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走れ、草太

「すみません、もうちょっと早く進めませんか!?」


 腕時計を睨みつつ、草太はタクシーの運転手を急かした。


「お客さん、急ぐ気持ちはわかるんですけど、この通り渋滞でして」

「わかってますけど、早くしないと間に合わないんです、結婚式に」

「結婚式に招待されてる方ですか?」

「いえ、僕が招待する側です」

「ということは……ええっ! お客さん、新郎さんなの? 結婚する人なの? こんなところで何やってるの、式場で花嫁さんを待ってないと駄目でしょう?」

「だから急いでるんですって! 仕事のトラブルでどうしても行かなきゃいけなくて、大急ぎで戻るところなんですっ!」

「わ、わかりました。裏道とか使って可能な限り急いでみます」

「お願いします!」



 販促キャンペーンのひとつである『あやかし文房具フェア』のトラブル対応に草太は奮闘した。社内にあった商品をかき集め、支社に連絡して同じように集めてもらい、営業車で全てを回収し、現地のフェア会場に持ち込んだ。ショッピングモールの担当店員たちに謝罪し、フェアにロクノ社員が協力することで、どうにかフェアを開催することができたのだ。ロクノ社員は店頭に立つ教育も受けてはいるが、慣れてない仕事のためスムーズに進むとは言い難かった。それでも社員一丸となることで、どうにか切り抜けることができた。

 有り難いことにフェアは盛況で、多くのお客様に、あやかし文房具を購入してもらえたのだ。


「田村、もうここは大丈夫だから、おまえは早く戻れ。明日朝から結婚式だろ?」

 

 営業部で働いている同期の社員佐々木が、草太に声をかける。草太が明日、六野美冬と結婚することを知っているのだ。


「でもまだフェアは終わってないから」

「ええっ? 田村さん、明日結婚式なんですか?」

 

 支社の営業部社員の佐藤が素っ頓狂な声をあげる。支社にも情報は伝わっているはずだが、まさか明日結婚する人が、地方のフェア会場の助っ人に来ているとは思わなかったようだ。草太は苦笑した。


「フェアの成功は企画部の願いだし、放ったらかしで行けないよ」

「それはわかるけどな。明日もたぶん、ここの手伝いをすることになるから、結婚式当日までお前を拘束するわけにはいかない。『仕事で結婚式に間に合いませんでした』なんてことになったら、花嫁さんは泣くし、招待客も困る。何より俺たちも嫌な気分になるだろ。明日は他の社員も助っ人に

呼んだし、おまえは早く花嫁さんのところに戻ってやれ」


 佐々木の言う通りだと思った。脳裏に、花嫁姿のまま不安そうに待ち続ける美冬の姿が浮かぶ。


「事情はよくわかりませんけど、佐々木さんの言う通りですよ。田村さん、ここは大丈夫なんで、早く行って下さい」


 支社の佐藤の言葉が、草太の背中を後押しする。


「ありがとう、みんな。本当にありがとう。お言葉に甘えて先に戻らせてもらうよ」

「ああ、こっちは俺たちに任せろ。営業の車で来たから、送ってやれなくて申し訳ないけどな」

「気にしないでくれ。こっちはなんとかするから」


 別れの言葉もそこそこに、草太は急ぎ、美冬の元へ戻ることにした。

すでに外は暗くなっていた。最寄りの駅から可能な限り早い電車を乗り継ぎ、乗車中に仮眠を取った。駅のホームで夜が空けるのを待ち、朝一番の列車で結婚式場近くの駅へ。あとはタクシーで結婚式に間に合うはずだった。

 しかしその日は祝日だったため、道路は想像以上に渋滞していた。タクシーの運転手に事情を話して、できるだけ急いでもらうことにしたものの、運転手に速度違反させるわけにも行かず、気持ちは焦る一方だ。


(どうしよう、このままじゃ結婚式に間に合わないかもしれない)


 今頃美冬は、どんな不安な気持ちで草太を待っていることか。


(絶対に、間に合わせる! 美冬を泣かせないって決めたんだ)


「運転手さん! 悪いけどここで降ろしてください。後は走って行きます」

「ええっ? ここから結構距離あるよ?」

「走ります。それしか方法がないと思うんで。お金置いときますね。お釣りはいらないです!」


 草太はタクシーから飛び降りるように外へ出ると、スマホの案内を頼りに走り出した。


「美冬、今行くからっ!!」

 

 草太は美冬への思いを胸に、結婚式場へ向かって疾走した。


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