田村草太という男
本編開始です。よろしくお願い致します。
少しずつ春めいてきた3月のこと。田村草太は人生三度目の失恋をした。
少し歳上でロングヘアで色白、少々気が強すぎることを除けば、理想的な恋人であった。
「草太くんって弟みたいなのよね。恋人じゃなくて。ずっとこのまの関係でいましょう」
お願いされる度、様々なものを買ってあげた。ブランドバックに高級レストラン。映画に旅行。いろんなところに連れて行った。草太なりに尽くしてきた。それなのに。恋人と思っていたのは、草太だけであったらしい。
「なんで僕っていつも『弟扱い』なわけ?」
今夜は居酒屋でやけ酒と決め込み、同僚に愚痴をこぼす。
「ぶぇっくしゅ! あーくそ、鼻水止まんねぇ」
季節は草太を甘やかしてくれない。花粉症である。鼻水と共に涙も止まらない。
もはや悲しくて泣いているのか、憎き花粉による攻撃なのかさえ、わからない。
「汚えなぁ。ホラよ、ティッシュ。恵んでやる。ありがたく思え」
「そりゃ、どーも。ありがたくて涙出てくるよ」
「って、もう泣いてんじゃねぇか」
せせら笑いながらポケットティッシュを差し出してくれたのは、同僚の上木だ。
所持していたポケットティッシュはとうに底をつき、お情けとはいえ貰えるティッシュはありがたい。
「しっかし、お前も因果な体質だねぇ。好きになるのは歳上のきれいなお姉さん系。
なのに、お前ときたら見た目は童顔、中身も素直な子犬系。女から見たら典型的な『弟くん』だもんな」
「中身は子犬系は余計だ」
「でも元カノには弟扱いされてきたんだろ?」
「…………」
反論できないところが、なんとも情けない。
「女は歳下がいいぜ。可愛いし若いし、いうことねぇ」
「それはおまえの好みだろ。俺は違うの」
「はいはい、『きれいなお姉さん』が好きなんだよな。でも『永遠の弟属性』の草太は毎回フラれるときた。いーね、わかりやすいわ。おまえ」
「勝手なあだ名つけんな。なんだよ、『永遠の弟属性』って」
ぼやきながらも、うまいことを言うなと少しだけ感心してしまう。
「僕だって、ちゃんと男扱いされたいよ……」
しみじみと呟いた。このまま失恋を繰り返すだけなのだろうか。草太は自らの運命を嘆いた。
「ハァ……。はっ、はっ、ふぇーくっしょん!」
どこまでもシリアスになりきれない男、田村草太であった。