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朕は猫である  作者: 名前はまだない
49/70

#48

毎度更新遅くて相スミマセン。

色々とアイディアが浮かぶも、色々と決心がつかず、倍くらいの駄文を書いた上で不採用、という何かアレなソレでした(言い訳

この駄文次に活かしたいな(願望

 眼下に広がる広大な草原は、春になれば青々とした草花が生い茂りピクニックに来るには最高のロケーションに見えたが、その草原は今、迫り来る冬の足音に寒々とした枯れ草が生い茂るばかりであり、さらには鉄と火薬の齎す血漿の雨に濡れて、まるで病で瀕死の野良犬のような変わり果てた姿を晒していた。



 『酷い』



 震える唇でそう呟いたライラの言葉は短くも、最も端的にカデン高原の現状を表現していると、朕にはそう思えた。



 『これが、戦争だ。なんとかこの戦争を早く終わらせねばならん』



 遥か高空を飛翔する真紅の飛行箒から眼下を望みながら、その惨状を朕たちは噛み締めていた。



 『どうすればいいかな?』



 ライラが泣きそうな顔で眼下を見つめながら、朕に指示を仰ぐ。



 『少し大回りして、両軍の陣地が一望できる位置まで移動しておくれ。そうさな、方位168(ベクター168)に向かって3マイルほど移動しよう』



 ライラが眼下の惨状から目を背けるように、『コピー(了解)』を告げると、朕の指示した方向に機首を回した。

 朕たちは今、まさに鉄火場(主戦場)となっているカデン高原の中央部を飛行していた。今回は救援物資の投下任務を終えた帰りである。


 朕たちはここのところ、2日に一度のペースでカデン高原の各所に夜間飛行で赴き救援物資を投下していた。

 輸送量増加を目指してライラに座標置換(キャスリング)を教えているのだが、まぁ三日と言いつつも、その程度で習得できる業ではない事は解っておったが、案の定ライラはまだ安定してキャスリングを成功させることが出来ていなかった。まぁ、後一週間も頑張れば出来そうではあるがな。戦争が続くだけ負傷者や困窮する者たちは増えるわけで、救援物資の輸送を休むわけにもいかないから、なかなか纏まって練習する時間が取れていないのだ。

 凡世界救済軍(P C S A)の碩術師も孤軍奮闘している様であるが、相変わらず輸送要員が行方不明になる事態が頻発しており、朕たちが救援物資の輸送を休むわけにもいかない。このままでは早晩ライラが物資輸送の主軸を担う事になりかねない。その為にもキャスリングを早く習得させなければ。


 しかし、ライラがキャスリングを習得したとて、救援物資の輸送量が増えても、戦火による死傷者・困窮者は増え続ける。

 抜本的な対策が必要であった。


 最も効果的なのは戦争を終わらせる事なのだが、戦争というものは得てして究極の外交戦術なのであって、最後の手段でもある。詰まるところ、他に方法がなくて開戦に至る場合が殆どだ。

 アリアドネたちの話を聞くに、今次の戦争はそれこそテルミナトル・ラサントス両国の生存戦争の様相を呈している。

 ラサントスは現状を放置すれば衰退を免れ得ず、テルミナトル帝国は戦争に負ければ天上大陸の管理下に置かれる事になるだろう。


 特にテルミナトル帝国の首脳陣、彼の国は帝政の様であるから、皇帝一家を始めとした政府首脳は戦争に負ければ一文無しならまだしも、それこそ広場で民衆の眼前で無惨に吊るされる事も十分に考えられる。

 そうであれば、彼らにとっては正しく生きるか死ぬかの瀬戸際であり、そうそう簡単に戦争を止める事は考えられない。夥しい数の屍山血河の末に、腹切同然で降伏することに成ろう。


 まぁ、アリアドネ辺りが夜陰に乗じてテルミナトル・ラサントス両国の首脳を亡き者にしたりすれば一旦は戦争は止まるであろうが、それは別の爆弾に繋がる導火線に火をつける事と同じである。

 一度前例ができると、凶行に及ぶハードルという物は急激に下がってしまう。

 それこそ、現状の『帝国』はなかなかに不安定な様であるから、自己の利益を最大化する為の暗殺合戦が起こるかもしれない。天上世界でその様なことが起こってしまえば、抑止力となれるのはヘーリヴィーネや星征艦隊くらいのものだろう。まさにヘーリヴィーネが世界中を回ってグーパンを見舞う事態になりかねない。

 世界最後の日が来るかもしれない。


 それはなんとしても避けねばならなかった。ヘーリヴィーネやアリアドネたちの為にも。彼らの手を汚すことがない様にしなければならない。

 その為には死人が少なく、アリアドネたち天上世界人が手を下す事なく穏便な解決方法が求められるが、今の朕は単なる黒猫の使い魔であるからして、出来る事が至極限られている。

 先日のあの狂ったように感謝を伝えてきた可変長符号が瞬く様が朕の脳裏から離れない。あの光景が、朕の背を力強く押している気がした。


 しかして、朕は幾らかの素案出しとその実行可能性と効果をアリアドネと検討した結果、一つの案を実行に移す事にした。

 本日はその最初のステップである。


 これまで救援物資の輸送は主に夕暮れ時にカデン高原に侵入し、夜陰に乗じて帰ってくる、という安全第一のプランであった。

 これに対して、今回の救援物資投下は朝の早い時間に行っていた。救援物資の投下を終えて帰路についている現在時刻は丁度中天に差し掛かる事である。

 天気は晴れ。抜けるような快晴がカデン高原全体を照らしている。戦場全体がよく見える。


 亜音速の飛行風に混じって、時折胡麻を炒る様なパチパチという小さな音が混じり聞こえてきた。

 常時展開した朕の理論絶対(シュヴァルツシルト)防御結界(サーフェイス)が朕たちを狙って放たれた銃弾を弾いている音であった。なかなか良い腕をした射手が居るのか、もしかしたら碩術師が弾道補正を行っているのかもしれない。高速で高空を飛行する物体に的確に当てて来るのであれば後者であろう。それだけ、対空射撃と言うものは難しい。


 朕の理論絶対防御結界はリーベラクレアの荷電粒子加速砲(ブレス)程の威力でなければ抜かれ無い自信はあるのだが、捕捉されたということは邀撃要員が上がって来る可能性が高い。叩き落とすことは簡単だが、あまり派手にやるとカデン高原を飛ぶ他の人道支援要員たちも目の敵にされかねない。早めに視界から消えておくに限る。



 『ライラ、高度を1エンジェル(1,000ft)程上げよう。地上の兵士に捕捉されておる様だ』



 ヒェッと言う情けない悲鳴を上げてライラが慌てて高度を上げる。

 高度を上げると霞で遠望が霞むのが悩みどころだ。



 『ナヴィ、どう?』



 既に物資透過を終え空になった荷台(キャリア)の上で、小さな筒状の万華鏡の様な物を覗く朕を振り返ってライラが問う。



 『うーん。ちと微妙だか、これで行ってみよう。もうあまり時間も無いしな。まぁ、ダメならまた後日、撮れば良い』



 朕の覗き込んだスコープは、荷台の天板の縁に取り付けられた黒い樹脂製の小さな箱へと繋がっていた。

 こちらからは見えないが、箱の下側には大きなレンズが1つ、大地を睥睨するように覗いている筈だ。

 これはアリアドネに取り寄せてもらった天上世界製の超高解像度撮影機であった。

 スコープの先に広がる大地には、まるで虎柄のような縞模様にも見える溝が、カデン高原中央部の草原地帯を堺に西と東で対峙するように刻まれていた。


 塹壕である。


 アリアドネから聞き及んでいた通り、現在のカデン高原で繰り広げられる攻防戦は一進一退の塹壕戦へと移行していた。

 まるで電子回路か何かのように大地に刻まれた塹壕は延々と南北に伸びており、双方敵の塹壕に回り込まれないようにと尚も拡張中の様子であった。


 複雑で迷路のようになっているのは、塹壕に侵入された時に前線司令部まで一直線に攻めこまれないようにする為の工夫である。

 直角に曲がりくねっていれば、曲がり角の度に敵は先を確認するために進軍速度を落とす。更にはそこに伏兵を仕込んでおけば敵の数を減らしながら遅滞戦闘が展開可能な様に、と言う事である。

 その奇っ怪な景色をスコープで覗きながら、朕は黒い箱から伸びたワイヤー状のシャッターボタンを印付した砂入の革手袋(マジックハンド)で操作する。

 カチリ、と音がしたかどうかは吹き荒ぶ飛行風の音に掻き消されて解らなかったが、インジケーターは撮影が完了したことを示していた。



 『撮れた?』



 『もう何枚か撮ろう。一回折り返してくれるか?』



 ライラが重心移動(リーン)して飛行箒を斜めに傾け(ローリングさせ)て緩旋回に入り、もと来た道を折り返すと、ライラがビクリと身を震わせるのがわかった。

 同時、朕も地上から照射されたであろう下方向からの照準波(シーキングウェーヴ)を感知した。


 最近、よく碩術が行使される環境に居るためか、ライラはオドの干渉に特に過敏になっている傾向がある。

 時として朕よりも照準波に気づくのが早い事もままあった。

 碩術師としてはこの上ない能力であるから、とても喜ばしいことではあったが今はその喜びを噛み締めている暇はない。



 『ナヴィ!トゥリーオクロック(前方右斜め)・ロー(下方向より)スパイク!(照準波を照射されてる)ブレークして(逃げて)いい?!』



 『ちょっとだけ待て!あとちょっと!』



 ライラの悲鳴のようなチャントを聞きながら、急いで撮影機の広角レンズのピントを調節してシャッターを押す。

 上手く撮れたかは判らんが、今はとにかくトンズラするのが先である。



 『良し、ライラ!ブレーク!ブレーク!(逃げて良いぞ)アールティービー(帰投しよう)



 朕が言うが早いか、ライラがスロットルを開けて急加速しながらバーティカルロールを入れつつ最大戦速で左に急旋回を開始する。

 大地を左方向に見下ろしながら加速してゆく飛行箒から下方を眺めると、後方から急速に上昇してくる黒い点(シルエット)が幾つも見えた。

 多分邀撃要員が緊急出撃(スクランブル)してきたのであろう。上がってきた方向から察するにラサントス側と思われる。



 『ヒィぃィ!スパイク!(あっち)イレブンオクロック!(からも来た!)



 上がってきたラサントスの邀撃要員を振り切るべく加速を開始したところで左前方からも照準波が飛んでくる。

 方向的にはテルミナトル帝国側であるから、テルミナトル帝国軍も邀撃要員を飛ばしたと考えるべきだった。

 ライラは慌てて挟まれないように今度はホライゾナルロール(180°ロール)から右急旋回に入った。


 ぴえぇぇぇっ!とライラは情けない悲鳴を上げながら急旋回から襲い来るGフォースに必死で抗っていたが、鉄火場で実際に敵意の篭った照準波(シーキングウェーヴ)を当てられたのがよほど怖かったと見え、スロットルはずっと開けっぱなしであった。


 グングン加速しながらも、右に左に不規則に旋回を繰り返して何とか追手から逃れようと必死のライラを横目に、朕はこの状況について頭の中で情報を整理する。

 空域封鎖をしていると言うことはつまりそう言うことではないのか、と朕は予想してはいたが、どうやら彼奴らは戦場の上空を飛ばれるのが余程嫌だと見える。


 まぁ、塹壕戦の最中、これ(・・)をやられると戦線全てが瓦解する危険性があるからな。当然の反応であった。

 この反応を見るに、朕の目論見は結構な効果が期待できるやもしれぬな、などとほくそ笑む朕を尻目に、ライラは半ベソをかきながら必死で戦場の空を逃げ惑うのだった。











テルミナトル帝国

帝都ヴィルへリンブルク スラム街



 

 「さーて、どうするかねぇ」



 僕、アリアドネは当て所もなく黄昏時の街路を歩いていた。

 僕のジャケットの内ポケットには、何枚かの写真が入っている。


 それは、高精細なカデン高原上空からの航空写真。

 そこには微に入り細に入る詳細な、テルミナトル・ラサントス両軍の塹壕陣地情報が追記されていた。

 塹壕の形から後方の支援砲撃陣地や予備兵力の待機場などなどの相互援護状況から、果ては便所の位置まで。


 この写真は、現在唯一地上世界でカデン高原中央部を横断できる能力を有しているであろう、ライラちゃんと陛下が戦場のど真ん中を強行偵察とも言うべき、速度の暴力に物を言わせて撮ってきた物だった。

 今現在、この写真には万金の価値がある。


 なにせ、塹壕戦中の航空写真など、軍事情報の塊である。この写真をテルミナトルか、ラサントスか、どちらかの陣営が手にしたとなら、次の日から文字通りの屍山血河が築かれることになるだろう。

 それだけ塹壕戦においてはクリティカルな情報であった。

 塹壕陣地とは、地上から見ればただの原っぱでしか無いが、実際には張り巡らされた溝状の堀の内側に兵士がゴマンと隠れている。更には歩兵が隠れている味方塹壕の正面の空間を火制域に納めた支援砲撃陣地が山ほど作られている。

 この様な塹壕陣地にいたずらに歩兵で進撃しようものなら、塹壕内部の銃兵から横列斉射を受けながら、さらに後方に設置された砲兵陣地からの支援砲撃に晒されつつ前進しなければならない。

 しかも正面以外は敵の塹壕の形や位置は正確には判らず、敵は状況に応じて塹壕内を縦横無尽に移動してありとあらゆる方向から射撃が可能なのである。


 それは、控えめに言って豚が屠殺場に迷い込むのと同じだろう。

 塹壕陣地とは、最前線から後方に向かって平面上に広がる『要塞』にほかならないのだ。


 しかし、この塹壕陣地という平面的『要塞』にも弱点は有る。

 各前線を支援する為にそれぞれを火制域に納める支援砲撃陣地の位置が判っていれば、そこを先に徹底的に砲撃してから歩兵突撃を敢行する事ができる。

 支援砲撃の無い塹壕陣地など、墓穴と同義である。


 さらに歩兵突撃の前に徹底的に敵塹壕を砲撃して、内部の歩兵を減らしておくことも出来る。これには敵塹壕の正確な形と距離などの情報が必要だ。

 塹壕陣地は一度前線の一部が食い破られれば、その穴は指数関数的に広がってゆく。前線を突破された側はいち早く後方に設けた二次防衛線まで下がらざるを得ない。塹壕陣地とは、防衛側からすれば塹壕内の数的不利について、増援部隊を投入することが非常に難しいのだ。敵が下がれば、前線を突破した側は敵の放棄した塹壕分だけ前進することができる。

 そして、下がった分だけ国土が侵されることになる。これが塹壕戦だ。


 では、その引火点となりうる敵塹壕陣地の支援砲撃体制をどうやって知ればよいのか。敵の塹壕の形は?距離は?

 一番手っ取り早いのは、上空から見下ろすことだ。


 だから、テルミナトル帝国もラサントス邦国も、上空への敵侵入を防ごうと躍起になっている。

 現在、両国の全域で飛行禁止区域が設定されて、空を飛んでるものは味方以外全部敵、とばかりに無差別のマンハントが行われているのはその為だ。


 更には、地上世界にはまだ携行が容易な撮影装置というものが無い。天上世界が秘匿してるからね。確か、未だに乾板を使っているはずである。化学反応によって画像を固定するから、航空写真には頗る向かない。

 結果、偵察兵が飛行箒で飛びながらスケッチしたり、覚えたりして敵陣地の情報を収集している始末である。

 まぁ、無いよりはマシであろうが、殆ど無いのと同じであった。


 そんな不正確な情報を元に砲撃したって、効果は見込めないのが地上世界の限界であった。

 だが、このライラちゃんたちが撮影してきた画像からなら、敵の塹壕陣地の全容をインチ単位の正確さで測ることが出来た。ご丁寧に撮影された高度の情報まで入っている。

 まさに、この航空写真さえあれば、敵の砲兵支援陣地を正確に砲撃して、塹壕に沿って絨毯砲撃まで出来るであろう。

 僕のジャケットの内ポケットに入っている写真は、そんな一撃必殺の軍事情報であった。


 問題は、コレをどこの誰に渡すのか、という事。

 テルミナトル帝国やラサントス邦国関係者ではダメだ。

 戦争は終わるだろうが、片方にとんでも無い死傷者を生む。

 それは僕らの目指す結末とは正反対の物である。絶対に容認できない。


 タダでさえ、天上人である僕がどっちかに味方するってのは宜しくないのだ。

 なるべく穏便に、どこかの誰かが一方的に利益を得る様な事が無いように。

 特に、天上世界の国家群が利益総取りするような事は。


 出来る事なら、皆等しく損をして、此度の戦争がこれからの国際政治の反面教師となる様になればなお良いのだけれど。

 となれば、この情報をどう活かすか。


 陛下の答えは、この一撃必殺の情報を、テルミナトル帝国・ラサントス邦国の両方にほぼ同時に公開することであった。

 しかも、両者に相手もこの情報を『知っている』と確信出来る形で。


 塹壕戦とは、平面上に広がった『要塞』であり、その強みは後方に広がった支援陣地であり、その位置を特定され、正確な距離などを測定されると砲撃で支援陣地を潰されて弱体化した前線が崩壊してしまうと言う弱点を持っている。

 『その弱点情報が『敵の手に渡った』という事を知る』と言う状況を双方に創りだしてしまおう、と言うのが陛下のアイディアの肝だ。


 すると、どの様な事態が予想されるのか。

 陛下の言では



 「塹壕情報が敵の手に渡ったとなれば、迅速に陣地の再構築をせねばなるまい。新たな塹壕を掘って更に複雑化を図り、支援陣地の位置を変えたりな。総出で穴掘りをせにゃならんから、戦闘どころではなかろう。これで幾らか時間が稼げれば良い。そして、双方の塹壕の再構築が完了した頃合を見計らって、また同じことを繰り返す。軍隊は寝ていたって金と物資をバカ食いするから、上手く行けばどちらかが息切れして講和に動くかもしれん。参謀共は憤死するかもしれんな」



 とのこと。


 なんて悪辣なアイディアなんだろう。

 皆で力を合わせて一生懸命穴掘ってやっとこ新しい塹壕拵えたかと思ったら、翌日上空から航空写真撮って、彼らの努力をすべてを台無しにする気満々である。

 穴掘らされてる人の身にもなればいいのに。僕なら大地を叩いて噎び泣く。


 と言う事で、僕は今、テルミナトル帝国とラサントス邦国の両方にほぼ同時にこの写真を見せられる、そんな都合の良い『アテ』を探して絶賛悉皆彷徨中であった。

 理想は新聞社とかなんだけど、テルミナトル帝国もラサントス邦国もどっちもガッツリ検閲入ってるから、こんなヤバイ情報載せてくれるところなんか無いだろう。発禁にならないわけがない。


 タダでさえ戦争でピリピリしているんだから、こんな記事載っけたらすわスパイか、ってんで関係者一同収容所行きだろう。

 そんな命懸けのことをやってくれる所はそうは無い。

 まぁ、編集部丸ごとマインドハック(洗脳)して、当局がカチ込んで来たらトカゲの尻尾切りしてトンズラするのは一つの手なんだけど、最後の手段かなぁ。


 などと考えながら歩いていると、眼の前のアパルトメントから足早に出てくる一人の女性を見つけた。

 既に陽は落ちている。

 女性が一人、出かけるには遅すぎる。しかも、彼女の身なりからすれば、夜の仕事という感じではなさそうであった。


 背が低く、痩せぎすで塞ぎがちな印象の顔立ちで、伏し目がちな彼女は有り体に言えば『冴えない』雰囲気なのだが、その雰囲気の裏側にはひた隠した知性に裏打ちされた女性特有の防衛本能に似た何かを感じさせ、僕の視線は無意識に彼女を追っていた。


 彼女の出てきたボロいアパルトメントを見やれば、今まで気にも留めなかった記憶が、脳裏からクルクルとボビンが糸を吐き出すように幾つかの記憶が連なって吐き出されていた。

 アレは確かつい最近、ライラちゃんの周辺に「虫が集まっている」と言うヘーリヴィーネの漏らした言葉が気になって、僕も周囲を洗ってみた時に調べたのだと思う。

 名前はなんと言ったか、確か反帝制派の市民活動家が根城にしているアパートではなかったか。


 確かゴシップ紙にかこつけた反体制派新聞を発行しているプロの市民(・・・・・)だった気がする。

 その主張は確か私有財産の国有化と平等な分配を謳った共産主義的側面が強い印象だった。

 幾つかその記事を読んでみたけど、権威主義的な匂いがしなかったから理想論者で危険性は無さそうかな、と思って無視したような気がする。共産主義って、大抵は権威主義に対抗するためのアンチテーゼでしかないからね。要するに、奴隷が主人に成り代わる為の大義名分である。


 お陰で各国で何度も発禁処分食らって、何度も新聞名を変えて、更には発行社名も変えていて、にも関わらず確か周辺諸国にも地下組織を通じた流通ルートを持ってたはずである。コミンテルンネットワークって言うのかな?そういう感じの。

 それを通して各国に新聞を流通させてたはず。



 「……ふーん……」



 と、そこまで思い出して、僕は自身の顎を擦る。

 そうか、新聞社か。

 しかも各国で何度も発禁処分食らってる。


 つまり、彼らが発行に際して検閲を通さなかったとしても、当局は結構気をつけて彼らを見張ってると言う事だ。

 という事は、テルミナトル帝国とラサントス邦国への露見タイミングを図れるかも知れない。

 僕たちの目的は、一般人に真実を伝えることではない。

 必要なのは、テルミナトル帝国・ラサントス邦国の両方にこの航空写真を見せて、相手にも見られた可能性が高い、と思わせることである。


 良いね。

 僕は視認されない程度に距離を開けて、先ほどの女性の後を追うのだった。

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