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宗次郎と美代子

 夕子が食後のコーヒーを用意してくれた。コーヒーを飲みながら、夕子の話を聞くことにしたのだ。


「お嬢様、大変言いにくいのですが……」

「夕子さんとは長い付き合いだもの。大丈夫よ。ハッキリ言ってちょうだい」


 美冬の言葉に安心したのか、夕子は一呼吸置いた後、話し始めた。


「宗次郎と美代子様、お二人は今、冷戦状態でございます。『夫婦喧嘩は犬も食わない』と申しますが、長年お二人を見てきた私としましては、極めて危機的な状況だと思います」


 美冬の表情に緊張が走る。目を伏せてしばし考えていたが、やがて覚悟を決めたのか、ゆっくりと目線を夕子に向ける。


「それは私と草太くんのことが原因ね?」


 夕子は沈黙の後、頷いた。

 驚いた草太は美冬の様子を伺う。美冬の整った白い顔は、悲しげに沈んでいる。草太も今日の二人の様子から、どことなく嫌な予感はしていたが、まさかそこまで酷い状況だとは思わなかった。


「ご存知の通り、宗次郎様はお二人の結婚に反対してますが、美代子様は賛成なのです」

「え、そうなんですか?」


 草太は夫婦揃って反対していると思っていたのだ。


「美代子様は仰ってますよ。『田村草太という人なら大丈夫です。私にはわかります』と」


 夕子は微笑みながら草太に話してくれた。


「そういってもらえるのは有難いですけど、何を根拠に?」

「美代子様は子供の頃から人の本性といいましょうか、素顔を見抜く目をお持ちです。未来を予知する力も少しですが、おありなんですよ。その能力ゆえに子供の頃や若い頃は苦労なさったと聞いています。そんな美代子様がお認めになった男性は、私が知る限りでは宗次郎様と草太様だけです」


 夕子のきっぱりとした物言いに少したじろいだ草太だったが、美代子が自分を認めてくれていたとは意外だった。


「母も若い頃は、その異質な能力ゆえにとても孤独だったと聞いてるわ。そんな母を唯一受け止めてくれたのが父だったの。母は無口なタイプだし、そんなふうに見えないかもしれないけど、父のことを誰より信頼してるし大切に思ってると思う。父も母のことは大事にしてた。そんな二人が冷戦状態というのは娘の私から見ても大変なことだわ」


 娘として両親の不仲を案じる美冬は、とても不安そうな顔をしている。


(美冬さんは御両親のことが本当に大切なんだ)


 草太もその気持ちはよくわかる気がした。

 不安になっている美冬のために自分は何ができるか。草太は懸命に考え、ひとつの案を思いついた。


「あの、お二人のためにサプライズの家族パーティーなんていかがでしょうか? メインプランはお二人がお好きな、または得意なことにしたら喜ばれるんじゃないかと思いますが、どうでしょう?」


 提案してみたものの、果たして名案といえるのか。草太は美冬と夕子の顔色を伺った。自分にいまいち自信がもてない草太は、美冬がどう思うか気になってしまうのだ。


「それ、いいかもしれないわ」

「私もそう思います」


 美冬と夕子に認めてもらえて、草太はほっとした。場違いな提案ではなかったようだ。


「メインプランは父と母にダンスしてもらうのはどうかしら? 私が幼い頃、私が喜ぶからと父と母の二人がペアになってダンスを披露してくれたものよ。その時の二人はとても幸せそうで、そんな様子を見るのが私は何より嬉しかったから」

「ダンスですか。華やかだしパーティー向きですし、とてもいい案だと思うのですが、ケンカ中のお二人が素直にダンスに応じてくれますかね?」

「そうね……。私もそれが心配だわ」


 再び沈黙してしまった一同だったが、草太はしばし考え、再び思いつく。


「あの、僕と美冬さんでまずペアダンスを披露して、それから宗次郎さんと美代子さんをダンスに誘うというのはどうでしょうか? いきなり二人に踊れというよりずっといいかと」

「草太さん、それ名案ですよ! お二人の信頼関係を旦那様にお見せできますしね。お嬢様、私も草太さんに賛成です」

「ええ、私も名案だとは思うけど……。知っての通り、私は運動が苦手なのよ。ダンスなんてうまく踊れるかしら?」

「あくまで家族パーティーですし、そんなに上手に踊る必要はないと思いますよ。二人で練習しましょう。仕事の合間の練習になりますから、更に大変になるかもしれませんけど、頑張りましょう!」

「草太くんがそう言うなら私も頑張る!」


 美冬の運動音痴は草太もよく知っているので少し不安ではあったが、そのぶん自分がしっかりリードしていけば、きっと大丈夫。何より美冬となら、どんな困難も乗り越えられる。決意した草太は美冬の手を取り、がっちりと握手した。

 夕子は拍手して二人を見守った。


 こうして草太と美冬による、サプライズ家族パーティー計画が始まったのである。


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