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ポナの季節  作者: 大橋むつお
80/92

80『てっきりポナだと思った』


ポナの季節・80

『てっきりポナだと思った』       





 てっきりポナだと思った。


 ポナはもぎたてレモンのようだけど、その人は同じ柑橘系でも夏みかんほどに座りの良さがあった。



「きみ、ポナの知り合い?」

「どうして……」

「ハハ、だって『ポナ』って声かけたじゃない」



 しまったと思った時は、その人について近くのマックに向かっていた。


「そっか、それでポナに声かけづらかったのね……」

 形のいい唇が、マックシェイクを吸い上げた。

「ああ、やっぱシェイクの飲み方なんか大学生ですね」

「プ、よしてよ、シェイクが横っちょに入っちゃう。ほんの四か月前までは女子高生だったのよ」

「見かけたときは、ポナそのものでしたよ。なんてのか……歩いていても、なんだか背中に羽が生えてるみたいで」

「どんな羽根?」

「えと……小さな天使の羽みたいな」

「あたしには小悪魔の羽みたく見えるけどね……どう、この飲み方は」

 背中に電気が走った。片肘ついて、少し上目づかいにストローを咥えるしぐさはポナそのものだった。

「ポナ……」

「そっか……それほどポナのことが好きなのね」

「でも、嫌われてるから……」

「でも、さっき声かけてきたじゃん」

「とっさだったから……」

「ポナは、きみがデモに行ったぐらいで嫌いにならないわよ。ただ、あの子は『去る者は追わず』ってとこがあるから、放っとくとほんとうに切れちゃうわよ」

「……大丈夫でしょうか」

「きみ次第。ただフライングしないでね。ポナはライブとお芝居が命のお子ちゃまだから、今のところは友だち以上のことは望まないでね」

「はい、おねえさん」

「がんばって、大輔くん」


 大輔は改札まで優里を送った。後姿と残り香は、やはりポナといっしょだった。


 スマホを持って三十分、メールにしようか電話にしようかで悩む。意を決して電話に決めると、ポナから電話がかかってきた。

――おひさ~! 元気してる? そう、ところで明日会えないかな。来週芝居やるんでチケとか渡したいの――

「うん、あ……」

――どうかした?――

「ごめん、明日は家族で墓参りだ……」

 大輔はご先祖を呪った。

――じゃ、今からじゃだめ? 渋谷ぐらいなら出ていくけど――

 大輔は二つ返事でOKした。


 四時間前優里を見送った改札からポナが出てきた。


 ポナは軽々とノースリーブの白いワンピースをひらめかせ、ほんとに天使に見えた。


 大輔は、さっき呪ったご先祖に感謝した。

  



ポナと周辺の人々


父     寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師

母     寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん

長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉

次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明

長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官

次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ

三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )

ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。


高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)

支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊

吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。

佐伯美智  父の演劇部の部長

蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒

谷口真奈美 ポナの実の母

平沢夏   未知数の中学二年生


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