#30
秘密基地の材料を揃えて、件のう○こ娘の手並みを拝見とばかりに、例の擱座した場所まで戻ってみれば、何故かそこにはう○こ娘の本体たる航空艦と同型と思しき巨大な2つの船体がまるで稚児が遊び終わった積み木の如く、う○こ娘の船体を押し潰すかの様に折り重なっていた。一見すると船の墓場で折り重なる廃船に見えなくも無い。
全長100ショーク、全高30ショークはあろうかという巨大なう○こ娘の本体がその2隻に伸し掛かられても必死に飛び立とうと後部の外燃機関を吹かしているが、流石に自身の2倍の重量を跳ね除ける程の推力は無い様であった。
ちなみにインターフェイスフィギュアの方は丸で捕らえられた矮人の様な格好で、配色と服が所々違う全く同じ背格好の新たなう○こ娘ズに両脇をガッチリと抱えられていた。
聞けば、やはり朕達とう○こ娘の会話は同型艦に盗聴されていたらしい。
でもって、う○こ娘と同様にクラスリーダーを狙う個体が朕達が去った後に、艦名を求めてやってきた、という次第であった。
「お初にお目にかかるでゴザル。本艦、星征艦隊第二○一予備戦隊第三警戒隊所属、強襲軌道降下突撃艦第865号建艦計画型27番艦と申す者にゴザル。不躾ながら本艦も艦名を頂戴したく、出来れば一番最初に頂戴したく、此度参上仕った次第にゴザル。非力の身なれど、粉骨砕身、ライラ殿のお役に立つべく、奮励努力致す所存。畏み、畏み、お頼み申すでゴザル!」
「本艦、星征艦隊第二○一予備戦隊第三警戒隊所属、強襲軌道降下突撃艦第865号建艦計画型289番艦ッ〒ューσ。本艦м○艦名欲Uレヽナょッ〒♡。∋3μ○〈ゥー。≠ャ八ッ☆」
……289番艦の方は流石にちったぁ読む方の事も考えろ、と思ったが、まぁ彼女等は音声で意思疎通するわけではないので問題無いのかもしれぬな。頗るユーザーフレンドリーさには欠けるが。それにあの喋り方を三白眼の無表情でやられると、怒りよりも呆れが先行する。其方は喋る胡桃割り人形か何かかえ。や、逆に外連味タップリな表情付きだったら問答無用でイニシャライズしてやるところであったがの。
さて、チンチクリンが増えてしまったが、まぁ良かろう。安い労働力は多いに越した事はない。
兎に角、早いところ秘密基地を作ってしまわなければならない。なにせ冬の足音がヒタヒタと聞こえてくる時分、雪でも降ったら建設途中で中断なんてしては目も当てられん。
ライラは増えたう○こ娘ズを見てガックリと膝を着いていたが一人も三人も変わり有るまいて。ポチ、タマ、後何か適当なのでお茶を濁しておけば良い。
騒々しく囀るう○こ娘1号に適当にマインドクラッシャーをかまして黙らせてから待つこと暫し。
僚艦が突然「アヘェッ!」と白目を剥いて力無く項垂れたのを見て、両脇を抱えたう○こ娘2号と3号が困惑と恐怖の混じった視線を向けてくる。序に1号の項垂れた頭はポクリと木魚のような音を立てて地面に落ちた。まだ直っておらんのかその首。
コロコロと力無く転がる1号の頭を血の気の引いた視線で追う2号と3号に、其方らも真面目にやらんと思考回路に過負荷をかけるぞえ、と少しオドを強めに流しながら釘を刺すと2号と3号は脇の締まった海軍式の敬礼で持って答えた。右腕が塞がっているからと言って左手で敬礼をしてはならぬぞ3号よ……態とやっておらぬか此奴……。
暫くして再起動した彼女に先日申し渡した作業の成果を案内させる。
ライラもいつまで膝間付いておるのだ。ほれ、行くぞえ。
「この辺りが最適と判断したのです」
一号の擱座地点から半刻ほど森の中を行くと、北東に小高い丘陵を背負った開けた広場が顔を覗かせた。
丘陵には鬱蒼とした背の高い木々が生い茂り、丁度平地にならされた広場の三分の一程を覆い隠す様に濃い木陰を作り出している。
成程。上空からの隠蔽性を良く考慮しておる。生い茂っている木々も常緑樹のライブオークであり、冬になっても上空からは見つかりにくそうだった。
朕たちの立つ広場も姦し娘たちが切り開いたようで、所々木の根を掘って埋めた跡が見受けられる。切り倒された木々は広場の隅に枝を払った状態で積まれていた。
その傍らに目を向ければ、真っ黒い四本足の巨大な蜘蛛のような金属の塊が前足の一つを挙げて手を振るような動作をしている。その隣には大人の倍は有ろうかという大型の人影。そいつも律儀に太い金属の腕を上げて何処となく嬉しそうに手を振っている。何故か人型の方は胴体部分に、蜘蛛型の方には体の正面部分に1号の物と同じと思われるデフォルメされた給仕服の模様が防弾性能の為かやけにのっぺりとした形をした装甲の全面に描かれていた。
「あれは其方等の搭載機かの?」
「そうなのです!本艦の艦載兵器なのです!小さい方が工作用で、大きい方が戦闘用なのです。あれでこの広場を造ったのです!」
未だに両脇を抱えられてズルズルと引き摺られてきた1号が両手で抱えるもげた頭が得意げに語る。「拙者も造ったで御座る!」と2号3号がギャースカ喚くのが煩い煩い。
見れば確かに人型の方は背中から物騒な物を覗かせていた。
「……あの妙竹林なペイントは何ぞ?折角の迷彩が台無しであろうに」
森林に対応する為か斑らなカーキ色で塗られているにも関わらず、そこに目立つ白やら青やら黄色が配されている所為で妙に目立つ。
「ああやって見た目で識別しておかないと27番と289番が自分の艦載機と間違って収容しちゃうのです。この広場を作ってる時もいつの間にか本艦の艦載機が全部居なくなってて焦ったのです」
それで良いのか航空艦よ……。敵味方識別信号やら何やらあるで有ろう、と指摘してみれば、1・2・3号揃って「そんな使い方が!?」みたいな顔をするでない。
まぁ、元から共同戦線を張る場合に脱落した僚艦の搭載兵器の指揮を他艦が瞬時に引き継げるように母艦という概念が無いのかも知れぬが、何と言うか経験不足と言うか教育不足というか。
と言うか、コイツらのデータリンクシステムは本当に大丈夫であろうか。まぁ、機能としては実装しているが、彼奴等が使い方をわかっていない可能性は大いにある。
どんなに優れたマインドスフィアも、ヒトの想像力を模すまでには至っておらんし、何しろその物理的な構造からして全く違う存在なのだから仕方がない。ヒトの様に振る舞い、ヒトの様にヒトと接する事は出来ても、ヒトの描く芸術的絵画を自ら創造することは出来ない。逆に言えば機械学習によってヒトには想像も付かぬ複雑怪奇な構造物を創りあげる事も出来るのであるから、やはり教育は大切であるな。
大方、彼奴等は建造されて最低限の機能を活用する為のプログラムだけ施されて、取り敢えず待機していろ、とばかりに放って置かれたのであろう。1号の言動も裏付けておるしな。
なかなか、今世の星征艦隊は色々な問題を抱えているようである。『帝国』の『皇帝』は何をやっておるのか。それを差配するのが貴様の役目であろうに。
「それで、水源は?」
「あそこに井戸を掘っといたのです」
褒めろ、とばかりに胸を張る1号が指差す先にはポッカリと人が入れる位の穴が地面に口を開けている。
地下水脈を見付けるだけではなく、掘削までして終わらせているのは中々良い心がけであるが、人が落ちないよう囲いが無いのはその手の知識がやはり不足していると見える。減点。
穴を覗いてみれば20ショークはないで有ろう縦穴の底に水溜りができているのが見えた。もちろん綺麗で透明度の高い飲料に適する水ではなく、泥水の様である。水深は数十センチといった所かの。
これでは井戸ではなくて唯の縦穴であるが、まぁ縦穴を掘るのが一番の苦労だから、良しとするか。
「其方等、濾過槽を作れ。この穴をもう、1メートル程掘り下げよ。そしたら中に拳大の石と砂利を混ぜて穴に放り込め。成るべく均一な混ざり具合になるようにな。50センチ程度砂利と石の層を作って、その後は砂利と砂の層をもう50センチも積み上げるのだ。使う石や砂利、砂は綺麗な方が良い。病原菌のついていない綺麗なものだ。軽石などがあるとなお良い。検疫はできるな?近くに清浄な小川でもあるのであればそこで洗ったものを使うが良い。その後、穴の壁面に同じく検疫・洗浄済みの石を敷き詰めよ。押し付けるだけで良いぞ。その代わり水を汲むのに邪魔にならない程度にな。あとでモルタルで固めるから、終わったら知らせるが良い。後は、適当な石でも岩でも良いが、井戸の口を囲っておけ。ライラが落ちてしまっては事だ」
朕の指示を聞いて、三人が其々に了解を告げて駆け出して行った。途中互いに足を引っ掛けあって三人とも盛大に転けているのは頂けないが、まぁ好きにすれば良いだろう。1号の体が転んだ拍子にどこかへすっ飛んでいった自分の頭を探してフラフラと彷徨っていたが、まぁ、大丈夫で有ろう。多分。其方、頭に視覚素子は付いてないであろうに。変な所だけ凝る奴だ。
取り敢えずは、水が無いとモルタルが捏ねられないので、彼奴等が井戸を完成させるまでに他の必要な部分を考えてしまおう。井戸が完全に仕上がるまでには沈澱期間などを経て4、5日はかかるであろうが、濁った水でもモルタルは捏ねられる。どうせ土と混ぜて使うのだから多少濁っていようと構わない。
問題は厠だ。できれば水洗式が衛生上最も好ましいが、下水の敷設が面倒くさいと言うより、現状では不可能だ。斜面を利用して落下式の下水溝を地下に掘って、どこかに垂れ流すのでも良いが、無闇矢鱈にやると獣が寄ってくるからな。出来れば川などに流せるのが良いが、それも追々であろうな。
最初は地面に穴を掘って、用を足したら土を被せて悪臭を防ぐ程度に成るだろう。穴が埋まってきたら、隣にまた同じ様な穴を掘って新たなトイレにすれば良い。比較的長期間、同じ場所に野営する場合によくやる手法だ。これで当分は何とかなるであろう。
まぁ、ライラが元居たグルニエどころか、トシュケルの下町はほぼオマルを使用していたから、ライラもその辺は問題ないだろう。
上水は、雨水でも貯めるかな。まぁ、それも先の話だ。当分は飲料水は井戸水を煮沸して使用することになるだろう。井戸が出来上がり、沈殿期間を経てからでないと判らないが、病原菌の類が居なさそうなら井戸水をそのまま飲料水にもできよう。これもトシュケルの下町では当たり前だから問題なかろう。
肝心なのは建てる小屋の立地だ。
当初はドーム型に土嚢を組んでカマクラの様な構造にしようと思っておったが、如何やらあの姦し娘達の木材加工能力は結構な物の様だ。正確には彼女等の艦載機の能力だが。これなら壁を土嚢で作って屋根は葺いてしまった方が面倒がないかもしれない。もしくは、一方に傾斜をつけた板屋根でも良い。
だが、板屋根は十分な防水性を持たせるには防水性の布や毛皮などを敷いてやる必要がある。葺屋根は大量の葺材が要るし、豪雨ともなれば耐水性などあってない様なものだ。
ならば板屋根にモルタルを敷くか。その上から木材のチップで覆ってやれば良い。ライラの住む下町のアパルトメントの構造と同じだな。
これであればドーム型よりも断然大きな小屋を作れる。これで行こう。
とすれば、立地はあの小高い小山の木々から延びた枝の下辺りが良いか。
とりあえず、ライラを呼んで部屋の間取りを考える為、地面に直接線を書いて縄張りの代わりとしてしまう事にする。なに、土嚢工法はとても自由度が高い。きちんと設計図を引いた家には流石に劣るとはいえ、設計図から多少ズレても、ズレたところに適当に土嚢やモルタルを詰めて塞いだり繋いだり均したりしてしまえば良い。
木造や石造りでは、ミリ単位のズレですべて最初からやり直し、何て事もザラであるからして、その点自由度が高いというかある意味で粘土を捏ねるような工法である土嚢工法は気楽なものである。
ライラを呼んで――まだ凹んでおった――好みの間取りを尋ねてみることに。
「よくわかんない。今住んでるグルニエと同じ作りじゃダメなの?」
が、返って来たのは、なんと言うかあまり参考にならない答だった。
まぁ、ライラは孤児院と今のグルニエしか部屋を知らんのだから仕方無いな。
「いや、ダメでは無い。だが、なんかモーちょっとこう、あるであろ?今の部屋で不便している事とか、こんなの有ったらイイな、とか。そうだな、暖炉とかどうだ?」
正直暖炉は是非とも導入したい。調理場を兼ねる上に、碩術には延々と加熱が必要な薬やら諸々が腐る程ある。
今のグルニエは小さな竈が一つきりである。部屋の暖房には向かないし、何より同時に一つしか加熱することができない。加熱出来る物は竈の上に載せられるものだけだし、何よりパン等を焼くオーブン機能がない。これは致命的だった。
「暖炉!それイイかも!……でも、暖炉って石で作るんじゃない?」
それは一般的な暖炉であるからして、やりようは幾らでもあるのだが、と言うか、暖炉自体が囲炉裏を壁に埋め込んだだけのものなので、不燃性の建材で囲ってやれば暖房効率はとやかくとして、機能はするのだ。
と、そこまで考えて朕ははたと思い出した。
そう言えば暖炉は頗る燃焼効率の悪い代物であった。
元々が野外で行う焚き火を部屋の中でやってるだけなので、燃焼効率が悪いのだ。発生した熱量の九割近くが部屋の暖房に使われないのだ。その為、燃料の消費も非常に激しい。一冬越えるためには山のような薪が必要である。考えてみれば、冬が訪れるまでにもうそんなに時間がない。小屋を建てた後に薪を調達する時間が多分足りない。
「いや、暖炉はやめたほうが良いかもしれんな。薪を集めるのが骨だ」
「……えぇ?でも暖炉あると冬あったかいよ?今の部屋、冬すごく寒いんだよ。いくら着てもガタガタ震えちゃう」
うーむ。如何にするか。燃焼効率の高い暖炉は割と簡単に作れるのだが、鉄板が要るのだ。フランクリンストーブと呼ばれる暖炉を少し改造した物で、バッフル板と言う吸気口と排気口を区切る板を使って空気の流量をコントロールする事と、輻射熱を発生させる為の鉄か銅製の衝立が有れば良いのだが、鉄板を切るだけでも良いので金属を加工する必要がある。薄いものならば金切鋏があれば良いのだが、金切鋏で加工できる厚さの鉄板だと今度は暖炉の熱で直ぐに変形してしまう。ある程度の厚さの金属板を加工するには、一番効率が良いのはプラズマカッターなのだが、そんな物が地上世界にあるはずも無く……。
それに鉄ものう。鉄板は割とというか、物凄く高いのだ。片手鍋の比ではない。鉄と言うものは地上世界でも割とありふれているから実感が湧かん事が多いが、鋼板と言うものは非常に高度な技術によって生産されている物なのだ。
「石持ってきたのですぅー!」
と、そんな事を考えていたら、姦し娘達が何処ぞの笛吹の如く、彼女等の艦載機であろう巨大な人型の兵器を引き連れて戻ってきた。
人型の艦載機達はそれぞれかなり大きな、それこそ自身と同じぐらいの大きさの岩を背負っている。
いや、それは石ではない、岩だ。大きすぎる。と思ったのだが、人型の兵器達は背負ってきた岩を下ろすと、蜘蛛の様な艦載機達が担いできたパイルバンカーのような道具で岩を割り始めた。
成る程。手頃な大きさの石と砂利と砂を一気に手に入れようと言う魂胆らしい。中々考えておるではないか。
そんな兵器達の姿を見て、ふと、朕は思いついた。
「其方等、鉄板持っておらんか?ついでに、その蜘蛛っぽい奴、鉄板切れんかの?」
此奴等は曲がりなりにも戦闘艦。損傷した場合はダメージコントロールや応急修理を行うのは当たり前として、その為の資材も加工技術も持っているはずである。
「え゛?何なのですかブッシュからスティックとはこの事です」
「なーんじゃ。持っておらんのか」
「持ってるのです!でも補修資材とは言え、それは星征艦隊の備品なのです!大罪人に渡すわけにはいかないのです!」
まぁ、そうであろうの。
「了ーU/U士゛レヽ、分(ナ〒了(十゛ゑ」
「よく言った!其方に一番に名を授けてやろう!」
「ナンデェぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?なのです!」
しれっと、右手を上げて資材の提供を申し出る3号。
喋り方はアレだが、愛い奴である。
「当たり前であろう。我らが秘密基地の建造に一番貢献した者に名前を与えるのは当然」
「ちょちょちょちょっと待つのです!それじゃこの大罪人に渡した資材はどうするのです!?棚卸の時足りなくなるのです!補給隊の奴らにドヤされるのです!」
棚卸があるのか其方等。
「T=゛レヽU゛ょ宀,3,゛。124番/修理UT=⊃〒事(=£ゑ」
「ずっずっずっ……ずっこい!のです!他艦を出汁にして!」
「じゃあ、拙者は124番艦の修理を手伝った体で切断溶接加工用に工作型を一機貸し出すでゴザル」
「ダメーーーーーッ!なのです!それじゃ本艦が関われなくなるのですーーー!!!」
ぎゃいぎゃいと姦しく言い争いをした挙げ句、289番が鉄板を、27番が工作型の艦載機を、124番が予備としてどちらも供出することで話が纏まったようである。2枚も鉄板いらんのだがの。まぁ、排気ダクトにでもするか。
「ここをこういう風にしてだな」
「なる程。燃焼室とは別に空気取り入れ口を作ってドラフトで区切れば良いでゴザルな!」
「ドラフトじゃなくてバッフル板な。バッフル板は押したり引いたりして空気流量を調節できるようにするのだぞ。バッフル板の開け締めで空気流量を調節して排気の速度を変えるのだ。排気管内で煙突効果によって負圧を生み出して排煙を引っ張る事でストーブ内の温度を調節する。熱源からの熱は周囲を囲んだ鉄板で受け止めて輻射熱で室内を温められるようにするのだ。バッフル板を全開にすれば煙突効果が強まって、排煙と一緒に熱源からの熱量を一緒に排気できるようにだな……」
地面に図面を描いて姦し娘共にストーブの構造を説明する。
どうせフランクリンストーブ作るならもっとコンパクトで暖房効果の高いものが良い。聞けば姦し娘共の艦載機は装甲板の修理もできるように設計されているらしいので、鉄板の切断も溶接もお手の物。ならば据え付け型のフランクリンストーブよりも、という事でロケットストーブ型の薪ストーブの構造を説明してやる。
ロケットストーブとは簡単に言えばL字型の筒の短辺の方に上下の仕切りを作り、仕切りの上側を燃焼室として薪を燃やすシンプルながら火力の強い竈の一種だ。仕切りの下側から空気を取り込み、L字の長辺内に強い煙突効果を生むことで燃焼室への空気流量が多くなり、火力が増す。
この熱源に輻射熱を生む為の覆いを取り付け、さらにバッフル板で空気流量をコントロールすることで火力と煙突効果の強弱をコントロール出来るストーブが薪ストーブだ。
バッフル板を開ければ煙突効果が強まりストーブ内に発生する熱が排気と一緒に抜け、直火になる調理用の天板のみが温められる為、夏場でも部屋がそれ程高温になることもなく、バッフル板を閉めれば煙突効果が弱まってストーブ内に熱が籠もり、輻射熱で部屋を強力に温める事ができる。
ちなみに燃焼効率が高いため、灰と煤の排出量も少ないというイイコトずくめの代物である。部屋の中で暖房器具と加熱器を兼用できて省スペース化にも貢献する。ちなみに普通の暖炉と比べると熱効率が10倍近く違うのだ。少ない燃料で大きな仕事効率を発揮できる代物と言える。
「大きさはこのぐらいで――」
ついでに図面を引いてやる。各パーツの寸法と組み立て方を地面に描いてやれば、
「作業開始するのです!」
寸法が判れば後は任せろ、とばかりに姦し娘達は船体の方へ走っていった。
さーて、次は小屋の方の寸法だ。
ストーブの説明をしている間、死んだ魚のような目で地面に姦し娘達の名前候補であろう単語の羅列を地面に書き付けていたライラを呼んで、彼女の希望を聞き出す。
「居間と寝室が有ればよいかの?」
「水事場とかあると洗濯とかする時に便利じゃない?」
「ふーむ。シーリングが面倒だのぅ。いっそ外に屋根を作れば良くはないかの?」
風呂とか要るか、と思ったのだが、良く考えてみればこの辺は入浴の習慣がなく、沐浴が主流らしい。ライラもグルニエでは行水のみだったからの。トシュケルには公衆浴場すら無い。
まぁ、そのうち龜風呂でも作るか。誰が見るわけでもなし、屋根付けて外にポン置きでよかろ。
やろうと思えば土嚢工法で複雑な間取りの小屋を作ることも出来るのだが、これはライラのテレキネシスの訓練を兼ねていることを考えれば、長方形の小屋にしたほうが無難だ。
その辺の事情をライラと詰めて、結局長方形の小屋全面を居間として、壁際にハンモックを吊るす方向で固まった。ハンモックは割と構造が簡単である。長方形の丈夫な布の四隅に紐をつけて、短辺側に着いている紐同士をそれぞれ二箇所で吊るすだけ。
ベッドのような工作も必要なく、地面に直に寝るのと違って、底冷えもしない。まぁ、ある程度の防寒は必要だが、コストパフォーマンスが頗る良い。
しかも使わない時は小さく畳める上に、後から人が増えたとしても直ぐに増設ができる。
まぁ、増設するような事態にはならない事を祈るばかりだの。
そうと決まれば、先ずは縄張りだが、晩飯の用意やら仮の寝床を作らねばならぬので今日の所はお開きとした。
そろそろ日が傾いてきているからな。
仮の寝床としてライブオークの葉付きの枝を何本か折って、それで寝床になる下敷きと朝露を凌ぐヒサシを作り、姦し娘達が切り倒した木材を拝借して焚き火を熾す。
今日のディナーは先日のキジの残りとここに来るまでに摘んでおいたマッシュルームと市場で買ってきた根菜の鍋である。
食料は3日分しかないので明日からは狩りに出ねばならぬな。
これからを見据えて奮発したダッチオーブンの中でクツクツと煮えたスープに、パン屋で買い込んだ黒パンと一緒に一口食べたライラは満面の笑みであった。
まぁ、料理とは、碩学の基礎であるし、小屋が出来たらライラにも教えてやろう。正直、ライラの節約鍋はあまり美味くないのでな。
食事を済ませてライラにまた星の見方を教えながら、朕達は床に就いた。




