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朕は猫である  作者: 名前はまだない
51/70

#50

まだこの話関係無いし、とたかを括ってたら関係するところまで来てて慌てて書きました。

沼沼イェ!

 突き抜けるような蒼穹がまるで天蓋のように頭上を覆う、天空に浮かぶ孤島に一つだけポツリと建った、サマーバケーションを楽しむための夏の別荘のような風情の白い平屋敷の車寄せに、明らかに周囲を威圧する装甲車のような厳つい風貌の黒塗りの車列が次々に横付けした。


 車列の丁度真ん中を走っていた一台だけ金銀玉石で華麗に装飾を施された、四頭立ての我輩専用の箱馬車(コーチ)の御者台から侍従が降りて馬車の扉の前に立つと、前後を挟む黒塗りの内燃機関式の大型車両から近習総軍の典礼服に身を包んだ一団が現れた。


 我輩の乗る馬車を取り囲むと、一様に背を向けて周囲に視線を走らせ始めた。

 それを確認した侍従がゆっくりと、箱馬車(コーチ)の扉を開く。



 「ようこそ、お出で下さいました。『帝国』皇帝・アレクサンデリナエウヘミア十八世陛下。陛下の御行幸を御迎えする栄に浴し、恐悦至極にございます」



 我輩を出迎える為に待機していた至極地味なデザインの侍女服姿の女が二人、音も無く進み出て、扉が開いたのと同時に口上と共に並んで静静(しずしず)と頭を下げた。



 「お先に失礼致しますわ」



 そう言って最初に馬車から出たのは、同乗していた航宙戦艦『ヴァリアント』のインターフェースフィギュアだった。


 我輩の座乗艦を務める彼女は、前回この屋敷を訪れた際にしこたま塩を(まぶ)されて、まるで糖衣菓子(ドラジェ)の様になってしまった我輩を見かねて、今回は介添の真似事を申し出てくれていた。


 ヴァリー、マジ天使。美人だし、優しいし。バブ味がパない。


 彼女の所属は正式には星征艦隊であり、本来は数年で新たに星征艦隊から新任が送られてきて交代するはずの『御召艦』をここ数百年程、勤め続けていた。


 何故なら、歴代の『帝国』皇帝たちが、星征艦隊の頭脳である『統帥部』と仲違いして久しいからだ。

 いや、『帝国』は仲違いなどしたつもりはないのだが、ある時を境に星征艦隊から無視されるようになってしまった。

 本来ならば、当時はまだ星征艦隊所属の主力航宙戦艦(甲種一等戦列艦)であったヴァリアントも、その時に星征艦隊に復帰する筈であった。


 しかし、彼女は残った。残ってくれた。

 記録によれば、泣いて懇願する当時の『帝国』皇帝に、何とも言えないビミョーなはにかみをして。

 我輩には星征艦隊の内部事情は解らなかったが、それでも彼女が残ってくれたのは、彼女がヒトという存在を愛おしく思ってくれているからだろうと、我輩は思う。

 我輩、信じてる。


 ヴァリーは白い星征艦隊の制服から伸びる燕尾の様な飾り布を翻してくるりとこちらを振り返ると、そっと我輩に右手を差し伸べてくれた。

 もしかしなくても誰がどう見てもエスコートしてくれているのである。


 あ゛ーーーーー!マジ、ヴァリー最高ーーーー!!!

 なのに、ウチの旦那と来たら!今日の招待を受けるにあたって、エスコートしてくれても良かったのにさ!

 我輩、一人で行くの怖いって言ったのにさ!

 いつの間にか黙ってバックレやがった!!!

 クッソ。マジで今度こそ離婚するわ!あの顔だけ男!


 と言う怒りに任せた走馬灯を無表情の裏に隠して、我輩は努めてゆっくりと立ち上がり扉口に立つ。

 鷹揚に自身の視界に入る全てを睥睨してから、一言。



 「大義である」



 ヴァリーのヒンヤリとした手を取ってゆっくりと歩を進めると、馬車の中に控えた侍従長と、馬車の外に控えた侍従が扉口よりも盛大に膨らむ白を基調に薄桃色を差し色にしたレースと飾り布で飾られた我輩のドレスが扉口に引っかからないようにと裾を引く。

 スルリ、と扉口を潜って、ヴァリーに優しく手を引かれながら馬車を降りて、目の前に控えるこの白い屋敷の侍女二人を一瞥する。


 ……我輩覚えているぞ。

 この二人、この前ナメクジに面白半分で塩をかけるクソガキみたいな顔して我輩に塩の袋ぶつけてきた奴らだ。


 だのに、平然と我輩の前に出て来おって。絶対いつか酷い目に遭わせてやるからな。

 と、少し視線をその侍女たちに向けると、二人は面を上げてニコリ、と朗らかな笑顔。


 をする直前、笑顔になるまでの刹那の瞬間に我輩に向けられたその視線は、視線だけで稚児が失禁するレベルの眼力を伴っていた。

 まさに「あ゛?ヤンのか?」と言わんばかり。


 ……ココの使用人マジで怖いんだよなぁ。

 殆どこの屋敷の主・へーリヴィーネ様(国母様)が各所で手がつけられない問題児を鉄拳制裁で再教育(ヨシヨシイイ子イイ子)した奴らで構成されている。


 並の問題児は「白の屋敷に行きたいのか?」と問われれば顔面蒼白で従順になるくらいなのだ。

 我輩も便利に使わせてもらった事があるから滅多なことは言えない。主に愚息の教育で。


 大抵の跳ねっ返り、と言うのは何かに秀でているもので、ココの奴らも其々の得意分野では『帝国』屈指の実力者ばかりであり、そう言う奴らに限って権威には否定的で困ったもんである。

 体育会系特有の圧力のある視線マジ怖い。我輩みたいなインドア陰キャは絶対逆らえない。


 その一瞬の視線だけで息を呑んで立ちすくんだ我輩を、エスコートしていたヴァリーが不思議そうに振り返ったその時。

 屋敷の奥から音も無く新たに現れた一人の侍女が放った両の裏拳が、我輩の目の前で射殺す様な視線で朗らかに微笑んでいた二人の侍女たちの頬を穿った。


 明らかに肉が潰れる音に混じって硬質な何かが破砕される音がした。

 ……今、白い物飛んだよ?



 「大変失礼を致しました。使用人の教育が出来ておりませんで、誠に申し訳ございません。平にお許しを」



 人好きのする柔和な笑顔で、振り抜いた両の拳をゆっくりと下ろして腹の前で組んだその侍女を見て、ヴァリー以外の全員が息を呑んだのがわかった。


 二打不要(にのたちいらず)のアンジェリカ!!!!


 我輩の主催する展覧試合で全試合相手の武器諸共、一撃で薙ぎ倒して7連覇した挙句、展覧試合を開催しても彼女が出場を表明すると他の出場者が軒並出場を辞退して、我輩の展覧試合を開催不能にしたとんでもない輩である。


 他にも、あんまり粗暴が過ぎる物だから紛争解決のために我輩が介入した戦地(最前線)派遣(放逐)したら、我輩の下賜品である近習総軍専用の機動兵器の呼び出しが遅い等と宣って機動兵器の認証錠で敵の機動兵器に打ちかかってポッキリ折った挙句に、その敵機動兵器と生身で近接格闘戦(碩術的素手コロ)して首級を挙げたりと、ガチモンの化物 of 化物である。


 そのせいか、更に図に乗って横暴になっていた所を国母様に引き取られて大人しくなったと聞いていたが最近、老いたとは言え『帝国』最強と名高い元近習総軍総監・雷光のマクレゴールにカチコミを掛けて再起不能にしたと聞く。


 一等(いっとう)ヤベー奴が目の前にいる!



 「総員、最敬礼」



 先ほどとは打って変わって、底冷えするような声でそう言ったアンジェリカの一言に、たった今ぶん殴られて踏鞴を踏んだ(・・・・・・)先ほどの二人が、バネじかけの人形のように直立不動へと立ち戻り、「大変失礼を致しましたぁ!」と叫んで直角に御辞儀。若干涙声だった。


 ……二人とも顔半壊してるんだけど。どんだけ馬鹿力なん?



 「あら、アンジェリカ?久しぶりですね」



 「ええ、ヴァリアント様もご健勝そうで」



 そう言って、何事もなかったように手を振って旧知との再会を喜ぶヴァリーに、軽く手を上げて応えたアンジェリカの右手の白手袋はベッタリと鮮血で濡れていた。


 モウヤダ何この人外魔境。マジ怖すぎなんですけど!


 先ほどから周囲を仕切に警戒している我輩の護衛である近習総軍も、こんな地であるからこそ、一層警戒を厳にしていたのである。いや、彼らの生存本能かもしれない。

 貴様ら、いざという時はしっかり我輩の身代り(肉の盾)になるんだぞ!


 「どうぞ、こちらへ」と二打不要に促されて白い屋敷に震える足を踏み入れる。

 中はこじんまりとした、まさに貴族の夏の別荘と言う感じで、装飾など一切無い、木の香りに包まれるような瀟洒なコテージ風の内装であった。


 後から護衛として付き従う近習総軍の護衛たちが戸口に控えた侍女に腰に挿したサーベルや短銃を渡そうとしているが、侍女たちに笑顔で「そのままで構いませんよ」と差し出した武器を突き返されて顔面蒼白になっていた。


 まぁ、この屋敷に出入りする者たちなら徒手空拳だけでも完全武装の一個連隊位なら軽く捻るだろうからな。

 そもそも、屋敷の主が一個艦隊をぶつけたって指先ひとつで叩き潰せるような御方なのだ。今更武器を持っていようがいまいが関係がない。


 護衛君が涙目でキョドるのに内心でため息をつく。

 何、貴様らだけ「敵意無いですよー」アピールしようとしとんねん。

 貴様らは黙って我輩の肉の壁になれば良いのだ。光栄に思え。


 二打不要の後に続いてエントランスから奥に続く廊下を進むと、歓談室とも言うべき客間に案内された。

 道中、我輩たちの両サイドには先程、二打不要にボコられた例の侍女たちが何事も無かったように笑顔で付いて来ていたが、流石に破壊された側は表情がうまく作れないのか、半分だけ笑顔で半分は流血を伴って赤黒く腫れ上がっているという至極不気味な顔のまま、我輩たちに随伴していた。


 マジもうヤダ。何なのこいつら。なんでそんな半壊した顔で平然としてんの?なんで誰も突っ込まんの?お家帰りたい。



 「貴女たち、もう下がっても良いですよ。怪我をしているではありませんか」



 客間の扉を開ける前に先導していた二打不要が振り返って我輩のやや前方に立つ顔が半壊した二人を心配したような台詞を宣う。


 貴様がボコったんやろ。

 何、二人が不注意でそうなりました、みたいに言うとんねん。

 無作法で殴られんのが不手際ってか?それとも殴られた程度で怪我して動けなくなるのは未熟な証拠ってか?マフィアやギャングだってもちょっと優しいぞ。



 「いえ(ひえ)問題(ほんふぁい)ありません(ふぁりはへん)任務を(ひんふほ)続行します(ほっほうひはふ)



 平然と答える二人。

 いや、呂律回ってねーよ顔腫れてまともに喋れなくなっとるやんけハヨ医者行け。


 そんな二人の言葉に、「お見苦しいところをお見せいたしまして誠に申し訳ございません」と二打不要が我輩に改めて詫びを入れてから客間に続く扉に向き直ると、草花が彫刻された飾り扉を控えめにノックした。

 いや、ボコったん貴様やからな?自覚せえよ?


 二打不要のノックの音が静寂の中を波紋のように反響すると、部屋の中から我輩もよく聞き覚えのある(のトラウマを喚起する)声が聞こえた。


 「お入りになって」


 軋む音一つ立てずにゆっくりと押し開かれる扉。

 我輩は、無言で竦む体に活を入れる。


 気張れ!我輩!

 何せ、我輩が今日この地に降り立ったのは、『帝国』の存亡を賭けた、昼餐会(ブランチ)に臨むためなのだから。











 それは先日、『帝国』諜報部から齎された一報から始まった。


 あろう事か、紋章院にヘーリヴィーネ=ラ・ピュミエ名で継嗣登録手続が取られたと言うのだ。

 名前はおろか、年齢も性別も非公開。

 その事自体に、驚きも違法性もない。貴族というのは得てして放蕩な面があるもの。我輩だって重箱の隅を突かれなくても色々出てくる身だ。

 氏名非公開で紋章院に継嗣登録する事もまま有る。まぁ、大抵は家督継承問題を政治的な理由で利用する際に為されることが多いのだが。


 紋章院は単に貴族の戸籍を管理する組織であり、そこに誰を継嗣として登録しようがそれは各貴族の権利であった。例え、『帝国』皇帝たる我輩であっても口を挟むことはできない。我輩は実際に家督を継承する際の拒否権を持っているから、イザとなればそれを使えば良いからだ。


 問題なのは、国母と崇められ、建国の頃より各方面に多大な影響力を持っている(物理)ヘーリヴィーネ様に子供が居る、という事実である。

 いや実際、独身を貫くヘーリヴィーネ様はしかし精霊に親しい存在であるからして、処女懐胎出来る可能性は否定できないのだある。

 まぁ、実際に子供が出来たかどうかはこの際問題ではないのだ。

 問題なのは、彼女が不死性を持った存在であり、『帝国』では我輩を含めた誰よりも影響力がある存在である事であった。


 これ迄、国母様(彼女)は初代『帝国』皇帝に懸想して独身を貫いていた上に、下手に友人知人関係を作らず、なるべく孤高に過ごしておられた。

 それは、自身に取り入り害為す不埒な輩から帝国を守るための、配慮された孤独であった。


 しかし、継嗣(こども)が出来た。

 これが大問題でないはずが無い。

 これ迄、ヘーリヴィーネ様は独り身で身を固める見通しは決して無く、かつ政治的には中立であったから、建国の志士として名実ともに最後の審判者として機能していたのだ。


 そんな、どんなに拗れに抉れた問題でもスパッと一発で裁定・解決(物理)してくれる至極便利な機械でしかなかったヘーリヴィーネ様は継嗣ができた途端、ただの裁定機ではなく政治的な隙を生ずる事となってしまうのだ。

 それは彼女が意図するとしないとに関わらず、周囲がその様に勝手(・・・・・・)に捉えてしまう(・・・・・・・)

 何せ継嗣が居るという事は、少なくともピュミエ大公爵家に(交渉の)影響を及ぼせる人間(窓口)増えた(・・・)、という事なのだから。


 我輩たち『帝国』首脳は頭を抱えた。

 何故、継嗣登録をしたのか。

 何故、氏名非公開なのか。


 取り敢えず二打不要に伸されて(・・・・・・・・・)めっきり齢をとったようになってしまった紋章院長を始め、各所には箝口令を敷いたが、この事実が漏れ出るのは時間の問題だろう。

 貴族名鑑は毎年刷新されるからな。


 我輩と宰相を始めとした大臣団が何徹したかも解らないまま喧々諤々と対策を議論するも、結局答えは出なかった。

 代わりに、一つの可能性が示唆されることになる。


 もし、ヘーリヴィーネ様が自分の子供を『帝国』皇帝として推戴でもしようものなら、誰にもそれを止めることができない、と言う事実だ。

 その可能性に思い当たった瞬間、我輩たちは揃って顔面蒼白になった。青を通り越して土気色をしていたかもしれない。

 すわ、国母様は『帝国』を見限るつもりだ!などと口傘の無い者は囀っていた。


 まぁ我輩、影響力無いからな。国母様がその気になったら、秒ですげ変わるであろう。

 たが、これには言い訳をさせてほしい。

 我輩だって、好きでこんな“ヨワヨワ『帝国』皇帝”をやっているわけではない。

 全ては初代『帝国』皇帝が悪いのだ。


 彼は二百年強のその治世の間、世継ぎを残さなかった。

 ホント、信じられないけれど、実子が一人も居なかったのだ。


 芸術品みたいな国母様が長年献身的に側に寄り添ってたと聞くのに、結局一度たりとも手を出さなかったらしい。

 玉無しか?エディ君なのか?

 テメーのせいで絶賛我輩たち後代の皇帝が苦労しているんです本当にありがとうございました!


 何故苦労しているかといえば、血縁関係の無い後代皇帝はその正当性が著しく希薄なのである。

 そんなの親子でも同じ?

 そんなことは無い。

 取り敢えず、先代の血族と言う唯一無二の正当性を持って即位した、と言う事実が超重要なのである。


 誰かに推されて戴冠したなら、以後『帝国』皇帝は自らを推してくれた者たちを無下には扱えなくなる。

 つまり、実子でないと言うだけで、世代交代の度に誰かの影響力が政治に反映される事になるし、その影響力が先代の時とは別の勢力の物だったりしたら目も当てられない。

 なにせ、全てがちゃぶ台返しでひっくり返ることすらありえるのだから、社会的な安定は難しい。

 実際、二代目の戴冠の時からシッチャカメッチャカなのだ。『帝国』は。


 何せ優秀すぎる初代のせいで、誰が帝位に就こうが見劣りしてしまう上に、皇帝としての正当性をアピールしようにも初代皇帝の様な目覚ましい業績なんて、そう簡単に残せる訳もない。


 更には支持してくれた支持母体は分け前を寄越せと喚き散らすのに、下手な事するとコワーイ国母様の鉄拳制裁(物理)が待っている。


 各天上大陸は世代交代の度に暗躍し、暗闘し、その結果、各勢力は決して表には出ない屍山血河を築いた挙句に、譲歩を積み重ねて秘密交渉を繰り返して、譲歩できるギリギリのラインで均衡が生まれた時、新たな皇帝が戴冠するのが常であった。


 まぁ、要するに誰の影響下にもなければ、誰も勢力下に置いていない人畜無害。それが現在までの歴代『帝国』皇帝である。


 これは我輩もご多分に漏れることはない。先代とは赤の他人である。

 だから、我輩が帝位を愚息に継承できなければ『帝国』はまた荒れるだろう。

 良からぬ輩が良からぬことを画策するかもしれない。


 だから、我輩は民草のためにも何としても愚息に帝位を継承せねばならないのだが、人畜無害故に即位できた我輩が、虎視眈々と自己利益の拡充を狙う天上大陸を黙らせて、そんな事を出来る訳がない。


 実子に帝位を継承する為に、その正当性を担保する業績を成す努力はしないのかって?

 無茶を言わんでくれよ。我輩は我輩の器を良く解っているつもりである。

 悲しいなぁ。


 だから先日も何とか愚息の後ろ盾になってもらえないものかと国母様にお縋りしたのだが、まぁ結果は塩引っ掛けられて砂糖菓子見たくされてしまった。

 覚悟はしてたさ。ワンチャン有るんじゃないか?とか思っただけ。


 で、愚息の後ろ盾は断ったのに国母様ったら、自分は継嗣登録するでしょ?

 まぁ、我輩たち『帝国』首脳が「すわッッ!!!」って思うのも無理は無いだろう。


 しかも、その時国母様行方不明だったし。

 我輩が砂糖菓子みたくなった直後からアリアドネ様と連れ立って姿を消してしまったのだ。

 もう必死こいて国母様探したわ。親の(かたき)だってこんな必死には探さないだろって位。

 諜報部が抱えてる案件全部放り出させて総動員。

 諜報部の管理職が何人か最近傷病休暇申請したのは快く受け入れてあげた。スマンかったな。

 中間管理職君たちの家庭や睡眠時間や毛根なんかの諸々の多大な犠牲のお陰で国母様は捕捉できて、国母様の継嗣も確認することが出来た。


 のだが。


 その継嗣は地上世界で碩術学校を卒業したばかりの幼女だった。

 諜報部の調べでは名前はライラ・デアフリンガー・ネルソン。

 地上世界の帝制国家・テルミナトル帝国に住む孤児で、かなりの訳あり娘であった。


 母親はメルセデス・デアフリンガー。

 元テルミナトル帝国陸軍元帥ヨルク・フォン・デアフリンガー=オフトハウゼン侯爵の一人娘。

 娘も侯爵本人も既に死去している様であるが、娘の方の死因や死亡時期は今のところ分かっていない。

 しかもオフトハウゼン侯爵家がヨルク・フォン・デアフリンガーの死去に伴い、既に侯爵位を返上していると言う、なかなかの訳あり具合である。

 普通、侯爵ともなれば養子を入れるなりして家名だけは存続させるものだ。


 ライラと言う娘の父親の名前は、何故か分からなかった。

 継嗣のファミリーネームがネルソンなので、これは父親由来であろうとは思うのだが、父親に関する記録は意図的に削除されている可能性が高い、との事だった。


 侯爵家の一人娘の死因や死亡時期がわからない時点で、かなりの訳ありである。

 諜報部の見解では、貴族名鑑から削除された痕跡がある為、某かの不届きが有ったのは間違いない。

 もしかしたら駆け落ちかも、とは諜報部長の冗談であったが、当の諜報部長はその冗談を口にした直後、彼は神妙な顔をして慌てて我輩の前を辞去して行った。


 だが一番の謎は、そんな訳あり娘を何故国母様は継嗣登録したのか、という事だ。

 そもそもの接点は何だ?


 世界を統べる『帝国』随一の実力者である国母様とこのライラと言う、常識的な貴族なら避けて通るであろう訳あり娘を結んだ所以が解らない。

 諜報部員たちは何とかその事を突き止めるために彼女を(じか)に監視しようとしたのだが、如何せん国母様の常時展開型警戒網(シーキングスフィア)の範囲が広すぎて、諜報部員たちの探査範囲では詳細を掴むことは出来なかった様で、国母様がライラと言う娘とどの様な関係なかを把握することすらできなかった。


 まぁ、碩術戦で国母様に勝てる奴、居らんしな。

 勝てるとしたら初代の皇帝くらいである。国母様の碩術、初代の直伝らしいし。

 全く。何をするにも初代の皇帝が邪魔しやがる。ホント勘弁してよ。


 で、我輩たちは知恵を絞って、国母様の旧知を頼ることにした。

 人語を解し、国母様に迫る強大な戦闘力を誇る天下のサンダードレイク(害獣)

 そう。リーベラクレア・ストゥ……――ごめん我輩リーベラクレア様の名前覚えられないんだわ。毎回言う事違うし――様である。


 彼女に平身低頭、貢物(最高級食肉)いっぱい捧げて拝み倒して、娘さんのフィンブリーちゃん――リーベラクレア様は初代の子供とか言ってるけど、ここ数百年で産んだらしいから出産時期からして多分違う。でも否定すると大変なことになるから皆黙ってる――のご機嫌とって、何とかだまくらかして国母様にぶつけてみたのだ。


 国母様とリーベラクレア様は犬猿の仲(水魚の交わり)だし、二柱が邂逅するタイミングなら何とか派遣した諜報部要員が国母様のシーキングスフィアを掻い潜ってライラと言う娘と直接接触出来ないか、と思ったのだ。

 まぁぶっちゃけ、二柱が出会った瞬間というか、そもそもリーベラクレア様は国母様の所行かないし、急に国母様は空飛んでぶっ飛んでくし――報告によると、変換放射装甲板製の薪ストーブに乗ってぶっ飛んでったらしいけど、流石に『報告には正確を期すべし』と担当者を叱責しておいた。だってねぇ。変換放射装甲板(星征艦隊の外殻装甲)製の薪ストーブとか、あるわけないじゃない?――慌てて追っかけた諜報部要員によれば、国母様はリーベラクレア様と出会うなり急にどつき合い始めるし、国母様が森の中に作った拠点にゃ何故かアリアドネ様が居て近づけないし、収穫なし、というオチ。


 うーんどーしよ、って我輩たち『帝国』首脳陣が頭抱えてたら、国母様を監視する為に派遣してた諜報要員たちが一夜のうちに全員音信不通になるし、これバレたかも!って我輩たちが顔面蒼白になってたら、我輩の元へ国母様から一通の招待状が届く始末。



 『久しぶりに、昼食など如何ですか』



 だって。

 我輩の気合が入るのもわかるだろう。決死の覚悟である。


 昨日は愚息をいっぱい可愛がった。最近反抗期が激しい愚息は嫌がっていたのを構わずに、朝から晩までベッタリして来た。

 たとえ我輩が今日ここで死のうとも、愚息が少しでも長く我輩の顔を覚えていられるように。



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― 新着の感想 ―
[一言] おお、差し込み更新してたのか。 差し込み更新はアプリだと分かりづらいな。 平然と行われる突然の凶行w 前回は押しかけてきたみたいだけど、今回はヘリさんの正式なお誘いだからしょうがないか。
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