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前日のトラブル

「御新郎様、お待たせ致しました。御新婦様のお支度が整いました」


 聞き慣れない呼び方に戸惑いつつ、草太は案内された場所へ向かった。

 今日は結婚式前の衣装合わせの日。オーダーしていた美冬のウェディングドレスが仕上がったのだ。加えて、草太の衣装を決定する予定だ。

 舞台の幕があがるようにカーテンが開かれると、優美なウェディングドレスに身を包んだ美冬が、ゆっくりと現れた。


「草太……私、似合ってるかしら?」


 そこには、最も優雅で美しい美冬がいた。彼女のためにデザインされたウェディングドレスは、美冬の美貌をひときわ輝かせている。


「美冬、きれい……。すごく、すごく、きれい!」


 ボキャブラリーが崩壊したような誉め言葉だが、草太の頭の中にはその言葉しか出てこなかった。草太にとって美冬はいつでも「最高に美人」だが、今目の前にいる美冬は、次元を超えている気がしたのだ。


「ありがとう、草太。あなたもとっても素敵よ。よく似合ってるわ」

「僕はたいしたことないよ。美冬のほうが何百倍もきれい!」


 草太も結婚式用の白いタキシードを試着していた。一度も着たことがない衣装にどうにも馴染めず気持ちも落ち着かなかったが、美冬にほめられたことで、ようやく気持ちが落ち着いた。


「御新郎様、御新婦様、どちらも本当によくお似合いです! 結婚式が楽しみですね」


 気を利かせた式場スタッフたちが、草太と美冬を褒めたたえてくれた。その言葉が妙に気恥しくて、草太と美冬は視線を合わせて小さく笑った。


「僕たち、やっと結婚できるんだね」

「そうね、本当にやっとだわ」


 様々なことがあった二人だが、順調に結婚の準備が進んでいる。


「結婚できたら、一緒に暮らせるね」

「ええ、楽しみね」


無事に結婚できたら、草太は現在寝泊まりしている蔵を離れて、美冬が住む離れ屋で同居する予定だ。離れ屋はふたりで暮らすには十分な広さがあり、設備もしっかりしている。美冬の父、宗次郎が愛娘の結婚を想定したうえで、設計したのだろう。


「草太、私ね。怖いくらいに幸せよ。こんなに満たされた時間はないわ」

「結婚したらもっと幸せになれるよ。そうしたら怖くてたまらなくなる?」

「もう! 草太ったら意地悪ね。でも本当に今幸せなの。本当よ」

「それは僕も同じだよ」


 長い時間と努力を経て、ようやく結婚できる二人にとって、結婚準備さえ幸せな時間なのだ。

 結婚式の衣装も決定し、二人は式場を後にした。


「これで結婚の準備もだいたい終わったし、あとは待つだけだね」

「準備は終わったけど、なんだか心配だわ。何か起こりそうな気がして」

「美冬は心配性だね。大丈夫だよ。何も問題ないよ」

「そうね、そうだといいんだけど……」


 美冬の予感は、やがて的中することになる。勘の鋭さは母親の美代子譲りだったのだろうか。



 それは草太と美冬の結婚式前日のことだった。


「『あやかし文房具販促キャンペーン」でトラブル?」

「ええ。地方の大型ショッピングモールで『あやかし文房具フェア』を開催する予定だったのだけど、手違いで商品がほとんど到着してないのですって。営業部が慌てて商品を運ぶ予定だけど、それでも予定数を確保できてないから助けてほしいと企画部に協力を求めてきたの。私、これから現地に行ってこようと思うの」

「美冬が? ダメだよ。明日は僕たちの結婚式なんだよ。今から出張してたら明日までに間に合うかわからないよ」

「でもこのままではキャンペーンが失敗してしまうわ。『あやかし文房具』は私たちにとって大切なものだもの。放っておけない」


 それは草太にしても同じ思いだった。草太にとっても『あやかし文房具シリーズ』は様々な思いを込めた大切なシリーズ。シリーズのキャラクターの中に『ろくろ首』がいるのも、草太が美冬への愛情を込めて企画したものだからだ。2人の思いと愛情の結晶とも言える大切な文房具なのだ。


「美冬の思いはわかったよ。現地ヘは僕ひとりで行く。美冬は明日に備えて早く休んで。花嫁さんが寝不足でふらふらしてたら、招待した人たちも心配するよ」

「草太ひとりで? ダメよ。私も行くわ」

「美冬は残るんだ。花嫁さんは着付けやメイクとかあるから朝も早いだろ? だったらなおさら僕が行かないと」

「でも……」

「大丈夫。敏腕の主任さんに鍛えられたからね。僕でも美冬さんの代わりは十分務まるはずだよ。それとも僕のこと信用できない?」


 夫となる草太にそこまで言われては、さすがの美冬も何も言えなかった。


「わかった。草太に任せるわ。でも結婚式に間に合うように、営業部や支社の人たちとしっかり相談してね」

「わかってる。結婚式をキャンセルするわけにはいかないからね」


 草太と美冬、二人の結婚式に思わぬ波乱が生じようとしていた。

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