になると消えてしまう、想い、気持ちだった。