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朕は猫である  作者: 名前はまだない
32/70

#32

 明けて翌日。


 姦し娘共が出来上がった薪ストーブを担いでやって来た。下手にアレンジすると危険、と学習したのか、今度はきちんと鉄製であった。錆止めに植物油を塗布した様で、褒めてやろうとした矢先。


 事件は起こってしまった。



 「どどどどどう言うことなのです!」



 「でゴザル!」



 「……」



 顔を洗っていたライラにシュピちゃんが気を利かせてタオルを渡した折に、ライラが「ありがとうシュピちゃん」と礼を言ったのを姦し娘共が聞き咎めてしまったのだった。



 「母艦である本艦よりも先に艦載機に名前が付いているのです!」



 「でゴザル!」



 「……(†゛≠才〓(ゲキオコ)



 いきり勃つ姦し娘共に、恥ずかしそうに頬(?)を掻くシュピちゃん。何故かストーブを作っていたのであろう姦し娘達と一緒に居た筈の個体達も揃って恥ずかしそうに頬を掻いている。此奴ら個体という概念がないタイプか。


 ついでとばかりに、やはりストーブ作成組と井戸作成組のリーゼ君達が縦一列に並んで、1番前の個体が『僕、リーゼ君。ねぇ、今どんな気持ち?』と書かれた木版――いつの間に用意したのだ?――を手に、上半身を時間差で回転ウェービングさせながら姦し娘達を煽る。


 事態を理解してはわわ(・・・)るライラ。


 存外マインドスフィア()望が無いのぅ姦し娘共よ。


 と言うか、艦載機達は自律制御型だったのだな。まぁ、それはそうか。母艦が墜ちたら、僚艦が制御を引き継ぐまでとはいえ、一瞬でも艦載機達の制御が失われる様な事があってはならん、と言う事であろう。特に此奴ら敵勢力圏に強行突入するタイプの様だし、最悪母艦が全滅しても艦載機が自律制御で神風アタックをかけられる位で無いと戦略的に問題があるしの。


 しかし面倒くさい事になった。ライラに口止めしておかなんだ朕も迂闊であったな。



 「夜を徹して精勤した艦載機達にライラがご褒美として名を与えたまでよ。細かいことでイチイチ騒ぐでない。ケツの穴が小さいのぅ、便秘になるぞえ」



 「だから本艦はウ○コしないのです!これが騒がずして何を騒げと言うのです!秘密基地建造を手伝ったのは本艦なのです!なのに本艦はまだ命名してもらってないのです!なのに!なのに!なのです!!!」



 「そーだそーだでゴザル!124番には命名しなくて良いでゴザルから、拙者に命名して欲しいでゴザル!」



 「なんだとー!なのです!!」



 「……レヽма()レヽ千(よ”ω(1番)〓宀┠勹〒ω(高得点)ナょ/(なの)了ーU()



 またギャースカ騒ぎ始める姦し娘共。ほんに煩いのう。まぁ、シュピちゃんとリーゼ君が自律制御と判れば幾らでも詭弁を浪せるがの。



 「建造を手伝ったと其方等は言うが、実際作業をしておるのはシュピちゃんズとリーゼ君ズではないか。そのストーブも、加工したのはシュピちゃんで、運搬や力仕事をしたのはリーゼ君であろう?」



 「ぐぬぬ。でも材料を提供したのは本艦なのです!」



 「±”レヽレ」∋宀(材料)〒レヽ‡∋宀(提供)Uナニσしよ了ーU(したのは私)。124(よ”ωσしよ(番のは)ヘ〃っ(ニレヽ5ナょ(別に要らな)カゝ⊃ナニ(かった)



 「ぐぬ……労働力を提供したのは本艦なのです!」



 「労働力を提供したのは拙者でゴザルよ!124番のは別に要らなかったでゴザルよ!!」



 「ぐぬぬーーーーー!なのです!!」



 「材料は星征艦隊の備品であって、単に其方等に割り当てられているだけで其方等の所有では無いのであろう?ホレ、其方等何も貢献しておらんではないか」



 「ぐぬぬぬヌーーーー!!なのです!!!」



 地団駄を踏む124番艦(1号)を横目に、本日の予定を立てる。

 取り敢えず、昨日屋根の構造を勘案した結果、小屋の壁を厚くする必要が出てきた。壁を厚くするためには土嚢が余計に必要であり、土嚢袋の数には余裕がある。問題は中に詰める土をどう調達するかだ。


 等と考えていると。



 「……付けてくれるのです」



 何やらしおらしい声が聞こえる。



 「……どうすれば本艦にも名前を付けてくれるのです」



 見れば、124番艦(1号)が瞳に光る物を湛えてこちらを見ておった。27番艦(2号)が「そんな機能何処で実装したでゴザル?」等と目を剥いている。289番艦(3号)、目薬を使うな。

 うーむ。面倒臭い奴だのう。ちと、おちょくり過ぎたかの。



 「なれば、其方達も手伝え。朕達は今、土嚢に入れる土を必要としておる。穴を掘れば良いのだが、この広場を穴ぼこだらけにしても仕方がない。何か手は無いかの?」



 土の問題は結構深刻である。穴を深くすれば良いのだが、それはそれで後々危ない。何処か別の邪魔にならない場所で穴でも掘ってきてもらえるとありがたいのだが。



 「土嚢に入れる土とはなんでも良いのです?」



 「特にこだわりは無い。草が混じっても良いが、混じらない方が良い。後は、ムカデやらヤスデが混ざっておると危ないから、地中の昆虫は避けてもらえるとありがたいの」



 「本艦の着陸時に掘り返してしまった土が有るのです!持ってくるのです!」



 言うが早いか、姦し娘達は身を翻して行ってしまった。

 ほんに面倒臭い。本気で何ぞ艦名を考えてやらねばならんかのう。


 その日も、ライラにはテレキネシスで穴掘りを続行させた。まぁ、毎度鋤がお空へと旅立つのは仕方がない。練習だ練習。

 やがて、山盛りにした土を乗せた一輪車を押した姦し娘達も加えて大いに小屋の建設は進んだ。


 壁の一面をピラミットのように階段状に積み終えたところで日が暮れた。

 姦し娘達は明日の為に引き続き一輪車で土を運んでくると張り切って行ってしまった。


 暗くなる前に夕食の準備をする。

 長さ半ショーク程度の丸太を十字になる様縦にわり、丸太の太さと同じくらいに掘った地面の窪みに刺す。

 中心に柴や落ち葉を詰めて火口にすれば、それ自体が燃料になる簡単な焚き火台が完成する。


 俗に言う、ウッドキャンドルと言う奴である。その上にダッチオーブンを直接置いて料理を開始した。

 一緒に昨日獲った鹿の肉をウッドキャンドルから立ち上がる煙で炙って燻製にする。

 本当はもっと香りの良い木材の煙で炙る方が後々の味が良いのだが、保存するだけならば問題無い。


 宵闇の中で揺らめく炎を眺めながらの食事。今晩のメニューは鹿肉のシチューだ。

 よく煮込んだ鹿肉は柔らかく、しかし適度な歯応えと溢れる旨味が噛むたびに舌の上で踊る。

 うむ。今日も中々の出来であった。

 にも関わらず、ライラの顔は何処か優れない。



 「何か考え事かの?」



 まぁ、何を考えておるかは手に取るように解るが。



 「――艦船の命名には、幾つかの決まり事がある」



 朕の言葉に、ライラが顔を上げた。



 「どんな?」



 「いや、正確には、決まり事の様な暗黙の了解が有った。昔は。……ライラは彼奴等を見て、どんな名前を思いついたかの?」



 「うーん。124番艦ちゃんは綺麗な天色(あまいろ)の服を着てるでしょ?透けるようなプラチナブロンドに、鏡みたいな金瞳。だから、最初に思い付いたのは……勿忘草」



 勿忘草か。まぁ、確かに似たような色の取り合わせだのう。

 正直、それでも良いと思うのだがのう。だが、ライラはあまり気に食わない様子だな。


 ライラは、名前に何か特別な意味を持たせたいのであろうな。その点、勿忘草は確かに不適格かもしれん。呼吸器系に効く薬草とされるが、有効成分としては民間療法の域を出ない代物。花言葉は『真実の愛』『誠実』『私を忘れないで』。まぁ、縁もゆかりも無いな。



 「船と言う言葉はどの言語に照らして見ても昔から女性詞だの。だが、名前には男性名が付くことも良くある。大体が偉大な人物を称えて命名される。ジョージやフリードリヒ、ピョートル、スプールアンス。最後のは家名だな。その他には、地名や、戦闘的、権威的な形容詞などが良く使われる。ヴァンガード(最前衛を担う者)、ダンケルク、ロイヤルソブリン(王の権威)。他には、ある国では艦種によって命名法が殆ど決まっていた。戦艦は地名や山の名前、巡洋艦は山と大きな川の名前、駆逐艦は海に関する事象の名前であった」



 戦闘艦の名前に命名法がある、と言っても、それは法律で決まっているわけではなく、単なる慣習法であることが多い。国民から公募して決めるところもあれば、君主が命名するところもある。まぁ、前出の国も全ての艦が地名・山・川・海の現象という法則に則っていたわけではなかった。中にも例外はある。



 「じゃあ、その国の命名法でいくと、124番艦ちゃん達は、どの分類になるの?124番艦ちゃんの艦種って何?」



 「うーむ。難しいのう。彼奴等は強襲揚陸艦の一種であるからして、どれにも当たらないかのう。それに、彼の国の命名法は海に浮かぶ船を対象にしておった。星間航宙戦闘艦である彼奴等にはちとそぐわんかもな」



 ライラがまたうーん、と唸りだす。



 「面白い話をしてやろう。彼の命名法が決まっていた国には、シュニーヴィントと名付けられた船がおった」



 「(シュニー)(ヴィント)?って事は駆逐艦?」



 「そうだ。シュニーヴィントは何千万人も犠牲になった大戦を通して数多の海戦を戦い抜いたが、一度も大きな損害を受けずに帰還したことで『幸運艦』などと呼ばれた。逆に、インヴィンシブル(無敵)と名付けられた船は、当時最強と謳われて恐れられていたが、いざ戦場に出てみると敵の一斉射で真っ二つになって沈んでしまった。名前が圧倒的に負けてしまった好例だな」



 「うんうん。それで?」



 「その名前に(えにし)を齎すのは、その艦の行動であって、名前ではない、と言うことだ。つまりは、何と命名しても変わらぬ、と言う事だの。先のことはわからぬ」



 朕の言葉にライラが不満げに頬を膨らませる。



 「えぇ~?何それぇ~」



 まぁ、こればっかりはのう。ポチでもタマでも良いのは、そう言う事である。ポチが値千金の大戦果を挙げて人々から戦勝の代名詞と呼ばれる事もあれば、タマが期待外れの働きしかできずに忌み嫌われる事もあるだろう。まぁ、命名に縁を望むのは命名者のエゴではあるが、やはり命名をするからには良い名前を、と考えるのは仕方のない事であろうな。自身の子供に名を付ける親の様に。



 「例えば、そうだのう。彼奴等は同型艦であるからして、何かそれぞれが関連性のある名前が良いかも知れぬな」



 「うーん。関連性かぁ」



 ライラまた眉をハの字にして考え込んでしまった。

 まぁ、関連性のある名前にすると、一つ決まれば他のも芋づる式に決められるから便利、と言うだけだがの。



 「何をしているのです?」



 ライラがウンウンと唸る中、暗闇の中を姦し娘達が土嚢に詰めるための土を一輪車で運んで帰ってきた。



 「……124番艦ちゃんは、どんな名前が良い?」



 大胆にもライラは本人に好みを確認する。

 まぁ、それが1番良いかもしれぬなぁ。



 「命名してくれるのですね!?」



 まるで花が咲いたように表情を明るくした姦し娘達が駆け寄ってきた。現金な奴らだの。



 「そう……私なんかが124番艦ちゃん達に名前をつけてあげるなんて烏滸がましいと思うんだけど、124番艦ちゃん達が望むなら、と思って今考えてるの。だから、好みがあれば、教えて欲しいなって思って」



 そう聞かれた姦し娘達は、困ったように首をかしげた。



 「『好み』と言う感覚が本艦達には解らないのです」



 「拙者達は命令を拝命し、それを遂行する事を主目的に建造されているでゴザル。だから『好み』と言う演算処理は実装されていないでゴザル。『好み』と言う感覚について、実装をご命令になるのであれば現在の哨戒任務に支障が出ない範囲で試行演算するでゴザル」



 「了ーUしよ(私は)了カゝヵヽ”(赤が)£‡(好き)



 まぁ、戦闘艦にはヒトに類する『好み』は必要ないからの。マインドスフィアの自動(Generative)(Adver)(sarial)機能(Networks)のアルゴリズム側で余計な事をしない様に制限されているのかも知れんな。いざ、戦場に出たら「怖い」とか言い出して逃げる様な――彼女等の赴く戦場は宇宙空間での戦闘が主になるが故に、撃破される時は「怖い」等と考る頃には既に撃ち落とされているのだが――マインドスフィアでは役に立たん。

 若干1隻程、自動学習機能(GAN)がバグを起こしておる輩も居る様であるが。やはり粗製濫造なのかのう。



 「うぅ~ん。『好み』無いのかぁ……」



 困り顔で首を傾げるライラ。


 「どんなプレゼントが欲しい?」と聞いたら「何でもいいよ」と答えられた時の様な絶望感が漂っている。

 ほんに手のかかる姦し娘達じゃて。どれ、助け舟を出してやらねばの。



 「其方等は何を想定して作られておるのかの?強襲降下とは言え、何処に降りるとか、何をする為に作られたとか。其方等の艦名の参考にするのだ。何かあるであろ?」



 「本艦達は、ILshnEDE(イルシュネーデ)勢力下の策源地(惑星・拠点)に対して、強行突入並びに大気圏中の活動個体群に対する制圧戦闘を行う為に建造されているのです!」



 朕の質問に1号が胸を張って答えた。



 「其方等の向かう可能性の高い目的地とかは判らんのかの?」



 「本艦達には決定権は無いのです。アサインされた作戦に従事して、司令部(HQ)の命令に従うのみなのです」



 ぐぬ。このう○こ娘め。こちらの気も知らんで。



 「でも、多分でゴザルが、赤経12h39m59.43185s、赤緯-11°37‘22.9954“方面になると思うでゴザル」



 と思ったら、2号がかなり具体的な方位を示した。赤経12h、赤緯-11°方面とは、どのあたりだったかのう。



 「第二次星征艦隊が向かった方向がその方位でゴザル。本艦(拙者)達が向かうとすればその方面になると思うでゴザル」



 成る程の。その第二次星征艦隊の要請に応じて姦し娘達は派遣されると言うことか。朕の治世では第一次星征艦隊すら派遣出来ておらなんだから、対ILshnEDE(イルシュネーデ)戦闘は其れなりに進んでおる様だな。まぁ、既に鬼籍に入った朕にはもう関係のない事であるが。



 「思い出したぞ。その方位、目的地はアストライアー銀河団方面か」



 「そうでゴザル。正確にはアストライアー銀河団のソンブレロ銀河方面にゴザル」



 「アストライアー!」



 と、そこでライラが何かに気が付いた。


 うむ。そうであるな。先日、アストライアーについては星読みの中で語ったな。アストライアーとは、全天九十一星座が一つ。晩秋の今時分、丁度西の空に輝いている星座である。



 「よし!今日はこれまで!皆の者、明日に備えて体を休めよ」



 丁度、口を開きかけた所を遮った朕を、ライラが不思議そうに見つめる。

 其方、今姦し娘達の名前を思いついたのであろ。今言ってしまってはイカン。褒美は仕事をキチンとしてからだ。


 

 「ホレホレ。ライラも早く食べよ。其方達も今日は良くやってくれた。明日も頼むぞえ」



 姦し娘共を追払い、ライラに食事をさせ、手早く就寝の準備をさせる。


 天頂に輝くアストライアー座を始めとした星座群を眺めつつ、今日もライラに星の見方を講義しながら床に就いた。



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― 新着の感想 ―
[一言] なんとなく先生はアウトドア系が好きなんだろうなー ウッドキャンドルを知ってる一般人は少ない気がする 運用の仕方を見ると損耗前提の艦で数が多いから名前を考えるのは大変そう 絶対後から後から沸…
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