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ポナの季節  作者: 大橋むつお
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7『乃木坂学院高校演劇部跡の見学』 


ポナの季節・7

『乃木坂学院高校演劇部跡の見学』       





 例えばAKB48の衣装資料館のようだった。


 AKB48の衣装資料館には、卒業した選抜メンバーの衣装や小物、記念の品などが展示してあり、ファンにとっては神殿のよう。



 乃木坂学院高校演劇部の部室は、理事長の意向で、そのままにクラブハウスの二階に残してある。

「ここから坂東はるかさんや、仲まどかさんたちが巣立っていったんだ……」

 奈菜は、感極まったように独り言ちた。みなみは真剣に頷き、ポナは「またか」と笑いをこらえるのに苦労した。


 一昨日、みなみから「演劇部はつぶれた」とメールをもらったが、部室が残っていることを知って、奈菜のたっての願いで、放課後、乃木坂学院まで見学にきたのである。


 マッカーサーの机には、退色し始めたテーブルクロスがかけてあり、その上には芝居や映画の勉強のためのアナログのテレビデオ。その周りにはたくさんの台本がキチンと整理されて置かれていた。乃木坂の演劇部は、かなり研究熱心な演劇部であったようだ。


「はるかさんは、演劇部じゃなかったのよ」

「え!?」



 みなみの説明に、奈菜は鳩がびっくりしたような顔になった。



「はるかさんはね、二年の時に家庭事情で転校していったの、でもプロの俳優になってから、ずいぶんここの演劇部を応援してくれたから、名誉部員てことになってるの……」

 みなみの目は、壁に掛けられた坂東はるかと仲まどかのサイン入り写真に向けられた。

「さすがプロになるだけの人、オーラがちがうわね……」

 付き添いのポナも思わずため息をついた。

「このテーブルクロスすてき、少し色が抜け始めてるとこなんか時代と部員の情熱を感じる」

「このテーブルクロスは、元々黄色かったのが色あせて、こうなっちゃったの。本当の色は……」


 みなみは、置かれた台本の山をずらした。すると、そこには鮮やかな黄色が現れた。


「……これって、幸福の黄色いハンカチ」

「よくわかったわね、一度潰れかかった時に、クラブの再生への思いを込めて黄色いテーブルクロスにしたんだって」

 ポナは、一冊の台本を手に取る。『すみれの花さくころ』のタイトルが色あせている。

「見てごらんよ」

 ポナは、奈菜に手渡した。

「……書き込み、手垢やシミも凄いね」

「このシミ、涙か汗だよ……」

「両方らしいわよ」

 みなみが付け加えた。


 この時の奈菜は、簡単には夢見る夢子ちゃんにはならなかった。真剣に台本を撫でるように見つめている。


「これ、あたしたちと歳の変わらない高校生がやったんだよね」

 奈菜も進歩した。人の努力や苦労が分かるようになったようだ。

「この本どうぞ」

 みなみが、二冊の本を渡してくれた。

「え、チイネエの制服貸したお礼? そんなのいいよ」

「ちがうわよ。理事長先生が、見学の生徒さんが来るんだったら渡してくれって」

 

 二冊の本は『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』と『はるか 真田山学院高校演劇部物語』だった。


『はるか』の方はビンテージもので、第二刷からは「はるか ワケあり転校生の7カ月」と改題されているらしかった。


 帰り、余熱の冷めないうちに乃木坂駅近くのコーヒーショップで、互いに二冊の本を読んだ。二人とも、こんなにのめりこんで本を読んだのは初めてだった。





※ ポナの家族構成と主な知り合い



父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師

母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん

長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉

次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員

長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官

次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ

三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )

ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。


高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)

支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子


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