週明けのふたり
週が明けて月曜日となった。ロクノでは各部署でのミーティングから仕事が始まるのが恒例だ。
「それでは、それぞれの仕事の進行状況を報告してください」
春野美冬は主任として、企画部ミーティングを取り仕切っている。報告を受けた内容を確認し、的確なアドバイスを伝える美冬の姿を呆けた顔で見ているのは田村草太だ。
草太の頭の中は、先週末の映画館で起きた事件のことでいっぱいになっていた。
(ここにいる社員は誰も知らないんだよなぁ。美冬さんはろくろ首体質の女性で、実はすごく可愛らしいんだってことを)
映画館で美冬は草太に甘え、草太だけを頼りにしていた。上映中に首が伸びて戻らなくなり、震えていた美冬。守ってあげたくて、夢中で抱き寄せた。想像以上に華奢な体から少し甘い香水の香りがした。
(実は甘えん坊なんだよね、美冬さんは)
草太と二人きりになると、美冬は少女のように愛らしくなる。
草太に声をかけられると、少し頬を赤らめながら、嬉しそうに話をする。首が伸びるというオプション付きではあるものの、普段の仕事からは想像できない姿だ。
(美冬さんの本当の姿を知ってるのは、僕だけなんだよね)
それはなんともいえない優越感だった。自然と口元が緩んでくるのを止められない。春野美冬のことを秘かに慕っている男性社員は多い。
しかし草太以外は誰も知らないのだ。美冬の秘密を、本当の姿を。
「くふふふふ」
美冬のことで頭がいっぱいになっている草太は気付かない。不気味な笑い声が漏れ出てしまっていることに。
「田村草太くん!」
「は、はい!」
大きな声で呼ばれ、反射的に返事をしたが、事態が呑み込めない。美冬が草太を睨みつけているのだから。
「田村くん、仕事中よ。思い出し笑いは休憩中だけにしなさい」
「は、はい……」
周りの社員が一斉に笑い出した。「しっかりしろよぉ」と同僚に背中を叩かれ、草太は顔から火が出る思いだ。
怒られた。春野主任から、美冬さんから怒られた。
先程の優越感はどこへやら。草太はすっかり落ち込んでしまった。
(美冬さんに嫌われたかなぁ……。でも美冬さんの言うとおりだ。仕事中はもっとしっかりしないと)
肩を落としながらも、草太は仕事の資料を確認し直していった。
「ミーティングを終了します。皆さん、今週も仕事を頑張りましょう」
締めの挨拶をする美冬は、誰が見ても仕事ができるキャリアウーマンだ。女性社員からも「春野主任、かっこいいよね」という声が聞こえてくる。
草太は去っていく美冬の後ろ姿を見送ると、自らの仕事に集中した。
デスクで仕事に励む草太を、柱の影からじっと見つめるものがいる。春野美冬だ。
「草太くんのこと怒っちゃった……。嫌われてないといいんだけど」
誰にも気づかれないように、ぼそりと呟いた。呆けたような顔で、しばし草太を見つめ続ける。
「よしっ! 草太くん堪能したから、仕事がんばろ」
自らを奮い立たせると、美冬もまた仕事に戻っていった。