31『サッシーの勝利から』
ポナの季節・31
『サッシーの勝利から』
ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとって新子が自分で付けたあだ名
AKBの総選挙はチャンスだと思った。
チャンスは二つだ。
一つは、やっと薄皮が張ったばかりの心の傷を、友だちと言う即効薬で直すこと……ちょっと説明がいる。
この土日は、ポナが寺沢家の養女であったことが分かってしまった最初の週末。ミスコンのプレゼンで吹っ切れたとは言え、傷は深い。ほんのわずかでも家族と気まずくなるのは嫌だ、怖い。そのためにはAKBの総選挙を友だち呼んで賑やかにやって、精神的に一気に駆け抜けるのがいい。AKBの総選挙なら、人畜無害。上手くいけば、お父さんやお母さんとの距離も取り戻せる。
もう一つは、バラバラな友だち由紀と奈菜とみなみをくっつけて、より大きくて楽しい友だち集団になれる。今のポナには主観的にも客観的にも友だちのサポートが必要だ。
それに、うまいことに先週から同居のチイニイが泊りがけでいないことだ。チイニイがいては、みなみの肩がこる。なんといっても同じ学校の先生と生徒だ。
中継が始まる三十分前には、友だち三人がポナの家に集まった。
「こんにちは、世田女の支倉奈菜です」
「こんばんは、同じく世田女の橋本由紀です」
「どうも、お馴染みのみなみでーす」
そして、高校生らしく「失礼します」で三人の声が揃い、お父さんもお母さんも笑った。
最初はポナの部屋のテレビで観るつもりだったが、リビングの大きいテレビで観ていいというお許しが出た。ついでにでっかいピザが三枚ドーンと出てきた。
「二枚買ったら、一枚無料のサービスだから、遠慮しないでね」
みなみは小学校からの付き合いだから、遠慮はもともと無いが、お母さんの、この一言はみんなの気持ちを楽にした。
「なんだ、母さん。おれ、寿司注文しちゃったよ」
「わ、ラッキー!」
ということで、ますますリラックスし、自然な形で両親ともども少女たちの輪の中に入ってこられた。
「なに支倉さん、あたしの顔になにかついてる?」
「あ、いいえ、失礼しました」
「ハハ、奈菜ちゃんは、こんなオッサンと一緒になった母さんが珍しいんだよ」
「あ、いえ……」
「先生と生徒がいっしょになるって、どうなんですか?」
由紀の質問には遠慮が無い。
「もう三十年だからね。今は普通の夫婦だよ」
「いろいろ時めく話はありますけど、まあ、おいおいと」
古株のみなみがほのめかす。由紀と奈菜が興味津々な目を向ける。もう、これで三人は友だちになれたようだ。
中継の進行に従って、意外にお父さんが情報に詳しいことが分かった。
「オーシ、佐江ちゃん抜けた!」
オシメンの宮澤佐江が八位に入ると、お父さんは中腰になってガッツポーズ。
「エー、お父さんて宮澤佐江がオシメンだったんですか!?」
由紀がたまげる。
「あ、なんてのかな……生徒の目線で世の中見てるのは大事なことだからね」
「フフ、知ってますよCD買って投票してたの」
「それはだな、芝居で言えば虚実皮膜だな。教師というスタンスを保持しながら、限りなく本当のファンのようにだな……」
「正直におっしゃいな。AKBは発足のころからのファンだったって」
「だから、それは母さん……」
お母さんがプっと吹いて、みんな大笑いになった。ポナは、いい両親だと思った。
「予言しておく、一位はサッシーだ!」
「エー、マユユでしょ」
「世間には浮動票というのがある。案外こういうのが決定するんだ。世の中って、そういうもんだ!」
「だって、お父さん小林よしのりの予想は違うよ」
「あいつの予想は当たらん!」
結果は、お父さんの予想通りサッシーが一位になった。まぐれか才能か分からなかったが、お父さんが、かなりのAKBファンであることは確定的になった。
ポナは考えた。
スケールも、置かれた局面も違うけど、そして一位と二位という差はあるけれど、サッシーと通じるものを自分に感じていた。
そのあとは、二人ずつでお風呂に入り、夜遅くまでポナの部屋で喋って雑魚寝。
朝は、さすがにボンヤリしていたが、昼前には街に繰り出してカラオケで騒いだ。
両親と友だちの距離が縮まった一泊二日ではあった。
ポナの周辺の人たち
父 寺沢達孝(59歳) 定年間近の高校教師
母 寺沢豊子(49歳) 父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男 寺沢達幸(30歳) 海上自衛隊 一等海尉
次男 寺沢孝史(28歳) 元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女 寺沢優奈(26歳) 横浜中央署の女性警官
次女 寺沢優里(19歳) 城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女 寺沢新子(15歳) 世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ 寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。
高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜 ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀 ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長




